原文入力:2012/06/18 08:32(4122字)
[ニュースの深層:‘原子力発電所送電塔反対’密陽(ミリャン)イ・チウ氏の死、その後]
‘地主の同意なしに強制収容’韓電、70年代の法に基づき強行
公聴会は要式行為に終わり、電磁波も解決されず葛藤増幅
夜に畑を削られ先祖の墓も掘り返され 70・80代 老人ら 杖ついて抵抗
去る1月16日、慶南(キョンナム)、密陽市(ミリャンシ)、山外面(サンウェミョン)の住民イ・チウ(74)氏が自ら命を絶った。 韓国電力が自身の畑に送電塔を建てるとして掘削機を持ってきた日だった。 イ氏が亡くなった後、5ヶ月間工事を中断していた韓電は18日から工事を再開する予定だ。 去る14~15日に会った住民たちは 「遺書を一つずつ書いてある」と話した。
去る7日午後、慶南、密陽市、山外面の薬山寺に一人で守っていた法ソン(51・女)僧侶はあきれた。 おかしな音が聞こえたので広場に出てみると見慣れない男3人が寺刹の境内に入ってきていた。 一人の男の手には鎌が持たれていて、また別の男は大人の腰ほどもある猟犬を連れていた。「D電機から出ました。」彼らの話を聞くや僧侶は気を失って倒れた。「‘私を殺しに来たんだな’という思いがしました。」今も病院にいる法ソン僧侶が話した。
僧侶があきれたのには理由がある。 昨年11月、僧侶は送電塔敷地伐木工事をしに来た作業員に立ち向かい体当たりをすると、一人の男が口にした大変な暴言を聞いた。 「XXを八つ裂きにしてやるX. お前は俺が必ず殺してやる。」D電機の技術理事であるこの男の暴言は動画で生々しく記録されている。 彼らは侮辱罪で罰金刑を宣告されたが、僧侶の精神的衝撃は癒えなかった。 僧侶は工事関係者を見ただけで気を失う。
去る14日午後、夕闇迫る密陽市、山外面、希谷里の古い家でヒョン・某(74)氏は一人で牛の飼料を炊いていた。 ヒョン氏は去る1月16日、送電塔建設に反対して自身のからだに火をつけた故イ・チウ(74)氏の夫人だ。 記者が家に入り「イ・チウ老人のことで来た」と言うと、ヒョン氏は地面に座り込んでしまった。
「かわいそうな私たちのハルベ(おじいさん)。 こんなにあっけなく死んでしまって。 韓電の人々は皆殺してやりたい。」 やせて小柄なヒョン氏の全身からあふれ出る慟哭が10分以上続いた。
山外面の住民たちは韓電が送電塔建設を本格化した2005年から今まで7年にわたって戦っている。 韓電は釜山、機張郡(キジャングン)、新古里(シンゴリ)原子力発電所の電力を慶南(キョンナム)、昌寧郡(チャンニョングン)に位置した北慶南(キョンナム)変電所まで送るために慶南、密陽市・蔚州郡(ウルチュグン)・機張郡(キジャングン)などにわたる9万535m区間に5175億ウォンを投じて鉄塔162基を建てている。 北慶南変電所を経た電力は首都圏など全国に送られることになる。
162基の送電塔の中で69基が密陽市の5ヶ面に集中している。 この内、山外面・府北面(プブックミョン)・丹場面(タンジャンミョン)・上東面(サンドンミョン)など4ヶ面の住民たちが送電塔の建設に反対しているが、韓電は工事を強行した。 昨年からは物理的衝突も起きた。
故イ・チウ氏の田畑には高さ100mの送電塔が立つ予定だった。 送電塔ができれば航空防除が出来なくなり栗農作業ができなくなるところだった。 市価1億5000万ウォンの栗畑を放棄する代価として韓電が提示した補償額は154万ウォンだった。 生前、イ氏は送電塔建設に同意しなかった。 前密陽市長の親戚が営む農園に送電線が通ることを避けるために自身の畑に迂回する送電線路線を作ったとイ氏は生前主張した。 イ氏の度重なる送電塔路線変更要求にも韓電はびくともしなかった。
イ氏の死後、激昂した住民世論を意識した韓電は以後の工事を中止したが、 「これ以上先送りすることはできない」として、18日から工事を再開する方針だ。 住民たちの憂いと怒りも高まっている。
韓電が工事を強行できるのは1978年に制定された電源開発促進法のためだ。 法により、韓電は電気施設の予定敷地が必要ならば地主の同意がなくとも強制収容できる。 協議過程を経るという条項はあるが、協議がうまくいかなくとも工事をそのまま強行してもかまわないという条項もある。
住民補償もやはり思わしくない。 丹場面で30年間にわたり栗農作業をしてきたヤン・サンヨン(72)氏も亡くなったイ氏と同じ境遇にある。 送電線路が栗の上を通り、農作業を諦めなければならない境遇にあるが、韓電は 「補償金154万ウォンを受け取れ」と通知した。 3年前、不動産仲介業所で付けた彼の林野価値は1億ウォンをはるかに越えていた。
‘公益事業のための土地などの取得および補償に関する法律’は送電塔ができる場所と送電線の周辺3mの土地まで補償するよう規定してある。このような規定は送電線から出る電磁波に対する考慮はない。 住民たちは「送電塔ができれば、その場だけで農作業をできないのではなく、電磁波被害のためにその周辺で全く農作業ができない」という立場だ。
韓電が作っているのは超高圧送電線だ。 韓電は「送電線路を833mG(ミリ・ガウス・電磁波の強さの単位)以下で作るので安全だ」と説明したが、住民たちは別の話を聞いた。 「833mGの電磁波に短時間露出しても、神経細胞に変化を起こすことになる」という世界保健機構(WHO)報告書があるということを山外面の住民たちは知っている。 2006年12月、政府傘下の研究機関である韓国環境政策評価研究院は 「新たに送電線路などを作る時は、4mG以下で作った方が良い」という送電線路電磁波ガイドラインを出した。 4mG以下である時にのみ人体に対する安全性を保障できるという話だ。
住民意見を取りまとめて同意を得る過程も省略された。 韓電が送電線路区間を確定したのは2005~2006年だ。 住民たちは「送電線路区間の確定過程できちんとした公聴会の一度も開かなかった」と糾弾している。 上東面の場合、2005年8月、村役場が住民38人だけを集めて一方的に説明会だけを開いた。 当時、上東面の人口は3536人だった。 韓電関係者は<ハンギョレ>との通話で 「送電線路が通るすべての村住民たちを相手に公聴会を開くには力が及ばなかった」と話した。
住民および地域団体は「新たに送電塔をたてずに既存の送電塔に中容量電線を設置しよう」という代案を提示した。 しかし韓電は「2013年に完工する新古里原子力発電所3号機と2014年に完工する新古里原子力発電所4号機の電気まで送るためには中容量電線では駄目だ」という立場だ。
結局、密陽市4ヶ面の住民たちは去る2008年‘送電塔反対住民対策委員会’を設けた。 白髪が長く伸びた爺さんと婆さん方が昨年春、送電塔予定敷地である華岳山(ファアクサン)の中腹に小さなあなぐらを作り工事を阻んでいる。工事関係者たちが住民たちに暴行と暴言を始めたのもこの頃だ。
←慶南、密陽地域の送電塔工事を巡る韓電と住民間の葛藤は住民の焼身事態を体験しても尚解決の兆しを見せるどころか、むしろ悪化している。 韓電が来る18日から工事を再開する動きを見せるや、村の住民たちは進入路を遮断するなど積極的阻止で臨むる態勢だ。 小さな写真は送電塔工事に使われたフォークレーンの後に集まり対策会議をしている住民たち。 密陽/リュ・ウジョン記者 wjryu@hani.co.kr
去る14日夜10時。 府北面の住民10人余りがソウルから記者がきたという消息を聞き、華岳山のあなぐらに集まった。 ほとんどが70代以上の老人だった。 その中でイ・クムジャ(81)氏が話した。「去年の冬のことだ。 工事作業員が送電塔を建てるといって木を全部切り払ったじゃないか。 それを阻むために木につかまって泣く婆さんたちに作業員が‘みんな埋めてしまう’と脅したんだ。」やせこけたイ氏の頬がブルブルと震えた。「腰の曲がった婆さんが山を這い回るから犬だと思ったのか。婆さんに指差して‘おいでおいで’したんだ。‘XX女’と言う奴もいたよ」八十を越えたイ氏は涙まじりに話した。 「こんな恥辱を受けるならイ・チウ爺さんみたいに死んでしまう方がマシじゃないかとも思ったよ」
イ氏は去る3月5日、立ち上がり上衣のポケットにしわくちゃにたたんで入れてあった遺書一枚を取り出した。 「ここに送電塔が立てば私は体に油をぶっかけて死ぬだろう。この老いぼれが今更補償が欲しくて言っているわけじゃない。韓電のやつらは聞け。」
「いつでも焼身できるように家ごとに油の容器一本ずつ持って置いて、遺書は手に固く握って寝る」と、あなぐらに集まった住民たちは話した。 府北面住民のチン・ヘグォン(65)氏は「山を奪われるか私が死ぬか、二つに一つだ」と話した。 昨年チン氏は送電塔予定地に選ばれた先祖の墓の一部を強制的に奪われた。 4代続いた先祖の墓地が彼の代で暴かれるかもしれない。
チョ・ギョンテ議員(民主党)は「開発独裁時期に作られた法律が21世紀にも手直しされずにそのまま活用されて、住民たちと衝突を起こしている」として「周辺地域の土地所有者の3分の2の同意を得てこそ工事を進行できる‘電源開発促進法改正案’を19代国会に発議する予定」と話した。
19代国会の開院と法律通過以前に韓電が工事を終えようとしていると住民たちは考えている。 華岳山のあなぐら近隣の送電塔予定地はすでに伐木が終わった状態であった。 密陽/ホ・ジェヒョン記者 catalunia@hani.co.kr
原文: https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/538095.html 訳J.S