ロシアのウクライナ侵攻はすでに1250日をはるかに超えている。地政学的緩衝地帯で起きた列強の代理戦という次元で6・25(朝鮮戦争)と十分に比較が可能な戦争でもあるが、朝鮮戦争(1128日)よりもすでに長い。しかし、21世紀最悪の国家間戦争になってしまったこの戦争の展開において、最近希望的な部分ができた。ウクライナの最大後援国だった米国がこの半年間、ロシア側と終戦交渉をしてきたということは、一抹の希望を持てる根拠だ。私がこの文章を書いている時点では、この交渉はまだこれといった実を結んでいない。しかし、交渉が途切れることなく続けられたという点と、ロシアの御用メディアがドナルド・トランプ米大統領に対する誹謗や卑下などを引き続き自制している点など、様々な情況から見て、終戦を引き出すある種の妥協点を双方が見出す確率もある。それがいつ、どのように行われるかを予測することはできないが、すでに100万人以上の死傷者を出したこの殺戮劇を終わらせることができる交渉が着実に進められていることは意味が深い。
これまで事実上は戦争の当事国の一つである米国がこのように交渉局面に転じたのは、多くの人々には意外に映るかもしれない。これまで米国がこの戦争で果たした役割は重要だった。欧州全体が提供してきた支援額と同様の水準の軍事・非軍事的支援の問題だけではない。米国が提供してきた偵察衛星の偵察資料なしには、ウクライナ軍の戦争遂行そのものが不可能だっただろう。米軍は個別作戦の樹立にまで関与してきたという。このように深く介入したのに、今になって交渉を通じて手を引こうとすることについて、トランプの非理性的な「プーチン偏愛説」から、ロシアの諜報機関がトランプに不利な情報を利用してトランプを脅迫しているという「説」まで、陰謀論に近い様々な話が盛んだ。しかし、米国の「Uターン」はトランプ単独の作品では決してない。ジョン・ミアシャイマー教授のような策士から多くの軍部、諜報機関関係者までが同意し、共に推進する戦略だ。そして、この戦略とこの戦略による現在の米国の対ロシア政策は、私たちが生きる新しい時代の重要な側面を示している。
プーチン大統領のウクライナ侵攻は、2014年から明らかになったウクライナの「西側寄り」を防ぐための最後の手段だった。古典的意味での「帝国主義者」ともいえるプーチンのビジョンとは、ロシアを中心に旧ソ連の構成共和国が再び一つの地学的・地政学的空間を成すことだ。プーチンが最も重視してきたユーラシア経済連合のような旧ソ連共和国再統合プロジェクトは、モスクワ中心の過去の帝国版図の再構成のビジョンをそのまま反映している。2014年にウクライナがユーラシア経済連合への合流の提案を断ったことが、その後に続くロシアのウクライナ東部の分離主義勢力への支援と究極的な侵攻の最も重要な背景だった。しかし、このロシア中心の旧ソ連共和国再統合プロジェクトの核心軸は、人口が減っているウクライナではなく、人口が増えロシアに最も重要な人材供給先になった中央アジアだ。中央アジアでカザフスタンとキルギスはすでにユーラシア経済連合に加盟しており、オブザーバーになったウズベキスタンを相手とする加盟ロビーイングはロシア外交の焦眉の懸案だ。
ロシアの「ユーラシア再統合」プランが一種の新植民地主義という批判は妥当だ。このビジョンで中央アジアの位置はロシアに低賃金労働力を供給する周辺部だ。しかし、米国の立場では中央アジアがロシアの周辺部になっても大きな問題はない。ロシアの経済力は、米国に挑戦状を突きつけられるレベルではないからだ。逆に、ロシアが弱体化して中央アジアが中国の影響圏に編入されれば、中国はイランなど米国と不都合な関係にある中東国家と直通できる「通路」を獲得することになる。地政学的に中央アジアは東アジアと中東の間の戦略的な境界地帯だ。米国の立場では、浮上している帝国である中国よりは、すでに衰退している帝国であるロシアがこの地域を統制することが地政学的に有利だ。それで米国はこの3年間ウクライナ戦争に介入してウクライナでひとまず親西側政権が存続できるほど「投資」をした後に、いまロシアを相手に「Uターン」を試みている。
結局、ユーラシアで二つの競争相手である帝国に向き合うことになった米国は、「以夷制夷(他国の力を利用して別の他国の力を押さえること)」戦略を使ってより強い帝国を牽制するためにより弱い帝国に手を差し伸べる格好だ。しかし、この「以夷制夷」という戦略は果たして米国だけの専有物なのだろうか。ロシアも同様に米国に手を差し伸べながら、ウクライナ関連でさらに強硬な立場を取った英国やフランス、ドイツなど欧州諸国を牽制しているわけだ。同時に、米国の牽制を回避しようとする中国は、欧州に対して引き続き友好的なジェスチャーを示している。また、欧州諸国が米国の対中包囲政策への参加を渋るのも、貿易秩序を破壊するトランプの米国と、東欧の領土・国境秩序を破壊するプーチンを牽制しようとする思惑を示したものだと言える。すなわち、米国-欧州-中国-ロシアの「四角」関係でもはや以夷制夷が新しい基準になったと言っても過言ではない。
「ニューノーマル」になった以夷制夷は、2020年代前半以降の新しい時代の特徴を反映している。冷戦時代には、両陣営をそれぞれ統制した二つの超大国の下に各国が並ぶ以外に代案がなかったとすれば、脱冷戦・米国本位一極体制の時代には対米関係のコントロールだけが生存と繁栄の必須で十分な保障に見えた。ところが、もはや覇権を維持できない米国の目標が、相手国を利用した自国の地経学的・地政学的な利得の最大化となった2020年代前半以降の多元化の時代には、対米関係だけではもはや誰にも何も保障してくれない。「同盟」と慣習的に言うが、実は韓国も米国としては経済的利得の源泉であり、ウクライナのような地政学的「カード」にすぎない。結局、韓国も搾取されて利用されて捨てられる状況を避けるためには、主要国家のようにこの以夷制夷戦略を駆使できなければならない。そうしてこそ国としての価値を高め、この時代に生き残ることができるだろう。
朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)オスロ国立大教授・韓国学 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)