嫉妬は人間の原初的な感情だ。もともと敵だった人よりも、味方だったのに仲違いした人に対する憎しみの方が強い。国家間の戦争よりも内戦の方が残酷だ。
どのような集団でも対立は避けられない。対立をうまく管理して統合を維持するか、対立を拡大して分裂や内戦に至るかは、構成員の実力とレベルにかかっている。対立はたいてい言葉から始まる。激しい言葉で内部対立が始まると、外部の敵は分断工作を用いる。分断工作は高度な心理戦だ。やられていることに気付かないうちにやられる。いくつかの事例がある。
「従北(北朝鮮追従)」という言葉は、進歩勢力のうちNL系(民族解放派)の親北朝鮮的傾向を批判するためにPD系(民衆民主派)が作った単語だった。しかし、分断既得権勢力が大々的に広めたため、進歩勢力全体を罵倒する蔑称として定着した。
「スイカ」は、2022年の民主党の大統領候補を選ぶ予備選挙を前に、親李在明(イ・ジェミョン)派の支持者たちがイ・ナギョン元首相とその支持者を攻撃するために作った蔑称だ。「外見は青い(民主党のカラー)が、中身は赤い(国民の力のカラー)」という意味だ。保守既得権勢力はスイカという言葉をどこまでも広めて笑いものにした。
「ミョンチョン大戦」は、李在明大統領とチョン・チョンレ代表の確執と対立を指す言葉だ。何者かが面白がって作ったものだが、与党分裂を狙う保守勢力が大々的に流通させた。李在明大統領がチョン・チョンレ代表を批判し、チョン・チョンレ代表が真っ向から受けて立ったことで現実のものとなった。
「ムンジョトルレユ」は文在寅(ムン・ジェイン)、チョ・グク、キム・オジュン、チョン・チョンレ、ユ・シミンの5人をまとめた蔑称だ。親李在明派を自称する強硬支持者たちが作ったものだ。現在は、与党の分裂をあおる保守勢力の方がよく使用している。元大統領を党内派閥のトップと呼ぶのは度が過ぎる。実体もない。5人は近い間柄ではない。親李在明派を自称する強硬支持者たちは反省すべきだ。
ミョンチョン大戦とムンジョトルレユによる対立激化は、民主党のチョン・チョンレ代表とキム・ミンソク首相にも責任がある。政党において権力闘争が起こるのは当然だ。8月17日の党大会で代表になるために競争することをとやかくと言う人はいない。しかし、権力闘争にも最低限の価値と大義名分が必要だ。
チョン・チョンレ代表はどのような価値観と大義名分で再び代表を務めるつもりなのか。内乱勢力の審判? それは効果が切れたことは6月の地方選挙で判明している。検察の補完捜査権の全面廃止?それが国民の生活問題とどれほど関係があるのかは疑問だ。
キム・ミンソク首相は「勝つ民主党、強い民主党、有能な民主党」を掲げている。それは価値観や大義名分ではなく、空虚な扇動スローガンにすぎない。「負ける民主党、弱い民主党、無能な民主党」を作ろうと言う人はいない。
2人とも、どのような民主党を作るつもりなのか。価値観、大義名分、ビジョン、政策がよく見えない。内容がないから、刺激的な言葉だけが刃のように飛び交う。ウ・ウォンシク前国会議長が代表選不出馬を宣言した際に嘆いている。
「金大中(キム・デジュン)大統領が作った中産階級と庶民の政党、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の夢のこもった全国政党、今の民主党はその民主党なのか」「このように傷つけ合い、相手を嘲笑し、欠点をあら探しし、分裂を拡大させながら党大会をやったら、我が党に何が残るのか」
その通りだ。首都圏選出のある民主党議員は次のように語っている。
「金大中大統領の時代から、民主党の志向は庶民と中産階級のための政党だった。ある瞬間から庶民は消え去り、中産階級が上位中産階級へと変化した。民主党は上位20%の政党だ。1人1票を通じて首都圏に家を1軒所有している40~60代の利益を代弁している」
李在明大統領と民主党は2024年11月に金融投資所得税を廃止した。韓国総合株価指数(KOSPI)は2500台だった。現在、KOSPIは9000を超えている。にもかかわらず、金融投資所得税を復活させるつもりはないようだ。良心が欠如している。金大中大統領は政治家に対し、書生的な問題意識と商人的な現実感覚を持てと訴えた。今の民主党は書生的問題意識がなくなり、商人的な現実感覚だけが残っている。
かといって、問題解決能力があるようにも思えない。20~30代は、雇用不足や世代剥奪感、不公正に憤っている。文在寅大統領時代には仁川(インチョン)国際空港問題、平昌(ピョンチャン)オリンピック南北単一チームなどの不公正問題が起きた。にもかかわらず民主党は、今に至るもまともな20~30代政策を打ち出せていない。どうやら20~30代にはあまり関心がないようだ。
価値観やビジョンがなく問題解決能力もない政党に、未来があるだろうか。民主党がこのままだと、2028年の総選挙が危ない。2030年の大統領選挙も危ない。
ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )