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行き詰まった朝米交渉の脱出口は…「一方的な非核化より、軍備統制で説得すべき」

登録:2019-11-27 08:10 修正:2019-11-27 16:31

対談 | ムン特別補佐官が尋ね、ジャクソン教授が答える 
 
非核化の圧力の中止や終戦宣言など 
「米国、北朝鮮に一方的な先制措置で 
『敵対的ではない米国』を見せるべき」 
 
在韓米軍削減の報道が出るが 
「在韓米軍の軍事態勢を現代化すべき 
米国の安保戦略上の削減は必要」 
 
軍備統制に切り替えるべき理由とは 
「北朝鮮への非核化の圧力では問題解決ならず 
軍備統制の追求が唯一の解決策」

2019年11月21日、ソウル鍾路区の東アジア財団でムン・ジョンイン大統領統一外交安保特別補佐官(左)が、ベン・ジャクソン新アメリカ安全保障センター(CNAS)主任研究員(ニュージーランドのビクトリア大学ウェリントン校教授)と対談している=ノ・ジウォン記者//ハンギョレ新聞社

「この30年間、米国の対北朝鮮政策は“失敗”した。失敗から何も学ぶことができなければ、悲劇が繰り返される。直面する北朝鮮核危機と戦争のリスクを下げるため、 『軍備統制』(arms control)パラダイムへの転換を模索しなければならない」(ベン・ジャクソン新アメリカ安全保障センター(CNAS)主任研究員・ニュージーランドのビクトリア大学ウェリントン校教授)

「トーマス・クーンは科学革命の構造を説明し、継続する難題と危機を従来のパラダイムで解決できない時、新しいパラダイムが登場し、これを解決してきたと主張した。この30年間の『非核化パラダイム』はむしろ核危機をもたらした。“パラダイムの転換”が実現できる環境が整った」(ムン・ジョンイン大統領統一外交安保特別補佐官)

 ベン・ジャクソン教授は座礁する危機に直面した朝米交渉について、「米国が北朝鮮に敵対的でないことをいかに示すかがカギとなる」とムン・ジョンイン大統領統一外交安保特別補佐官に語った。ベン・ジャクソン教授は、冷戦が幕を閉じてからこれまでの米国の対北朝鮮政策が、北朝鮮の核開発を阻止するどころか、核兵器の高度化を事実上放置したと主張する。この30年間の北朝鮮政策は“失敗”だったという指摘だ。

 ジャクソン教授は2009~2014年、バラク・オバマ政府時代、米国防長官戦略担当官・政策補佐官を務めた民主党系列の国防・安保専門家だ。そして、「敵対的でない米国」を立証するためには、米国がまず一方的な措置を取る必要があると提案する。(1)「非核化」レトリックの使用の中止(2)北朝鮮との「安定的共存」の表明(3)北朝鮮と戦略安保対話の制度化(4)「核配備の止」の大統領行政命令(5)終戦宣言がそれに当たる。

 また、こうした措置が「米国の利益にも合致するものであり、決して譲歩するわけではない」とし、「核の安定性を高める措置だ」と強調する。そして、米国の独自的措置の後、第1段階(凍結→「戦術核兵器」の事前禁止→北朝鮮のミサイルシステムの稼動中止)と第2段階(「核なき海」イニシアチブの発動→兵器の撤退開始→核申告)で行われた交渉イニシアチブを提案する。

 さらに、彼は北朝鮮と交渉で活用する誘引策(一方的処置ではない)5つを提案した。第一に平和体制プロセス、第二に在韓米軍の段階的削減、第三に協力的脅威の削減(Cooperative Threat Reduction・CTR)プログラム基金、第四にスナップバック(Snap-Back)方式の制裁緩和、第五に制裁解除の作業部会の設置・稼動だ。

 「スナップバック」は制裁を緩和・解除するものの、北朝鮮が合意に違反した際には元に戻す方式を意味する。ハノイで開かれた第2回朝米首脳会談の際、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長とドナルド・トランプ米大統領が話し合ったが、最終合意に至らなかった。協力的脅威削減プログラムは、旧ソ連の核兵器の解体や核科学者の転職などを、米国を含む国際社会が財政的かつ技術的に支援したもので、北朝鮮にも適用しようという提案だ。「在韓米軍の削減」は、米国の安保専門家たちはなかなか取り上げない破格の提案だ。

 ジャクソン教授は、在韓米軍の削減とスナップバックが特に北朝鮮に価値ある提案として受け入れられると予想した。一方、米国が払わなければならない費用は普通あるいは低いと分析した。“コスパ”が高い提案という主張だ。

 ムン・ジョンイン特別補佐官は、ジャクソン教授のこのような提案を「米国が交渉に真剣で敵対的でないことを示す非常に注目すべきシグナルとして、北朝鮮に受け入れられるだろう」と評価した。

 ジャクソン教授の提案は、 「非核化への圧力を北朝鮮が一方的な武装解除要求と受け止めている」という現実認識に基づいている。ジャクソン教授はこうした提案を従来の「非核化パラダイム」と区別される「軍備統制(Arms Control)パラダイム」と呼んだ。ジャクソン教授は21日、東アジア財団で、このような提案を柱にした講演を行ってから、ムン特別補佐官とも一時間以上対談した。

2019年11月21日、ソウル鍾路区の東アジア財団でベン・ジャクソン新アメリカ安全保障センター(CNAS)主任研究員(ニュージーランドのビクトリア大学ウェリントン校教授、左)が発表している。右はムン・ジョンイン大統領統一外交安保特別補佐官=ノ・ジウォン記者//ハンギョレ新聞社

 ムン・ジョンイン(以下ムン) まず、懸案に対する意見を聞きたい。(最近議論になった)韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が米国の国家安保にそんなに重要なのか。

 ベン・ジャクソン(以下ジャクソン) (米国の安全保障には)利益になるが、GSOMIAが直ちに現時点で米国の地域安保において必須であるわけではない。米国防総省関係者のほとんどは同盟同志の連携を強化することを望んでいる。米国がすべての瞬間において同盟国に不可欠な存在にならなくてもいいようにするためだ。韓日関係とGSOMIAを支持する者としては維持を望むが、(GSOMIAを延長するかどうかを)決めるのは韓国だ。

 ムン 米国が今回の防衛費分担金交渉で50億ドル(約6兆ウォン)を要求していると聞いた。分担金累積総額が10億ドル近く残っているにもかかわらず、50億ドルという費用を要求しているという。

 ジャクソン 韓国の外で行われる活動と軍事力に対してまで費用を要求するということだが、明らかにあり得ない要求だ。同盟関係の専門家たち、特にアジアと韓国専門家たちはこのような主張を支持しない。米国の官僚らはトランプが強調した「50億ドル」という数字を正当化するため、(総額を予め決めてから)逆算して(項目を)設計している。

 ムン 韓国が米国の期待に応えなければ、在韓米軍を削減するという報道まで出ているが、「在韓米軍の削減」はあなたが提示した交渉誘引策にも含まれている。

 ジャクソン 米国は、北朝鮮が事実上核保有国になったという事実を受け入れ、韓国で在韓米軍の軍事態勢を現代化する必要がある。核を持つ国に対して、いわゆる「導火線(tripwire)効果」を期待することは論理的に不可能だ。導火線理論は、在韓米軍を攻撃すれば、直ちに米国が30万~40万ほどの兵力を日本と釜山(プサン)を通じて送ることができるということだ。しかし、核能力に対抗して兵力を送り始めれば、結果的に誰が核攻撃を受けるかを考えてみよう。日本と釜山がすぐに攻撃を受けるだろう。通常戦闘態勢では核攻撃に対抗できない。

2019年11月21日、ソウル鍾路区の東アジア財団でベン・ジャクソン新アメリカ安全保障センター(CNAS)主任研究員(ニュージーランドのビクトリア大学ウェリントン校教授)がムン・ジョンイン大統領統一外交安保特別補佐官と対談している=ノ・ジウォン記者//ハンギョレ新聞社

 ムン(対談前の)発表で、対北朝鮮政策の「パラダイムの転換」を強調した。これまでの「非核化パラダイム」が支配的な状況で、「核軍備統制」という新しいパラダイムに移るべきだという提案だった。

 ジャクソン 基本的に非核化は北朝鮮に対する「マキシマム・プレッシャー」(最大限の圧力)や脅威、強圧を正当化する。決して賢明でない危険を冒すよう米国を突き動かしかねないという点で、逆説的に極めて危険だ。米国が、北朝鮮と交渉の場でいかなる合意であれ、北朝鮮の一方的な核軍縮に向けた過程になると主張する限り、北朝鮮はこれに絶対従わないだろう。特定の状況が作られてこそ、北朝鮮が自ら核兵器を抑制、統制し、生産を止め、究極的には核能力の一部をなくすことに乗り出すだろう。

 ムン そのような状況作りのために、あなたが提示した米国の先制的かつ独自の行動とは何か。

 ジャクソン 第一に、核問題に関する言及を止めるべきだ。非核化は北朝鮮の一方的な軍縮と同義語であり、北朝鮮にとっては暗黙的に脅威と見なされかねない。第二に、米国は北朝鮮を侵略する意図がなく、北朝鮮が米国の同盟を脅かすことがない限り、米国と北朝鮮は平和に共存できることを発表しなければならない。第三に、外交当局を越えて、軍当局へのチャンネル拡大など対北朝鮮包容・介入政策を増やす必要がある。第四に、最も重要なのは、ホワイトハウスが「大統領が承認しない限り、韓国に核兵器の配備(核戦略資産展開)を禁止する」という“行政命令”を作成するようにすることだ。米国が自らを抑制しようと努力しているというシグナルを送るためだ。従来とは異なるアプローチをしていることを示す言葉と行動が必要だ。第五に、政治的な問題だが、法的手続きとは別に、朝鮮戦争が終わったことを宣言しなければならない。

 ムン トランプ大統領はすでに「朝鮮戦争が終わるだろう」(2018年4月27日、ツイッター)と言ったこともある (笑)。それでは、米国がそのような独自の行動をした後に北朝鮮が肯定的な反応を示せば、その次の段階は何か。

 ジャクソン 北朝鮮の核能力に対する検証可能な凍結が実現しなければならない。

 ムン ところが、凍結のためには“申告”が必要ではないか。

 ジャクソン そうだ。しかし、それは核申告書の提出ではない。我々は、金委員長の「浴室(bathroom)」、つまりプライベートな空間は除外するという原則に基づき、検証可能な凍結を行う必要がある。このような状況でも、依然として北朝鮮は“敵”だ。敵には秘密を守る一種の権利がある。できる限り多くの核査察団を派遣し、現地調査を行う必要があるが、我々が(望むものを)100%を得られないかもしれないのは認めるべきだ。

 ムン 強制的な申告ではなく、国際原子力機関(IAEA)などを通じた「自発的な申告」を意味するのか。

 ジャクソン そうだ。検証のため、核査察の最大値を交渉で決めなければならない。

 ムン 凍結の次は何か。

 ジャクソン 戦術核兵器を事前に禁止することだ。戦術核兵器は低いレベル(low-yield)の核兵器だ。核弾頭もかなり小さく、爆発強度も制限的であるため、むしろ使いやすく、最も危ない。北朝鮮は自らの核計画を凍結し、我々は(1991年、朝鮮半島で米国の戦術核を撤収した基調をそのまま続けて)戦術核兵器を韓国に持ち込まないという相互間の約束を制度化する必要がある。

 ムン 次に提示したのが「北朝鮮のミサイルシステムの運用中止」だ。

 ジャクソン ミサイルシステムを警戒態勢に置かず、配備せず、使用のために現場に投入もしないという約束を取り付けるのだ。

 ムン ここで北朝鮮のミサイルシステムというのは中・短距離ミサイルと大陸間弾道ミサイルの両方を指すのか。

 ジャクソン 私が言うのは中・短距離ミサイルだ。事実上、北朝鮮が大陸間弾道ミサイルを使う状況になれば、“ゲーム”は完全に終わってしまう。北朝鮮としても取り出し難いカードだ。米国の同盟国を直接的に脅かす中・短距離ミサイルの脅威の抑制を交渉の優先順位に置くべきだ。

2019年11月21日、ソウル鍾路区の東アジア財団で、ムン・ジョンイン大統領統一外交安保特別補佐官がベン・ジャクソン新アメリカ安全保障センター(CNAS)主任研究員(ニュージーランドのビクトリア大学ウェリントン校教授)がと対談している=ノ・ジウォン記者//ハンギョレ新聞社

 ムン 軍備統制的アプローチの最初の段階は予備的な、かなり受動的な安定管理方法かもしれない。となると、次の段階は何か。

 ジャクソン 「核なき海」のための措置を施行しなければならない。朝鮮半島周辺海上に核兵器を配備しないという約束を交わすのだ。

 ムン 次の段階として「ロールバック」を提示したが、それは何か。

 ジャクソン 核弾頭とミサイルの数を減らすことだ。固体燃料を使うミサイルは、奇襲的な発射が可能という点で、真先に除去しなければならない。そして、韓国や日本など同盟国を脅かす中・短距離ミサイルの除去が優先されなければならない。大陸間弾道ミサイル能力はまだ中・短距離ミサイルほど完成されていない。

 ムン 非核化パラダイムでは、交渉要求事項として核申告書の提出が前面に出ている。兵器統制的アプローチで核申告書の提出を最後の段階として提示した理由は何か。

 ジャクソン 申告書は透明性を確保するためのものだ。しかし、透明性は信頼があってこそ確保できるものだ。米国と北朝鮮には信頼がない。まず信頼を築かなければならない。

 ムン 昨年9月、平壌(ピョンヤン)首脳会談中に北朝鮮の高官と非核化と申告関連問題について話し合う機会があった。「信頼がない状態で、どうやって北朝鮮が米国に核兵器申告ができるのか」と言っていた。事実上、(米国に)打撃すべき目標を教えるようなものというのが彼の主張だった。また、米情報当局の分析の結果、北朝鮮が60~65個の核爆弾を持っていると仮定した状況で、北朝鮮が(核爆弾)30個を持っていると申告した場合、果して米国が北朝鮮を信じるだろうかとも言っていた。交渉は中断され、信頼は崩れるだろう。そうなれば、状況はさらに厳しくなりかねないというのが、彼の見解だった。

 ジャクソン 正確な分析だ。米国が敵対的でないことをどう示すかがカギとなる。時間をかけて、言葉と行動で示されなければならない。

 ムン 「径路依存性(path dependence)」のため、これまで走ってきた呼吸を変えるのは難しいかもしれない。米国や日本、韓国はこれまで北朝鮮の非核化を強調しており、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)と「最終かつ完全に検証された非核化」(FFVD)を目標であると主張してきた。

 ジャクソン 経路依存性は、我々が悪い選択をするように閉じ込め、北朝鮮に対する考え方を狭めた。CVIDとFFVDへの“執着”がもたらした結果を見てほしい。北朝鮮は20年前にはなかった米本土を攻撃する兵器を含めて最大60個程度の核兵器を持っている。

 ムン 文大統領は「核兵器の脅威がなく、戦争の恐れがない平和で繁栄した朝鮮半島」を作るビジョンを明確にした。軍備統制的アプローチは、韓国の目標と相反する感じもするが、どうすればいいのか。

 ジャクソン バラク・オバマ大統領もエジプトのカイロで「核なき世界」に向けたビジョンを宣布した。皆が夢見るべき未来であることは確かだが、これは非核化という目標が政策を主導してきた結果、韓国は危機に直面し、最大の圧力の落とし穴に落ちてしまった。核なき朝鮮半島を夢見るのは良いことで、熱望すべきことだが、これが詳細な政策設計を主導するのは困難だ。野心に満ちたビジョンを描きながらも、実用的な政策を推進する必要がある。

 ムン 最大限の圧力は、米国はもちろん韓国と日本でも依然としてバイブルのように思われている。

 ジャクソン とても危ない状況だ。我々が挑発と呼ぶ北朝鮮の攻撃は、米国の圧力に対する反作用だった。北朝鮮の戦略的特性上、我々が最大の圧力を加えれば、北朝鮮はこれに屈するのではなく、自分たちの方式で最大限の圧力に対抗し、危機状況を作り出す。結局、核・ミサイル発射実験に突き進み、脅威だけが高まるだろう。

 ムン 最後に、スナップバック方式の制裁緩和と関連し、トランプ大統領がこの問題を今年2月にハノイで開かれた第2回朝米脳会談で金正恩(キム・ジョンウン)委員長と話し合ったという。実現できるだろうか?

 ジャクソン イラン核合意の際の前例がある。トランプも制裁緩和に興味があるようだ。米国にとって最大の問題は制裁緩和を行って何を見返りとして受け取るかだろうが、間違った考えだ。北朝鮮はすでに核兵器を持っている。残念ながら、米国は交渉において有利な位置を占めていない。

ノ・ジウォン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/918605.html韓国語原文入力:2019-11-26 20:42
訳H.J