2日後にウォル号沈没事故発生から6か月を迎える14日午後、京畿道安山(アンサン)の檀園(タンウォン)高校運動場では、秋の日ざしの下、男子生徒たちがサッカーをしていた。女子生徒らは休み時間に教室の外に三々五々集まって座り、笑いながら話を交わしていた。一部の生徒たちのカバンに付けられた黄色いリボンを除けば、表面的には普通の高校と変わらないように見えた。
しかし、目を凝らすと250人の生徒を失った惨事の傷跡がすぐに目に入ってくる。修学旅行に発つ前日まで子どもたちの笑い声で騒々しかっただろうかつての2年生の教室は、がらんとしていた。子供たちの笑い声が消えた跡には、先に逝った友だちを悼み悲しむ言葉の書かれたメモ紙と花でいっぱいだ。時計は4月16日で止まっているようだ。
生徒たちが使っていた机、椅子、ロッカーには、黄色い蝶の描かれた掌サイズの紙が貼ってある。行方不明のままの2年1組チョ・ウンファさん(17)の机には、誰かが「あんた、ほんとにずっと欠席するつもり? ウンファ、お願いだから!」と書いた紙切れが貼ってあった。
書かれている名前は違うが、日付は「2013.3.2~2014.4.16」と皆同じだ。彼らが檀園高校に入学した日からセウォル号事故が起きた日までだ。
セウォル号に乗った檀園高2年生325人のうち75人だけが生きて帰ってきた。檀園高校の生徒たち、特に2年生の生還生徒たちは、今なお、かつての2年生の教室にやってくる。ほとんど毎日、休み時間や昼休みになると、2年生の教室を見て回る生徒もいるという。生還生徒75人と修学旅行に行かなかった生徒13人は今、男女2組ずつ計四組に分かれて別の教室で授業を受けている。彼らは自分たちが勉強していた教室にぼんやり立って、花が置かれた友達の机を黙って眺めては、今の教室に戻っていく。帰ってこられなかった友達の机の前で泣いている生徒もいる。
ある生還生徒の父親は「娘は週末になると、何も言わずによくどこかに出かける。先週末にも出かけるので『どこへ行くんだ』と聞くと『安山のハヌル公園に行く』と短く答えた」と伝えた。ハヌル公園は、娘と親しかった友達5人のうち3人が眠っている追悼公園だ。父親は「乗せていってやると言ったら、『いいよ』と言って一人で出かけた。朝たまに娘の顔を見ると、一晩中泣いたのか目が腫れている時もある」と語った。
生還生徒の家族たちが最近独自に生還生徒75人の病院診療現況を調査した結果、高麗(コリョ)大学安山病院精神科で診療を受けている生徒は52人もいた。皮膚科や小児青少年科、脊椎外科、整形外科、耳鼻咽喉科など4~5つの治療に同時に通っている生徒も20人ほどになる。生還生徒の父母代表であるチャン・ドンウォン氏は「口数が急激に減って落ち込んでいるなど、子供たちはいまだに心の傷から抜け出せずにいる。一生を傷跡と不信感を抱いて生きるのではないかと思うと、怖くなる」と話した。
週末になれば決まって何も言わずに出かける
安山のハヌル公園などに
親たちは毎日交替で学校に
不安な気持ちで教室周辺を行ったり来たり
犠牲者の兄弟たちも“心の病”
チャットルームが唯一の慰め
心配でならない生還生徒の親たちは、毎日交替で檀園高の2階建ての本館にある校長室の隣の保護者常駐指導室に出向いている。指導室に座っていても、不安な気持ちになれば生還生徒が勉強している教室の周辺を行ったり来たりする。そして少し心が落ち着けば、誰もいない2年生の教室を回って机にたまったほこりを拭く。生還生徒の父母のうち何人かは、子どもの世話をしなければならないからと言って職場もやめた。
京畿道教育庁は安山教育回復支援団を組織し、檀園高校に心理相談及び治療チームを運営している。安山オンマウムセンターでも全市民を対象に心理相談などを実施している。しかし、ここで内心を打ち明ける生徒はそれほど多くない。
犠牲になった生徒の兄弟姉妹のうち小・中・高校生は147人いて、犠牲者の親戚にあたる生徒は187人だ。セウォル号沈没事故で末の妹チェ・ユンミンさん(17)を失ったチェ・ユナさん(23)は、犠牲になった他の生徒たちの兄弟姉妹など31人と一緒にグループカカオトークをしている。カカオトークのグループチャットの名前は「アンニョンハセヨ(お元気ですか)」だ。お互いにあいさつを交わしながら安否を尋ねているうちに、自然にチャットルームの名前が「アンニョンハセヨ」になった。今では一緒に食事をしたり、あれこれ話を交わしている。同じ痛みがあるためか、内心もよく打ち明けて話す。
彼らは、親の前では努めて大丈夫なふりをする。兄を失った中1の生徒の母親は「セウォル号事故の後、息子に大きな問題は感じなかったんですが、ある日学校から電話がきて『学校で授業に集中できず、ぼんやりしていることが多い』と言われた。(息子が)両親が辛いだろうと思って、わざと平気そうにしていたんです」と話した。
兄を失った中2の女子生徒は、同じクラスの友達が先生に「私たちどうして学園祭をしないんですか?」と尋ねるのを見て心に大きな傷を負ったという。まるで自分や亡くなった兄のせいで学園祭ができずにいるように感じられたからだ。チェ・ユナ氏は「子どもたちは友だちから理解は得られても共感は得られないと思っている。そうして子供たちは傷を受け続けている」、「冷酷な政府と一部のマスコミ、極右性向のネチズンたちも、彼らの傷をさらに深くしている」と話した。