韓国で「内乱専担裁判部」法案の最終案が22日、国会本会議に上程された。従来の案にもう一度修正を加え、推薦委員会をなくし、裁判官会議に人選を任せる形に変わった。
内乱専担裁判部については司法権独立の侵害、違憲性の有無、裁判遅延の恐れなどをめぐり様々な議論があった。これらの議論について語る際、常に優先的に考えるべきなのは、これらの議論がなぜ生まれたのかだ。司法府に対する不信感、不安、不満のためだ。内乱首謀の容疑者を釈放し、内乱裁判を喜劇の舞台にし、(戒厳宣布から)1年が過ぎたにもかかわらず一審の判決すらも出ず、納得しがたい理由を挙げて内乱罪の被疑者たちの拘束令状を相次いで棄却したことが積み重なって形成された不信感だ。
司法府は常に「司法権の独立」を挙げ、専担裁判部に反対してきた。法律は立法府(国会)によって作られる。司法府は立法府が作った法律に基づいて判決を下す。司法府は、与党が違憲の議論になる素地を減らした修正案を16日に出したところ、2日後の18日に専担裁判部の最高裁例規を発表した。裁判所事務総局の関係者は「朝鮮日報」に「司法府としては国会の立法だけを待ちながら何もしないわけにはいかず、自主的な解決策を模索するために例規を作った」と説明した。この1年間は何を待っていて、何もしなかったのか。
内乱専担裁判部に関して、これまで司法府から最も多く出た言葉が「違憲」だ。現在の内乱専担裁判部法案と最高裁判所の例規が異なる点は、担当判事を裁判官会議が決めるか、無作為配当に任せるかの違いだ。憲法の条文に「裁判部は無作為配当で構成すべき」といった内容はない。「法律に則り、裁判官に、裁判官が独立して判決を下すように」(憲法第11条、第27条、第101条、第103条)と定められているだけだ。裁判所が「無作為配当」を本格的に行うことになったのも、2008年にソウル中央地裁のシン・ヨンチョル所長がろうそく集会関連事件を特定の裁判部に集中的に配当したという疑惑が提起され、第一線の判事らが強く抗議して「第5次司法波動」に発展したからだった。その後、裁判所は事件の配当の例規を改正し、無作為配当の原則を裁判所長が任意に変えられないようにした。つまり、「無作為配当」は司法府の首脳部の不公正を正すための制度として導入されたということだが、今や恣意的な「無作為配当」によりチ・グィヨン判事が尹前大統領の内乱裁判を担当するようになり、極めて不適切な裁判指揮で問題になっている。たからこそ、従来の制度の弱点を正し国民が望む公正な内乱裁判を進めようとしているのに、司法府はそれらを無視し、「違憲」だと主張し続けている。順序が逆ではないか。それに、司法府が「違憲」を叫び続けるべきだったのは、(戒厳が宣布された)2024年12月3日の夜だった。その時はなぜ「違憲」という言葉を一言も言えなかったのか。
内乱特検は12・3非常戒厳加担容疑で告発されたチョ・ヒデ最高裁長官に対し、不起訴決定を下した。不起訴決定書によると、チョ最高裁長官は戒厳当日、裁判所事務総局の幹部らに「戒厳は違法だ」という趣旨で話し、「戒厳司令部に連絡官を派遣するな」という指示を下したという。戒厳令の宣布は午後10時27分に行われた。チョ最高裁長官は翌日0時40分に最高裁に到着した。約2時間の間、どこで何をしていたのか。チョ最高裁長官が「戒厳は違憲的」という「趣旨で」話したというのは裁判所事務総局の関係者たちの陳述だ。戒厳軍が国会に侵入した時、国会議員が塀を越えて本会議場に入った時、国民が切迫した気持ちで国会に駆けつけた時、司法権が戒厳司令部に渡ろうとしたその時、最高裁長官は瑞草洞(ソチョドン)の最高裁判所で誰にそのような「趣旨」の話をしたというのか。戒厳の夜に何もしなかったのは決して褒められたものではない。
そうやって大事に取っておいた「違憲」という言葉を、内乱専担裁判部をめぐる議論では時と場所を選ばずに唱えている。(戒厳によって)いざ「司法府の独立」が脅かされていた時は一言も言わなかった「司法府の独立」も、事あるごとに掲げている。司法府は誰から独立したいのか。国民からなのか。国民は今、司法府が守ろうとしているものが内乱の被害者である国民ではなく、内乱被疑者なのではないかという疑念を抱き、不安に苛まれている。
法治主義と法律主義は違う。法治も民主主義を守るための手段だ。ところが、司法府は法を民主主義の上に置こうとしているようにみえる。「法」を既得権守護の手段として使っているようだ。そうではないと否定する前に、司法府はこの状況を危機として認識しなければならない。
昨年12月3日の非常戒厳直後、「これは違憲、違法」だとフェイスブックへの投稿で明確に知らせたソウル大学法科大学院のハン・インソプ名誉教授が20日、内乱専担裁判部法案についてフェイスブックに一問一答形式の投稿で詳しく説明した。その最後の質問と回答は次のようである。「Q.裁判所改革、司法改革をきちんと行うには? 問題解決の糸口を見つけるには? A.裁判官が最高裁長官の保衛組織にならないように冷静に行動すべき。(検察が)尹錫悦(ユン・ソクヨル)検察総長を擁護したように行動してはなりません。司法府に対する不信感と不安を最高潮まで引き上げたチョ・ヒデ最高裁長官が辞任することが、問題解決の糸口をつかむ最初のステップです」