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ファシズムに寄生するのは誰か【寄稿】

登録:2025-02-28 23:27 修正:2025-03-01 08:27
内乱罪容疑者である尹錫悦大統領の拘束令状実質審査が行われた1月18日午後、ソウル麻浦区のソウル西部地裁周辺で、尹大統領を擁護するデモ隊がスローガンを叫んでいる=キム・ヨンウォン記者//ハンギョレ新聞社

 多くの学者は「資本主義は必然的にファシズムをはらむ」と主張してきた。「資本主義は必然的に革命を招く」という主張の真逆とでも言おうか。資本主義は周期的に危機にぶつからざるを得ないが、その危機の時間が果たしてどちらの極端へと暴走するかということだ。歴史を振り返ってみると、前者の主張が常に勝利をおさめてきたようだし、この暗鬱な予言は残念ながら長きにわたって効力を発揮しそうだ。資本主義の危機の瞬間の度に、ファシズムは新しい顔をして私たちのもとへと戻ってくる。まるで私たちの苦しみと挫折を完全に打開してくれるかのような強力な迷信をあおり、しかし結局はその危機を利用して食べている者たちを肥やすために。

 この時代のファシズムの土台は言うまでもなく新自由主義だ。そのような面で、韓国社会にファシズムの土壌は十分に育まれていた。歴代政権の公共支出はわずかで、それだけ国民は市場競争に追い込まれて、生きるのも自己責任だった。もちろん、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は戒厳以前にも急激に民衆の暮らしを破壊していた。すべてを「自由市場」に任せれば最善の結果が得られると宣伝し、私たちの安全も後回し、生計も後回しだったのだから。青年層と高齢層の暮らしはさらに苦しい。仕事もなく求職活動もしていない青年層は42万人を超えてパンデミック後に過去最多を記録しており、就職しても良質の雇用ではないため、多くは「不完全就業者」に分類される。高齢者の貧困率は、経済協力開発機構(OECD)加盟国で圧倒的1位だ。

 新自由主義政策が招いたのは、限りなく不安定な民衆の暮らしだ。そして、それこそまさにファシズムの土壌だ。身をすり減らして働いても一生パワハラに苦しむことが分かり切った世の中。経済的、社会的に自分に与えられるべき地位は明確にあるのに、その地位が自分に回ってこないから奪われたという思いは膨らんでいくばかり。世の中は不公正で、何かが非常に間違っているという鬱憤、「地位不安」、そして憎悪に満ちた人々は、自らを救うために世の中を救おうとする。この過程において、スケープゴートに対する暴力は絶対に必要なだけでなく正当だ。彼らは世界を滅ぼす敵だからだ。このような脈絡から哲学者アルベルト・トスカーノは、「経済的価値の危機がやって来る時間」と「アイデンティティーの危機がやって来る時間」が収れんする現象としてファシズムを説明してもいる。

 尹錫悦は邪心、私怨、または私利私欲のために戒厳を宣布したのかもしれないが、彼の急発進のおかげで、大韓民国においてファシズム的扇動と暴力が急速に勢力を伸ばす場が開かれてしまった。極右ユーチューバー、極右オンラインコミュニティー、そして極右プロテスタントは、徐々により多くの人々を包摂しつつある。彼らの敵は従北(北朝鮮追従)左派、北朝鮮、中国、そして「フェミニズムという悪しき思想」と「同性愛助長勢力」だ。弾劾の背後には中国があり、弾劾の阻止はすなわち共産化を阻む道だ。同時に弾劾の阻止は自由民主主義を守り、保守的価値を守るための切実な使命でもある。そのように彼らは「生きやすい国」が戻ってくることを願いながら、彼らだけの理想的な国を頭の中に描いて崇拝する。「異物」が永久に除去される、恐ろしく暴力的で排他的な国の姿だ。

 極右勢力が拡散する陰謀論、嫌悪、暴力はすでに危険水位に達しており、韓国社会は分裂し続けている。人々が裁判所に乱入して暴力を振るうという初の事態に直面したにもかかわらず、日増しに多くの人々が偽りの情報にはまって憲法裁判所に不信を抱き、戒厳は避けられない選択だったと擁護する。にもかかわらず、むしろファシズムに寄生する政治家がいる。極右勢力に取り入って政治生命を延ばそうとする彼ら、ファシズムに立ち向かうことは考えず、権力を握ることばかりに関心を注ぐ彼ら。

 ファシズムの土台を掘り崩す道は、真に「生きやすい国」を作ることだ。誰もが平等に自分の力を発揮でき、いかなる労働者も差別されたり搾取されたりすることなく、生計さえ維持できない不安定労働が消え、「傾いた運動場」を正すための公共支出と再分配政策が意味ある効果をあげる国を作ることだ。逆に企業親和的、金持ち減税、成長中心の政策は不安と不平等を強め、さらに多くの人々を極右化するだろう。これから登場するであろう選挙公約をよく見よう。ファシズムに寄生するのは果たして誰なのか。

//ハンギョレ新聞社

キム・チョン・ヒウォン|米国アリゾナ州立大学教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1184444.html韓国語原文入力:2025-02-27 07:00
訳D.K

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