現在私たちが享受している文明は、過去に夢見たものにどれくらい近づいているだろうか。あるものは期待に及ばず、あるものは想像を超えている。
現在の生活に慣れている多くの人々は、新しく慣れない環境に適応することを避けたがる。これは変化の速度を遅らせる要因として作用する。しかし、一方では人間の想像を超える変化が起きたりもする。
例えば、19世紀末から20世紀初めのフランスの美術家たちが想像力を駆使して描写した西暦2000年の世界では、郵便配達員が飛行翼をつけて空中で手紙を配達する場面が出てくる。電子メールのようなデジタル通信手段の出現を想像できなかったためだ。想像力そのものが現在の知識を基盤にしているため、全く異なる次元の革新がなされた場合、未来は想像の領域を超えて展開される。
だから、過去の未来予測と現在の現実世界を比較してみることは、夢と現実の間の絶え間ない対話に耳を澄ます行為でもある。
1925年、英国の物理学者であり発明家でもあったアーチボルド・モンゴメリー・ロウ教授(1888~1956)は、100年後の世界を予測する著書『The Future(未来)』を出版した。今年2025年は、この本でロウ教授が提示した未来だ。
ロウ教授は最初の動力ドローンを発明し、テレビの開発にも参加し、飛行機や魚雷、ロケットに使われる無線誘導システムの父とも呼ばれる。彼は自分の研究開発の経験を基に、様々な分野で技術が展開する未来の世界を予測した40冊余りの著書を残した。
■自動化で得たものと失ったもの
最近、英国のオンライン記録物収集会社「Findmypast」が、過去の新聞のデジタルアーカイブからロウ教授の予測のいくつかを発掘して紹介した。
ロウ教授の未来予測でまず目につくキーワードは「個人化」だ。彼は未来の映画館の観覧客はいくつもの映画が同時に上映されるスクリーンの前に座って、見たい映画を選んで見られる特殊な眼鏡を着用するとの予測を示した。また、家庭用スピーカーとテレビ機械が新聞に取って代わり、ボタンを押せば世界中の放送に接続できるようになり、隠しカメラと盗聴装置を利用して犯罪者を捕まえる時代が来ると予測した。
2つ目のキーワードは「自動化」だ。現在のエスカレーターやムービングウォーク(動く歩道)のような移動型の階段や歩道の出現、手で番号を回すダイヤル式電話機の代わりに記憶された番号を自動的に返す自動電話機を予想した。
自動アラーム時計の登場は、1世紀前の英国の生活風景に基づいた予測だった。当時、英国では決まった起床時間に合わせて長い木の棒で窓を叩く仕事の人たちがいた。彼らを「ノッカーアッパー」(knocker-upper)と呼ぶ。ノッカーアッパーは、イギリスでは1940年代と1950年代にほとんど消えたという。ロウ教授は、自動アラーム時計の朝の起時間は9時30分になると予測した。しかしこの予測は外れてしまった。
きつく不快な仕事は人ではなく機械がするようになり、生活ははるかに楽になるだろうが、これが人類の健康には否定的な影響を及ぼす、という洞察にはうなずける。
■まだ想像の中にあるもの
3つめのキーワードは、再生可能エネルギーの活用だ。風力と潮力をエネルギー源として活用するという予測は、現在の再生可能エネルギー開発の動きと正確に合致する。
ハーブのような植物が街灯の役割をする街並み、心と心をつなげる電気通信装置など、彼の想像の中にはあったがこんにちまで実現されていないものもある。その代わり、ズボンをはく女性が標準になることや、出生前に胎児の性別を確認することなどは、すでにかなり前に実現された。
過去の未来予測を改めて見てみることは、私たちが過去からどれくらい前進してきたのか、現在の技術環境や革新のうちどれが未来世代の暮らしに大小の影響を及ぼすのかを探索してみる良い契機になるだろう。