原文入力:2012.05.20 12:13(5947字)
←チャ・ヘド金属労組韓進重工業支会長が去る5月15日、影島(ヨンド)造船所前でキム・ジンスク民主労総指導委員が高空籠城を行なったタワークレーンが立っていた場所を指し示している。
【土曜版】ルポ[韓進重工業労使合意の6ヶ月後]
正直言って無関心でした。 2011年11月10日、キム・ジンスク民主労総指導委員が309日の高空籠城を終えてタワークレーンから降りてきたその日、全て解決されたと思っていました。ところが192日が経過した現在の状況はどうでしょうか? △整理解雇者1年内復帰△生計費2000万ウォン支給△労使間民事刑事上告訴・告発取り下げなど、韓進重工業労使が結んだ約束がまともに守られるかどうか不安です。 韓進重工業事態は依然として現在進行形なのです。
「29才から10年以上も身を置いた会社じゃないですか。一晩のうちに不当解雇するというのに、どこにも訴える所もなくて、それで街頭に出るほかなかったわけじゃないですか。 不法集会だと(警察が)放送したというけれども、私は聞いていません。 集会申告されたものだとばかり思ってました。 息子2人を扶養している父親です。善処をお願いします。」
去る5月15日、釜山、巨堤洞(コジェドン)の釜山地方裁判所531号法廷。 180㎝を優に越える長身の男が肩を精一杯にすぼめ両手を前にして言葉を繋いでいった。 ホ・ソクヒョン(40)氏だ。 ホ氏は韓進重工業の整理解雇労働者94人中のひとりだ。 彼は第5次希望のバスの時に参加したという理由(集会および示威に関する法律違反)で略式起訴され、この日被告人席に立った。 ホ氏の陳述を最後まで聞いた判事は「6月12日午後10時に宣告する」として裁判を終わらせた。 裁判時間は30分もかからなかった。 法廷を出たホ氏が長いため息を吐き出した。「今日罰金を宣告してしまえばいいじゃないか。何でまた来いと言うんだ。」 裁判のためにホ氏はこの日一日仕事を棒に振った。 またもう一日休まねばならないとは、とかんしゃくが破裂しそうだ。 今月はそうでなくても風雨の日が多く、仕事の出来ない日が多かった。 収入が減るのも心配だが「一緒に仕事をするサス(技術者)にまた、どうやって了解を求めるかってことだ。」ホ氏が非常に困った表情を見せた。
←韓進重工業整理解雇撤回のための第5次希望バス行事に参加して集示法違反で起訴されたホ・ソクヒョン(一番左)氏が、去る5月15日裁判を受けて出てきて釜山地裁前で同僚らと話をしている。
昨年末以降 受注物量 途絶え
働いている職員はローテーション式休職で月給は半分に
これを口実に復職の約束を破るのか…
整理解雇者はさらに見通しが暗い
「ストが終わっただけで何も変っていない」
労組は二つに分かれ無力化
社側、不法ストとして158億 ダメ押し訴訟
組合員には“希望のバスの罰金”が
監獄のように高くなった塀…85号クレーンも撤去
ホ氏は去る2月からアパート外壁塗装工事の‘テモト’(補助)として働いている。 韓進重影島造船所の機関室工事部で10年以上試運転ばかりしてきた彼が、塗装の仕事は知る由もない。 丈夫な身体を元手として塗装工事をするサスの命綱・ロープを支える単純労働をしている。 見下ろせばくらっとめまいのするような危うい25~30階の高さ、ロープにゆらりゆらりと身をのせたサスの命がただただホ氏にかかっている。 からだも疲れるが、精神的ストレスが非常に大きい。 早朝5時から午後6時まで働いて帰ってくればへとへとで、そのまま倒れてしまうのが常だ。 そのようにして稼ぐお金が概略一ヶ月150万ウォン。 手の中に入ってきたと思えば砕けるように消えてしまう。 かといって、他に方法があるか。 40歳という年齢、そのうえ韓進重工業整理解雇者というレッテル付きでは、新しい職場探しは容易でない。「1年以内に復職させる」と言っていた会社からはまだ便りがない。 彼は会社側がおとなしく約束を守るとは思っていない。「双龍(サンヨン)自動車は約束がなかったために労働者が復帰できないでいるんですか? 」 ホ氏がタバコを一本また取り出してくわえた。
韓進重影島造船所に行く道々、タクシー運転手キム・ヒョンテク(仮名53)氏は言った。 「全部解決されたんじゃないんですか? 昨年政治家たちが大勢やってきて、国会で聴聞会もして、それでみんな円満に解決された~。」 2011年11月10日。 キム氏の記憶はキム・ジンスク民主労総指導委員が309日間の高空籠城を終えて85号タワークレーンから降りてきたその日で止まっていた。 韓進重整理解雇事態が希望のバスに乗って来た市民の連帯と労使、政界の妥協で解決した模範事例に挙げれられてきたのだから、そう考えるのも無理はないはず。 だが、当事者はため息ばかりが出てくる。「親戚たちでさえ、もうみな解決されたんじゃないのかと言います。 こっちの気も知らないで。 ストライキは終わった。解決されたものは一つもない。」 チャ・ヘド全国金属労組韓進重支会長は長いため息を吐いた。
彼の言葉どおり韓進重事態は依然として現在進行形だ。 影島造船所前の塀にも不和の痕跡がそのまま残っていた。 都市美観を考慮して釜山市が5億ウォンをかけて作ったという高さ2.3mのテーマ塀の上には、現在コンクリート構造物が重ねられていた。 希望のバスに乗って来た市民が塀を越えて以来、会社側が保安上の理由などを挙げて塀の高さを6mに高めたのだ。 「その醜い形のために、出退勤時に職員たちが、監獄に入るところだとか監獄から出て来たんだとか冗談を言います」とチャ支会長が話した。 正門右側に立っていたタワークレーン85号は昨年ストライキが終わるやいなや撤去された。 2003年キム・ジュイク支会長が129日間頑張ったあげく命を絶ったあのクレーン、そしてキム・ジンスク指導委員が309日間を持ちこたえて生還したあのクレーンは、韓進重工業労組の闘争の象徴そのものだ。「120億ウォンのクレーンを5億ウォンで古鉄として売って片づけたそうです。」 会社側は施設現代化という名分を掲げたが、チャ支会長は「嫌で嫌でたまらない労組の痕跡を消したかったんだろう」と話した。
塀越しに見える広さ25万㎡の造船所には人影が少なかった。 大型クレーンは作動を止めたまま立っており、船がいなければならないドックもがらんとしている。 会社側は「2011年11月30日に船2隻を引き渡した後は仕事が途絶え、現場作業の物量が全くない」と説明した。 ヨーロッパ発金融危機などの余波でギリシャ・英国など大手商船需要が途絶え、韓進重は昨年12月から順番に6ヶ月間の有給休職を実施している。 現在現場で働いている労組員は707人中の150人余りに過ぎない。 彼らは施設保守・補修と防衛産業部門側の暇つぶしのような仕事をしながら何とか持ちこたえている。 20~30%だけが稼動していると見て良い。
←パク・ソンホ韓進重工業整理解雇撤回闘争委員会代表が去る5月15日、釜山駅前広場に設置された双龍(サンヨン)車犠牲者追慕焼香所を守っている。
休職者も解雇者もバイト「機会さえあれば離職」
休業で2ヶ月に一度出ていた賞与が切れ、残業夜勤手当がなくなると月給が半分近く減った。2年を超えて続いたストライキで誰も彼もが莫大な借金を抱え込んでいる組合員の生活は、パサパサしていることは言うにおよばない。 休職者は全国各地で日雇いやアルバイトをしながら、かろうじて生計を維持している。 状況が良くなるだろうという希望が消えるとともに「機会さえあれば会社を去るつもりだ」という人々も増加している。「先週、競争業者の防衛産業部門の設計職募集に韓進重工業の設計者150人中70人余りが応募したという話が広がって、会社が大騒ぎになりもした」とチャ支会長が話した。
整理解雇者の不安は一層大きい。「全国民の前で約束したのだから、まさか11月前の復職という約束を破ったりするだろうか」と思いながらも、休業までしなければならない状況を口実に会社が言葉を変えるかも知れないという不安感がありありと見える。 整理解雇労働者ユ・ヨンジン(39)氏は「からだの弱い妻が工場に就職するというのを引き止められなかった」と話した。「家から一時間もかかるところに出勤する姿を見れば、申し訳ないし痛ましい限りです。 それでも、わけもなく怒りが込み上げてきて妻とも争うことが多くなりました。」 恥ずかしそうにユ氏が笑った。
韓進重は今、最初の休職者の復職時点(6月1日)を目前に控えている。 だが、その間に状況が変わった点は全くない。 会社側は「受注できなければ休業を延長するほかない」と釘を刺す。 仕事がないというんだから何をどうすることができよう。 「もっと精力的に受注に取り組め」と要求する以外には、労組もこれといった対策がない。 だが会社側に対し責任を問うべき部分がないわけではない。チャ支会長は「景気が良いときに利潤だけすっかり抜き取っていき、開発投資をせずにいて、結局この事態に至ったのではないか」と話した。 彼は「現代重工業などが海洋プラント開発に拍車をかけ、STXが大型クルーズ事業に飛び込んで不況打開に取り組む間、韓進重は何をしていたか」として「低価格受注は絶対しないと譲らず、その負担を全て労働者に転嫁している」と批判した。 彼をはじめとする労組関係者たちは「会社が影島造船所で商船側は整理して、防衛産業側に集中する方向で事業規模を縮小するだろう」と憂慮した。「そうなるとまたも整理解雇の嵐が吹くことになるだろう。」
「各自で生き残るしか道はない」という不安感は人々の間の堅い連帯を、信頼を崩している。その弊害は労組が二つに分かれて力を出せなくなっている今の状況に現れている。 韓進重ではチャ支会長が主導する韓進重支会(産別労組)がスタートして3ケ月目(去る1月)にキム・サンウク委員長が主導する新労組(企業別労組)がスタートした。 その背景には「昨年の労使合意の時、キム指導委員をクレーンから降りてこさせたこと以外に、労組がまともに解決したことは何があるかという組合員の不満がある」とパク・ソンホ韓進重整理解雇撤回闘争委員会代表が率直に打ち明けた。 当時の合意の際に、2009年から凍結されている賃金団体協約と労働条件改善要求は解決されておらず、結果的に労組員が得たものは何もないという被害意識が広まっていたという話だ。 パク代表は「ここに複数労組を作って組合を分裂させようとする会社側の支援作戦がうまくマッチした」と付け加えた。 「長期のストライキで組合員が生活苦に疲れ切っている状況だったじゃないですか。 一銭でも惜しい時だった。 ところで新労組関係者が会社側と合意したと言って、新労組に加入すれば直ちに名目上の貸し出し形態で生計費支援を受けられるようにするというのに、惹かれるのは当然でしょう?」
“最も辛かったのは労働者どうしの分裂”
結局70%を越える労組員が新労組へ移っていった。 既存労組はまだ交渉権を持っているが、下位実務責任者が形式的に参加する交渉は実質的進展を見られずにいる。 それさえも7月になれば交渉権を多数の組合員がいる新労組に渡さねばならない。 生計に追われて組合員が各地に散らばっているので、総会は毎回定数に満たず失敗に終わった。 労組がスタートして7ヶ月目の去る5月1日にやっと初めての総会を開いたところだった。 緊密な対応策を作るのは困難だった。
泣き面にハチで、既存労組は途方もない損害賠償請求訴訟に直面している。 昨年労使交渉の際「民事上の損害賠償請求は最小化」することで合意したが、会社は既存労組と上級団体である民主労総釜山地域本部を相手に、不法ストに対する被害額158億ウォンを必ず受け取るという態勢だ。 組合員は組合員で、希望バスとろうそく集会に参加した結果、罰金爆弾に当たっている。「この機会にしっかり損を取り返すということじゃないですか。 労組に158億なんて、一体どこにありますか。 労組をつぶすということでしょう?」 チャ支会長の声が高まった。
「もっと辛いのは、人々の関係がこわれることです。」チャ支会長は「労組が二つに割れて以来、それぞれ別の組合に属する人たちが慶弔の席で会っても互いに何とか避けようとするとして「たまたま顔を合わせた席でけんかになることも少なくなかった」と話した。「いくら生活が困難だからといって、みんなどうしてそんなふうに出来るのか。 キム・ジュイク、クァク・ジェギュ烈士が死んで10年にもならないのに・・・」 彼の目がしらが赤くなった。「人に会うのが嫌で、他人より早く出勤して皆が帰った後に退勤していました。 食事も労組事務室でラーメンで済ませて」
チャ支会長は自身をはじめとする組合員のこのような心の傷を治癒するために、しばらく前から心理治癒プロジェクト「サランバン」と「コムジラク(のろのろ)」(児童青少年対象)を運営し始めた。 まず整理解雇者と現場復帰者を対象に毎週一回(月曜日午後6~10時) 8週間のプログラムで行なっている。 「ドアは開けておいたけど、皆食べるのに精一杯だから大勢は来れないですね。」彼はこのプログラムを通じて「新労組に行ってしまった同僚に対する背信感をかなり洗い流した」と話した。 それ以後は、行くのをやめてしまっていた山岳会やボーリングの集まりにも出て行っている。 他の組合員らと一緒に双龍車や全北バス労組の闘争現場を訪ね、激励している。 「希望のバス」を通して見せてくれた連帯に対する借りを心に刻み、闘う意思を確かめ合うのだ。「会社がいつムチを持ち出すか分からないじゃないですか。 新労組に行けば状況が良くなるだろうと思ったのに何も変わらないことを悟って失望した人たちがまた戻ってくると思います。その時までは堅くこの場を守っているつもりです。」
釜山/文写真 イ・ジョンエ記者 hongbyul@hani.co.kr
原文: https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/533630.html 訳A.K