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どぶ川から「龍」が生まれる社会は嫌いだ【寄稿】=韓国

登録:2026-05-07 08:02 修正:2026-05-10 07:19
2026年度大学修学能力試験(修能)が実施された昨年11月13日午前、仁川市弥鄒忽区の仁花女子高校で、受験生が試験の開始を待っている=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

 もしも人生で何かひとつだけ変えられる「魔法のカード」が手に入ったとしたら、あなたは何を変えるだろうか。学歴、職場、マンション…。想像はいろいろとできるかもしれないが、現在の大韓民国で最も残忍で現実的な答えは唯一つ。親を変えることだ。この悲劇的な想像は、努力という神話が破綻した私たちの時代の自画像だ。

 愚にもつかないことを言っていると思うだろうか。分かっている。どうして親を変えられようか。しかし、冷静に考えてみよう。韓国社会において名門大学への進学を可能にし、その看板が良い仕事と安定した生活へとつながる進路を決める最も重要な要因とは何か。私たちは「天才は99%の努力と1%のひらめきで作られる」という名言を信条のように胸に刻んでいる。99%の努力に対して、1%のひらめきはわずかなことのように思える。

 しかし現実はそうではない。もしかするとこの名言の真の意味は、天才になるために99%の努力をしたとしても、結局は1%のひらめきがなければ天才にはなれないということかもしれない。その1%と同様、人生の決定的な条件の一部は、努力したからといって得られるものではない。今の社会はそうだ。若者がどれだけ努力しても、どぶ川(貧しく、恵まれていない環境)から運良く名門大学に進学したとしても、有能な親に出会えなければ、ソウルでまともな住まいを手に入れるのは容易ではない。

 2024年、韓国銀行はソウルと非ソウル地域のソウル大学進学率の格差のうち、学生の潜在力の差で説明できるのはわずか8%で、92%は居住地域の違いに起因すると発表した。だから韓銀は、各地域の学齢人口の割合に応じて大学の新入生を選抜しようと提案している。非ソウル地域からも「龍」を輩出できるようにしようというのだ。ソウル大学10校設立も趣は異なるが、その意図は韓国銀行の提案と類似しているようにみえる。

 もはやどぶ川から龍が出てくることはないと嘆かれる現実にあって、このような代案が説得力を得るのは当然だ。不平等なスタートラインの是正を試みるものだからだ。しかし、もう少し考えてみよう。地域の学齢人口に応じて名門大学に進学すれば、親の社会経済的地位による格差は解消され、不平等も緩和されるのだろうか。どぶ川から龍が生まれさえすれば、労働市場に良い仕事が増え、賃金格差も縮小し、中小企業や非正規労働も良い仕事になるのだろうか。

 運良くどぶ川から龍が生まれる社会が実現したとしても、現在のような政治経済構造と穴だらけの福祉国家を放置するなら、労働市場に良質な雇用が増える可能性はほとんどない。地域比例入学制度は教育機会の不平等を多少緩和するかもしれないが、良質な雇用の総数を増やすことはできない。どぶ川から天に昇ったごく少数と、どぶ川にとり残された絶対多数との格差は変わらない。競争が緩和されるわけでもない。

 どぶ川からも龍が生まれるという糸のように細い道が公平の名のもとに開かれたのだから、競争はさらに激しくなるだろう。そして今や龍になれない責任は、完全に個人の不誠実さと怠惰の結果となる。人より努力が足りなかったのだから、一生をどぶ川で生きなければならない人生さえも公正な結果とされる。差別と不平等は、公正という名のもとに今よりも容易に正当化されるだろう。

 どぶ川から龍が生まれる社会は良い社会ではない。そのような社会では、ごく一部の人は宝珠を抱いて生まれるし、どぶ川は住むに値する場所ではないからだ。だから、良い社会とはどぶ川から龍が生まれるのを待つ社会ではない。誰も龍になるために一生を終わりなき競争に縛られない社会だ。良い社会とは龍にならなくても済む社会、特権を保証される龍がいなくてもいい社会、そしてどぶ川のない社会だ。

 直視しよう。1990年代以降、成長だけではどぶ川から龍が生まれないだけでなく、どぶ川のない社会も作れない。だから? ぜい弱階層のための福祉を拡充しようというのではない。福祉を拡充すれば消費が増え、成長に寄与するというおなじみの主張を繰り返そうというのでもない。福祉が成長をけん引し、成長が福祉を拡大するよう、成長と福祉をひとつの国家戦略として統合し、良質な雇用を増やすという現実的な改革と大胆なビジョンが必要だと言いたいのだ。「多くの人が私について、どぶ川から龍が生まれたと言うが、これ以上この成功ストーリーが韓国社会の模範となってはならない」。李在明(イ・ジェミョン)大統領の2022年の大統領候補時代の言葉だ。もう「龍」を語るのはやめよう。「どぶ川」のない社会について語ろう。

//ハンギョレ新聞社

ユン・ホンシク|仁荷大学社会福祉学科教授、福祉国家再構造化研究センター長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1257003.html韓国語原文入力:2026-05-03 19:55
訳D.K

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