政府とセヌリ党で不動産景気浮揚手段として分譲価格上限制を廃止し、住宅担保貸し出し比率(LTV)と総負債償還比率(DTI)制限など投機過熱と家計負債抑制のための装置を弱化させる案を考慮中だという。 新政府が持ち出した政策は旧態依然かつ近視眼的であり、何よりも我が国の住宅・不動産問題の核心を避けている。 韓国で“住宅”問題が深刻だということには皆が共感するが、正確に何が真の問題なのかを明確にして解決策の方向を定める必要がある。
第一には住宅価格の変動性だ。 1990年代以降の住宅価格の最高点と最低点の格差において、韓国は経済協力開発機構会員国中最高水準だ。 簡単に言えば、住宅価格が乱高下しているということだ。 変動性が高いということは予測可能性が低いという意味であり、住宅を買うかどうかと貸し出し規模を決める際に不確実性が高いという意味だ。 保有資産の多い金持ちは住宅価格が下落しても持ちこたえることができるが、大多数の中産層は政府の政策や新聞広告の誘惑に引かれて金を借りて家を買っては、ひどい目にあう。 その結果がハウスプアだ。
第二に、韓国で特に深刻な問題は住宅価格の上昇率より実質購買力、すなわち所得対比住宅価格の水準だ。 家の値段が上下する幅を問題にする前に、基本住宅価格自体がすでに韓国人の所得水準に比して高すぎる。 韓国は資産不平等と所得不平等がともに高い 数少ない国に属するが、所得分配をより公平にすることをせずに不動産景気をあおるのはこの二重苦をさらに悪化させることだ。 “実弾”のある少数の階層だけが家を買うことができよう。そして結局、長期的景気浮揚にも成功できない。
第三には、家計負債の問題だ。 現在、韓国の家計の所得対比貸し出し元利金償還比率(DSR)は非常に深刻な水準だ。 2008年の米国サブプライム崩壊当時ほどに高いのみならず、主要市中銀行の元金償還時点が到来すれば状況はもっと深刻になる。 住宅価格が所得に比べて非常に高く変動性が大きい条件下で、住宅担保貸し出しによる家計負債がずっと増加するのは非常に危険だ。 多くの人々はもうこの危険性をよく知っている。 単純に規制緩和では景気浮揚になり得ない理由もそこにある。
最後に、韓国は自分の家を持つ世帯比率が高くなく、借家人の境遇は極度に劣悪だ。 多くの先進国で持ち家と公共賃貸住宅が一緒に増加してきたのに比べて、韓国は全世帯の40%を占める借家人に対する保護が全くない。 韓国の賃貸借関係における“甲”の権利は、ドイツで保障されている“乙”の権利ほどに強い。 それで“持ち家”を渇望することになるが、その実現は構造的に遮断されている。 所得は低く住宅価格は高く、展望不安で借金負担が大きいためだ。
現在の政府・与党の方案は、住宅価格を引き上げて、より多くの借金をして家を買えるようにしようということだ。 それは上のすべての問題をさらに悪化させるだろう。 住宅価格上昇は余裕資金のある一部階層の投機利益と建設企業の短期利潤を高めるだけで、長期的景気振興にはつながらない。 規制緩和で不動産を活性化してハウスプアを救おうというのは、新規購買者の借金で既存購買者の借金を返す危険千万な自転車操業的発想だ。 構造的弊害が一つも改善されないで繰り返される可能性が高い。
住宅と不動産の構造的問題を解決する方向として大きくは、一方で所得基盤の不平等を緩和して住宅価格を購買力に相応する水準で安定化させながら、もう一方では賃借人の住居安定性を保障して、借金して家を買わなくても悲しい体験をしないで済むようにすることだ。
新政府が国民幸福時代を真に望むならば、この目標を達成するための創造的妙案を真剣に模索すべきであろう。
シン・ジンウク中央(チュンアン)大社会学科教授