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[コラム]KAIST「口封じ」が振り返らせてくれる選択の厳しさ=韓国

登録:2024-02-21 07:42 修正:2024-03-05 08:52
尹錫悦大統領が16日、大田儒城区のKAISTで開かれた2024年学位授与式に出席し、拍手している=大統領室通信写真記者団//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が列席したKAISTの学位授与式で起きた卒業生の「口封じ」事件は、様々な面で「兆候的事件」だ。例外的な一回限りの事件だとは考えられないということだ。それだけに私たちの直面する危機の実状を多層的に振り返らせてくれるものだ。

 第1に、権威主義の復活と民主主義の規範の退行だ。大統領警護処の強制的な口封じは、わずか1カ月で再現された。今年1月18日には進歩党のカン・ソンヒ議員が尹大統領と握手した後に「国政基調を変えなければ国民が不幸になります」と叫び、口を塞がれて連れ出されている。その際にも過剰警護、権威主義的暴圧との批判の声があがっている。

 今回はあの時のように近接してもいなかったが、「R&D(研究開発)予算を復元してください」と叫ぶやいなや口を塞がれて連れ出されてしまった。尹大統領が国民の口を塞ぐ警護のあり方について、一抹の問題意識も感じていないということを、はっきりと示したものだ。警護処は「騒乱行為者を分離措置した」と主張した。尹大統領は今回も何もコメントしていない。今後も国会議員であれ普通の国民であれ、尹大統領に向かって何かを言おうとした瞬間に口が塞がれ、手足が持ち上げられてたたき出されるであろうことを沈黙で予告するものだ。恐怖を植え付けて口を封じるぞという暗黙のサインだ。権力者が国民の声を物理力で封じる所に、民主主義の居場所はない。

16日、大田のKAISTの学位授与式の途中、ある修士卒業生が「R&D予算を復元してください」と叫んだ。その直後、警護員がその卒業生の口を塞ぎながら制止している=大田忠南写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

 第2に、国の未来に暗雲を漂わせる尹政権の類例なき無能さと厚かましさも思い起こさせる。今回の口封じは逆説的に、尹大統領が口を封じてでも聞きたくないこととはどのようなことなのかを端的に示した。

 たたき出されたKAISTの卒業生が叫んだのは、研究開発予算を復元してくれという要請だった。尹大統領は昨年、突如として「分かち合い」を語りつつ研究開発予算を5兆2000億ウォン(16.6%)も削減した。国会で野党の反対にあったためようやく6000億ウォン増額し、最終的な減額率は14%となった。

 その結果は、KAISTを含む理工系の大学や研究所の無数のプロジェクトの中断と縮小だ。数多くの大学院生と修士や博士のキャリアが途絶え、生計を心配せざるを得ない立場に追い込まれている。科学技術は連続性が重要だ。一度研究が途切れてしまうと、世界的な流れに遅れをとってしまう。たとえ1、2年おいて予算が復元されたとしても、すでに人材が流出してしまって荒廃した研究のエコシステムを回復させるのは難しい。中長期的な国の競争力に致命傷を負わせたようなものだ。

 大韓民国は世界最貧国から世界ベスト10圏内の経済大国へと「量子ジャンプ」した。それを可能にした決定的な要因の一つが研究開発投資だ。それは中進国のわなから脱出させてくれた中心的動力だった。全国民が財布のひもを締めた1997年の通貨危機の時でさえ、研究開発予算だけは10.9%増やされた。いくら腹を空かせていても春に植える種は残しておく農夫の気持ちで、国の未来のための種銭だけは少しでも増やしていこうとしたのだ。それを、何の根拠もなしに大統領の投じた一言でばっさりと切って捨ててしまった。

 尹政権の無能さは度を越して久しいし、隅々に至るまで弊害の及んでいないところはない。その中でも研究開発予算の縮小は圧巻であり、金字塔だ。にもかかわらず尹大統領は卒業式で、「失敗を恐れず果敢に挑戦せよ。再び立ち上がれるよう、私がみなさんの手を固く握る」と語った。大ぼらというのはこういうことを言うのだろう。尹大統領自身は一方的に言いたいことを言っておきながら、国民の苦言は強制的に封じた。独裁者を表す英単語「ディクテーター(Dictator)」は「一人で話す人」を意味する。

 第3に、私たちが直面することになる選択の厳しさについて振り返らざるを得ない。与党は今回の口封じについて「交通事故を誘発し、保険金を巻き上げる保険詐欺犯の行い」(ユン・ジェオク院内代表)だと被害者を非難した。ハン・ドンフン非常対策委員長は、大統領の機嫌を損ねることについてはいつものように口を閉ざしている。「キム・ゴンヒ特検法」と「ブランドバック」スキャンダルに対する沈黙と盲従モードへの転換の再現だ。

 このような政権勢力が総選挙で勝つと、どのようなことが起こるだろうか。人の脳の中のドーパミンは、期待していなかった補償が与えられた時に最も多く噴出する。いまだに審判は受けていないという自信に陶酔している尹大統領は、残りの3年間の国政を今以上の無能さと無責任さ、非道さで埋めていく可能性が高い。その時、国がどのようなことになるか、想像することさえ恐ろしい。検察が野党やメディアのあら探しをし、警察が集会を強制鎮圧し、警護員が国民の口を塞ぐという地獄道が繰り広げられるかもしれない。今が尹大統領の無能さと専横にブレーキをかける最後のチャンスだろう。

//ハンギョレ新聞社

ソン・ウォンジェ|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1129108.html韓国語原文入力:2024-02-20 17:21
訳D.K

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