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[土曜版]ニュース分析なぜ? 韓流スター‘ピ チョン・ジフン’が中共軍をせん滅しなければならないとしたら…

登録:2012-03-03 12:15

原文入力:2012/03/02 21:46(4948字)

←俳優イ・ジュンギ(右から2番目)氏が国防部広報支援隊所属兵士だった2010年8月、6・25戦争(韓国戦争)60周年記念創作ミュージカル<生命の航海>に出演し演技している。 イ氏は当初中共軍と対立する役を拒否したが、国家の命令の前に望まない演技をせざるを得なかった。 俳優チュ・ジフン(左端)もこのミュージカルに参加した。 ニューシス

 映画<王の男>で有名な俳優イ・ジュンギ(30)氏が先月15日転役した。冬将軍が猛威を振るう厳寒にも関わらず数百人の国内外女性ファンが前日夜からソウル、三角地(サムガクチ)の国防部庁舎前の野天で彼の帰還を喜んだ。テレビ芸能プログラムも彼の転役を大きく扱った。 このように民間の目には彼の転役は‘ビッグスターの復帰’であった。

 それでは、軍の視覚で見た時は? 率直に言って損失の意味が大きい。 それまで彼の人気とイメージを軍の広報にしばしば活用してきたためだ。 ところで芸能人の社会的人気を軍が広報に借用することをどう考えるべきだろうか? このような質問を周辺の数人に投げかけてみた。 ‘当然だ’と‘問題がある’という正反対の意見がきっ抗した。 芸能兵士も‘やれと言われればやらねばならない’軍人だというのが前者の主張ならば、創作の領域まで強要することにには問題があるというのが後者の考えであろう。

 皆さんはどう思いますか? 別の言い方にすれば、芸能兵士の役割や任務がどこまであるのか? ささいな質問に見えるが、これは兵役義務を履行中の軍人に対して国家がどこまで要求できるのかという質問でもある。 軍人の人権、個人と国家の関係、国家が侵害できない良心の範囲などに関連するということだ。 イ・ジュンギ氏の事例を通じてこの問題を一度考えてみよう。

イ・ジュンギ ファンクラブでは反対署名運動

 2010年5月、軍に入隊したイ氏は21ヶ月間 国防広報院所属芸能兵士として勤めた。 公式所属は国防部勤務支援団広報支援隊。 国防部領内内務班から近隣の国防広報院に出退勤し兵役義務を履行した。 彼が引き受けた仕事は文字どおり‘国防広報’業務。 軍関連の各種放送および行事出演、ポスター撮影などだった。

 ところで彼が入隊直後、6・25戦争(韓国戦争)60周年を記念して創作ミュージカル<生命の航海>に主演で参加しながら論難が起き始めた。 イ氏の作品参加方針発表後、ファンクラブで反対署名運動を展開したのだ。 本人と所属会社が出演を固辞したが国防部が強制的に出演させようとしているという主張だった。 海外ファンたちを相手にも署名運動が広がった。 上海エキスポ広報大使であり韓流スターとして中国ファンたちを考えなければならないのに、中共軍と対立する役を担ったという点と、ミュージカル出演経験がないのに50日に過ぎない練習期間はあまりに短いという点などが具体的な反対理由として提示された。

韓米同盟・南北対決を強調した
軍製作ミュージカル‘生命の航海’
出演拒否したが受け入れたイ・ジュンギ
"創作活動強要は権力乱用"

 軍が主管して製作した<生命の航海>は1950年中共軍の包囲網を突き抜け脱出した米海兵隊の長津湖(チャンジンホ)戦闘と興南(フンナム)撤収をモチーフに作られた。 多くの避難民を乗せた米国の貨物船メロディス ビクトリー号が興南埠頭を出発し巨済島(コジェド)に到着するまでの2泊3日が背景だ。武器の代わりに避難民を選択した米軍船長の人類愛的な愛が強調される。 韓-米同盟を強調して自然に対北対決に光を当てる、現政権の基調と種々の面で合致する作品だった。 イ・ジュンギ氏はこの作品で北韓にいる家族を連れて脱出に成功する主人公‘ヘガン’役を担った。

 事実、ミュージカル<生命の航海>主演はイ氏の役割ではなかった。2010年1月軍当局が警察庁警察広報団と空軍軍楽隊で兵役義務を履行中のチョ・スンウ、チョ・インソン氏でキャスティングを推進していたが、当事者がそれを固辞しているという報道がスポーツ新聞に載りもした。 結局、適当な代案が見つからずにいたが、イ氏が入隊したことにより問題が解決したようだった。

 当時、論難の核心は出演決定が自発的になされたという点だった。 その年7月1日、イ氏の所属会社はファンクラブ ホームページに次のような文を載せた。

 "イ・ジュンギ氏が7月1日ミュージカル出演準備のために陸軍本部に派遣される旨、最終通報を受けました。 (中略) 私どもはミュージカル出演反対のために直前まで最善を尽くし最後の決定時まで一貫して私どもの立場を伝達したのです。しかし、軍人という身分と軍隊の特殊性上どんな結果が出るかは予想できない状況であることを申し上げます。 (中略) 国防部広報支援隊に自隊配置を受ける前から出演要請は絶えず続いてきたし、自隊配置を受けた直後にミュージカル出演に対する命令が下ったことがあります。"

 当初からイ・ジュンギ氏キャスティングが計画されており、現在は出演拒否の意向を明らかにしているものの力不足という話であった。5日後の7月6日所属会社は再び文を載せた。

 “イ・ジュンギ氏はもちろん私どもは引き続きミュージカル出演に対する反対意見を強力に表明してまいりました。しかし国防部ではミュージカル出演に対するイ・ジュンギ氏の任務をしきりに通知してきており、イ・ジュンギ氏の現身分上やむをえず7月1日ミュージカル準備のために陸軍本部に派遣されざるを得ませんでした。イ・ジュンギ氏は意見調整がなされない状態でミュージカル オーディションを受けることになり、ミュージカル出演準備のため練習にすぐに投入されたのです。これは当然に納得できない状況ですが、軍隊の特殊性とイ・ジュンギ氏の軍人身分による避けられない決定であったことをもう一度申し上げます。”

 ところがこの文の後半部では、イ氏がオーディションに投入された後、最終的には出演を受諾したことを明らかにする。“50人余りの俳優(軍人)が汗を流し最善を尽くして練習する姿を見ながら現身分としての責任と義務を果たすことが正しい決定だと考え”るということだ。 総合してみれば‘強圧の後の受け入れ’過程を踏んだ形だった。

行政兵・小銃病とは性格が異なる政治的任務

 これに対して国防部側は何の問題もないという説明だ。 軍人身分なら国家の命令に従うのが当然で、広報支援隊所属兵士が軍広報と関連したミュージカルに出演するのが何が問題かということだ。 当時<生命の航海>プロデューサーであったイ・某中佐はイ・ジュンギ氏の所属会社に手紙を送り、所属会社はファンクラブ サイトにその手紙を公開したが、ここにこのような軍当局の態度ははっきり現れている。

 “一人一人の希望を全て考慮して仕事を推進できれば良いが、場合によっては本人の希望に合わなくともやむをえず任務を与えられる可能性があることをご理解をお願いします。”

 この懸案と関連してキム・ミンソク国防部スポークスマンに意見を聞いた。 「入隊した兵士がどこでどんな仕事をするかは国が決めることだ。 小銃兵が自分が引き受けたことが嫌いだからと思いのままに行政兵になることができるか?」という反問が戻ってきた。 国防広報院関係者も「イ氏が嫌がったが後になって(参加して)良かったと言ってたよ」として「(芸能兵士の役割というのは)安保と関連した内容であるだけに不合理に感じられることもあるだろうあ、軍にきた以上は当然しなければならないことではないだろうか」と話した。

来年 米国主要都市を巡回し
人気兵士をまた参加させるというが
‘広報支援隊員 ピ’も出演?

 だが、一部のファンたちは「ミュージカル出演強制は権力乱用」と主張する。 当時イ氏のミュージカル出演過程に精通しているある関係者は「<生命の航海>製作チーム イ・某中佐は、イ・ジュンギ氏が入隊する4~5ヶ月前にある新聞インタビューでキャスティングと関連して‘軍人だからと言ってすべての命令に従わなければならないわけではなく、俳優と所属会社の立場を尊重する’と話した。ところがイ・ジュンギ氏側が参加拒否の意思を繰り返し明らかにしたにも関わらず、オーディションに強制指名し、連日のように圧力を加えて申し訳ないと思った」と話す。 軍が言葉を変えたということだ。 行政兵や小銃兵の業務は誰もが同意する兵役義務履行の一つだが、政治的な内容が含まれたミュージカル出演はそれとは違うのではないかという主張も出した。

 参考までに、現在イ・ジュンギ氏側はこの問題が拡散することを願っていない。イ氏の所属会社関係者は「除隊するというのに軍服務時期の話がイシュー化されることは望まない」と話した。 この関係者は「現在、本人は自身の意志で出演して熱心に公演し、良かったと考えている」としつつも、出演を拒否してこれを翻意することになったことと関連しては「所属会社が変わったのでよく分からない」と話した。

 結局問、題の焦点は芸能兵士の任務範囲をどこまでと見るかに尽きる。小銃手や行政兵などの一般的な業務を越え、創作の領域に該当する演技と作品出演が兵役義務範囲に該当するかということだ。

 法務法人ダイムのソン・ジュモク弁護士(前国防部人権課法務官)は「芸能兵士は国防広報や将兵の士気高揚のための役割をするだけに、その任務をつくす責任がある」としつつも「だが、軍が一方的なイデオロギーを広報したり特定の国を擁護するために芸能兵士を活用することは本来の趣旨から外れることなので問題がある」と話した。

軍当局が立ち上がり基準を議論しよう

 事実、芸能人の社会的影響力がますます拡大して芸能人出身軍人を軍広報に活用する程度と頻度は増える傾向にある。 国防部高位関係者が1~2年前に芸能兵士を軍広報にもっと積極的に活用しろとの指示を与えもした。 だが、芸能兵士の役割の範囲に関する社会的合意や明確なガイドラインはない。 先に述べたように、国家と軍に関する態度や哲学の違いにより正反対の答が出てくるためだ。

←国防部広報支援隊で服務中の歌手 ピ

 国防部は今年初め‘6・25戦争(韓国戦争)60周年3ヶ年事業’を発表したが、そこには“<生命の航海>をより進取的で躍動的に補完”するという内容が含まれている。“最近入隊した人気芸能人兵士たちを多数参加”させ“来年には米国主要都市巡演を行うことで未来指向的な戦略同盟関係の発展に寄与させる”ということだ。 これに対して軍内外ではもう一人のビッグスターである ピ(実名 チョン・ジフン)が次期主演としてキャスティングされるだろうという話が出回ったが、おりしも5師団新兵教育隊助教として勤務していたピは最近 広報支援隊に所属が変わった。

 予想通りにキャスティングが推進されるならば、ピはこれを拒否するだろうか、受け入れるだろうか? あるいはイ・ジュンギ氏のように‘拒否の後に受け入れ’を選ぶだろうか? 再び論難が起きる前に、軍当局が立ち上がり常識の線で共感できる芸能兵士の活動範囲と基準に関する議論をしてみる必要があるのではなかろうか。

イ・スニョク記者 hyuk@hani.co.kr

▲告白しますが、かつて軍隊にいた時に羨望と嫉妬の対象がありました。まさに体育部隊所属の運動選手たちと<国軍放送>に出演する芸能兵士でした。 同じ国防義務を履行すると言っても、彼らは軍隊でも自身の‘業’を継続しているからでした。しかし、誰にでも各自の人生の重みがあるように、芸能兵士にも人知れない痛みがあるようです。 時には大衆的人気が鎖として作用するとでも言いましょうか。

原文: https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/521785.html 訳J.S