日本では、参議院選挙から1か月半以上が経つが、この選挙における自民党の敗北の責任をめぐって、自民党内では延々と内紛を続けた。石破茂自民党総裁は、トランプ関税への対応など国難に対処するために党内で権力争いをしている場合ではないと主張して、政権持続への意欲を示していた。自民党内の反石破派の言い分は、自民党内では昨年の衆議院選挙、今年の参議院選挙で相次いで敗北し、衆参両院で与党過半数割れに陥ったことに対して、石破総裁が責任を取って退陣すべきということであった。自民党の規約では、所属国会議員と都道府県組織の半分以上が総裁選挙の実施を求めればこれを実施しなければならないことになっている。自民党内の退陣要求が圧倒的多数という状況を見て、石破氏は最終的に退陣を決意した。
日本国民は、自民党内のこうした権力闘争を冷ややかに見ている。各種の世論調査によれば、石破政権への支持率はまだ不支持を下回るものの、明らかに上昇していた。また、石破首相が首相の座にとどまることについては、賛成意見が反対意見を上回っている。石破氏は首相として人気があるとは言えないものの、次に出てくるであろう新首相に比べればましという程度の評価を得ていたということができる。
選挙で大敗すれば、政党の党首が責任を取って辞めるというのは、政党政治の常識である。しかし、今の自民党はこの常識が当てはまらない、特殊な状況にある。自民党の支持率が低下したのは石破氏が総裁に就任する前からであり、その原因は、同党の議員の多くが法に違反して裏金をため込んでいたことが暴露されたからである。石破首相の政治改革への取り組みは十分ではないが、それにしても、石破首相の退陣を叫ぶ政治家の中には裏金をため込んだにもかかわらず刑事責任を問われなかった者がいる。石破首相の退陣を受けて、腐敗した政治家が我が物顔で権力を振るうことになるのは明らかである。多くの国民はその点を見通して、石破政権の持続を支持したのである。
石破氏は、韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領と会談して関係改善を実現したことにあらわれているように、現実的な外交感覚を持っている。また、8月の広島、長崎の原爆の日の式典や8月15日の終戦記念日でのあいさつでは、自分の言葉で平和の尊さと過去への反省を語ったことで、誠実で知的な政治家という評価を得ている。これまで、日本では、歴史観や哲学を感じさせない浅薄な首相が続いてきたので、石破氏はその点で異彩を放っていた。これから自民党は総裁選挙を行うが、思索の深さにおいて石破氏を上回る人物がいるとは思えない。
民意と自民党の政治家の意識の間に大きな乖離があるという現実を見て、今年結党70年を迎える自民党という政党が大きな限界に突き当たっていることを感じる。自民党は、外交における対米協調、国内における利益誘導の2本の柱で、ともかく日本の繁栄を支えてきた。この2つの政策を共有すれば、右派も穏健派も1つの党に収まった。しかし、今やこの土台は崩れている。トランプ政権がアメリカ第一の路線を取り、対米協調は日本の繁栄のカギではなくなった。そして、自前で外交戦略を考えなければならない時代に突入している。また、経済面では停滞の30年が続く中で、賃金は伸び悩み、格差と貧困が拡大している。2010年代の安倍晋三政権は円安政策を進めたが、その弊害は今や明らかである。輸出企業は利益を拡大する一方、普通の人々にとって物価は上昇し、生活は苦しくなっている。外国からの旅行者の急増や、外国資本による日本の不動産の買いあさりは、国民の反発を招いている。このことは、参議院選挙における右派ポピュリズムの台頭の原因となった。
自民党内で石破降ろしを叫ぶ政治家の中には、腐敗した者だけでなく、歴史修正主義者、自己中心的ナショナリストも多い。「石破」対「反石破」の争いは、自民党における穏健・現実主義と過激なナショナリズムの対立という側面も持っている。
この際、国民が見放している自民党という器の中で喧嘩をするのではなく、外交路線、経済政策をめぐって理念を立て、右派政党と穏健保守政党に分かれることが望ましい。これから行われる自民党総裁選挙が、従来の政治への反省に立って現実的な国家運営をめぐる議論の場になるかどうかは不明である。自民党が国民の絶望をまじめに受け止めないなら、既成政党批判だけを売り物にする新興ポピュリスト政党が人々の不満を煽り、日本政治はいよいよ混迷に陥るだろう。
山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)