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トランプ次期米大統領の西半球優先の対外政策「ドンロー・ドクトリン」

登録:2025-01-10 06:32 修正:2025-01-10 08:33
グリーンランドなどを米国領にすべきだというドナルド・トランプ次期米大統領の主張を、「ドンロ―・ドクトリン」と風刺するニューヨーク・ポスト紙の8日付の漫評=ニューヨーク・ポストのホームページより//ハンギョレ新聞社

 「ドンロー・ドクトリン」

 ドナルド・トランプ次期米大統領がグリーンランドとパナマ運河を米国領にすべきだという主張を繰り返していることを受け、米紙「ニューヨーク・ポスト」が8日付(現地時間)1面に載せたトランプ氏の対外政策の名称だ。1823年に米国の第5代大統領ジェームズ・モンローが掲げたモンロー・ドクトリン(モンロー主義)に喩えたもので、これは「欧州と米国の相互不干渉」を内容とする対外政策だった。欧州のさらなる膨張を防ごうとする趣旨があったが、アメリカの西半球は米国の勢力圏という意味にも受け止められた。

 トランプ氏が7日、大統領当選以降2回目の記者会見で、グリーンランドとパナマ運河を回復もしくは獲得するために軍事力の使用を排除しないと明らかにし、同盟国の間でも懸念と反発が高まっている。

 欧州諸国は直ちに批判の声をあげた。ドイツのオラフ・ショルツ首相は7日、「国境不可侵の原則は、非常に小さな国であれ非常に強大な国であれ、それが東であれ西であれ、すべての国に適用される」と述べ、懸念を示した。欧州の「東」であるウクライナで戦争を起こしたロシアと、「西」のグリーンランドに目をつけるトランプ氏の米国を同一線上において比較したのだ。フランスのジャン・ノエル・バロ外相も「米国がグリーンランドを侵略するのかと尋ねるなら、私の答えは『いいえ』だ」とする一方、「適者生存の法則が通用する時代に入った」と述べた。さらに「強者の法則が勝つ世の中で、私たちは覚醒し、私たちの力を構築しなければならない」と強調した。彼らが反発する背景には、グリーンランドがデンマーク領であり、デンマークは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国という点もある。

 トランプ氏は7日の記者会見で、カナダを米国の51番目の州にし、メキシコ湾の名称を「アメリカ湾」に変えるべきとするなど、北米大陸全体を米国化するという主張を繰り返した。第1次トランプ政権時代に米国家安全保障会議(NSC)秘書室長を補佐したアレクサンダー・グレイ氏は「トランプが目指しているのは、西半球に対する関心を呼び起こし、列強から守ること」だとしたうえで、「われわれの最優先順位は西半球の防衛であり、中国とロシアがわれわれの裏庭に来ているという考え(を持っている)」と語った。西半球は本初子午線の西側の半球を指すもので、アメリカ大陸をはじめヨーロッパとアフリカの西側の一部などを含む。トランプ氏はパナマ運河は「米軍のために作られた」とし、「われわれはパナマ運河をパナマに与えたのであって、中国に与えたわけではない」と述べた。パナマ運河の両側にある港が香港の企業によって運営されている点を指摘したのだ。

 アメリカ大陸が米国の勢力圏であり、ここを対外政策の第1順位に置くべきだというのは、共和党の伝統保守勢力が1980年代まで堅持していた考え方だった。その後、米国が中東を対外政策の優先順位に置き、西半球優先主義は色あせつつあった。しかし、米国の全世界的な介入縮小を掲げたトランプ氏の登場とともに、西半球優先主義に基づいた攻撃的な膨張主義が復活を遂げている。パナマとグリーンランドなどで中国とロシアの進出を防ぎ、アメリカ大陸を米国の砦として建て直すべきという「孤立的膨張主義」でもある。問題は、現在のトランプ氏の脅迫めいた発言が中ロを「けん制」するためのアプローチだとしても、現代の国際秩序では正当化できない点にある。

 トランプ氏が強制的にグリーンランドなどを獲得し、カナダを米国の51番目の州にすることはあり得ない。ただし、このような脅しを通じてトランプ氏は自身が望むことを最大限に引き出そうとするものと予想される。特にパナマ運河は、その運営を引き受けるかたちで事実上接収しようとし、グリーンランドでは資源開発と軍事基地拡大などで米国の勢力を拡大するものとみられる。グリーンランドの場合、太平洋島しょ国たちと結んだ「自由連合協定」などの形で、名目上の主権を残す一方、実質的に米国への軍事・経済的編入を図る可能性もあるとの見通しも出ている。

 トランプ氏の「アメリカ・ファースト」は、米国の勢力が衰退することへの対応だという指摘もある。全世界にわたり米国の介入が難しくなったことを受け、伝統的な勢力圏の再確立を狙う戦略だということだ。米国の同盟、特に欧州の同盟国としては、米国と欧州を一つにまとめた大西洋主義だけでなく、米国が標榜した「侵略主義と植民主義の反対」という原則さえも捨てる現実に驚愕せざるを得ないだろう。

チョン・ウィギル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1177206.html韓国語原文入力:2025-01-09 20:38
訳H.J

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