多様な素材、多様なジャンルに進化している韓国漫画に、未だ不毛の地として残っている分野がある。 まさに‘政治漫画’だ。 1コマと4コマの時事漫画を除けば、政治を素材として話を描き出す政治漫画は見つけることも容易でない。 1994年から95年まで<スポーツ朝鮮>に連載されたホ・ヨンマン画伯の<鶏の首をひねれば夜明けは来ない>がほとんど唯一の政治漫画であった。
<内部者たち>(シネ21ブックス)は20年近い空白を跳び越え読者の前に再び現れた政治漫画だ。 カン・プルと共に韓国リアリズム漫画を代表してきたユン・テホ作家が、2010年から<ハンギョレ>インターネット オピニオンサイト‘フック’で連載している人気作で、単行本の初巻が最近出版された。 12月初めに2巻、大統領選挙終了時点で連載を終えた後、来年初めに最後の3巻を出す予定だ。
<内部者たち>は題名どおり韓国の種々の‘機関’と‘組織’の中で自分の利益のために隠密に活動する‘内部者たち’の醜悪な取引と陰謀を扱っている。
漫画の主人公は一時左派であったが変身した影響力1位の保守新聞論説委員、政治学者から政治家に変身し栄達だけを夢見る国会議員、財閥企業から支援金を受け取り情報を売る情報課刑事、そして論説委員と知り合いになり交際したある組織暴力団のボスだ。 組織暴力団は財閥企業がひそかに要請する後始末をして知ることになった企業秘密資金資料で利益を得ようとしたが、見つかって財閥会長のリンチにより廃人になる。 彼は自身が知り合いになり交際した保守新聞論説委員に秘密取引を提案して復讐を試みるが、彼らがもつれ合って起きた事件を偶然に知ったあるドキュメンタリー写真作家が取材しながら話は進行する。
いつも充実したストーリーの実力を土台にして映画以上に躍動感あふれる画面構成と演出で読者らをひきつけるユン・テホ作家は<内部者たち>でも自分の強みを遺憾なく見せる。 他の漫画家たちが自分の画風を守り続けるのと違い、毎度作品の性格により画風が変わるのもユン・テホ漫画だけの魅力といえるが、<内部者たち>では陰湿なスリラーらしく黒色が強調される独特の画風を試みた。 何よりこの漫画の最大の強みは取材に基づく実感できる場面描写、セリフの一つ一つが広告コピー水準であるユン・テホ特有の言語感覚だ。
今まで国内に政治漫画が稀有だったのは、韓国漫画市場の構造的問題のためだった。 成人男性の漫画読者が少ないため、成人用劇画を連載するメディアが皆無で、そのような状況では漫画家たちが他の漫画よりさらに緻密に取材して精巧に話を作り出さなければならない政治漫画を描くことは不可能に近い。 その結果、今まで政治漫画を望む読者たちの渇望を代わりに満たしたのが日本の漫画だった。 ‘課長 島耕作’シリーズで有名な弘兼憲史の<政治九段(邦題:加治隆介の議)>をはじめ<クニミツの政> <イーグル>などが国内でも相当な人気を呼んだ。 これらの漫画はおもしろい政治漫画の読者は常に存在するということを証明した。 このような日本漫画より内容がさらに硬い韓国型政治漫画<内部者たち>の登場はうれしい知らせだ。
ユン作家が韓国漫画で市場自体が存在しないこの難しいジャンルに挑戦した理由は何だろうか? 作家は本の序文でこのように明らかにした。「彼らが失われたと言う10年は。全くなくしたわけではないという事実だった。 彼らはそれどころか法外な金利まで付けて返してもらった。 なくした主体は私たち自身であった。」
ク・ボンジュン記者 bonbon@hani.co.kr, 図 シネ21ブックス提供