本文に移動

[寄稿]尹錫悦大統領に自由を

登録:2023-11-04 07:37 修正:2023-11-04 08:18
尹錫悦大統領が昨年5月10日、ソウル汝矣島の国会議事堂前の芝生広場で開かれた第20代大統領就任式で宣誓を行っている/聯合ニュース

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領を恨めしく思ったこともあった。市民は大変なのに、尹大統領だけが楽しそうに見えたからだ。だけど、今は違う。大統領の顔から笑いが消えた。ソウル江西(カンソ)区長補欠選挙は、与党の惨敗に終わった。大統領に対する不支持が60%を突破してから、下がる気配がない。総選挙が近づいており、経済状況を見ると、来年が来るのが怖いほどだ。断言するが、「大統領の幸せな時間」はもう終わった。だから僭越ながら、あえて言わせてもらいたい。もう肩の荷を下ろして自由になられてはどうか。

 「自由」が35回も登場した大統領就任演説を聞いて思った。この方は自由な魂の持ち主であると。形式に囚われない普段の言葉遣いからして、もしかしたら詩人になれたかもしれない。そのような人を検察総長に、政治家に、さらには大統領候補にまで押し上げたのは、ほかならぬ文在寅(ムン・ジェイン)政権と共に民主党だ。皮肉なことに、自由をこれほど大切にする人が、この5年間経験した運命はあまりにも他律的だった。運命の波にさらされた当選者の内面で、自由への熱望は静かに、しかし確実に凝縮されたのだろう。その熱望は就任初の第一声から「35回にわたる自由の連呼」としてあふれ出した。

 自由、特に個人の自由は民主主義社会が決して放棄できない重要な価値だ。35回ではなく70回強調しても言い過ぎではないかもしれない。問題は、政権2年目の今、大統領があれほど叫んだ自由がどれだけ実現しているかだ。ある社会の自由を測定・比較する代表的基準はまさに「言論の自由」だ。しかし、世の中のすべての自由民主主義国家が驚愕することが、いま大韓民国で起きている。検察が、昨年の大統領選挙時に尹錫悦候補(当時)に対する検証報道をした「京郷新聞」などいくつかの報道機関に対し、相次いで家宅捜索を行ったのだ。大統領制の下で、大統領選候補は誰よりも厳しい検証の対象だ。様々な角度から検証する過程は選挙のハイライトであり、報道機関が総力を上げなければならない専門の領域だ。なのに、大統領候補を集中取材したとの理由で、検察が報道機関を家宅捜索するとは、「自由の全面否定」に他ならない。

 言論弾圧の深刻さは、いわゆる保守陣営からも反発する声があがるほどだ。右派に分類されるある言論学者は、代表的な右派新聞への寄稿で、尹錫悦政権のフェイクニュース政策について「反憲法的言論統制」だとして強く批判した。一部を紹介する。「マスコミの一部には明らかに悪意的な虚偽の報道が存在する。しかし、これを口実にした権力の言論統制の試みは、より大きな危険性をはらんでいる。今は嘘のように見える報道がやがて事実であることが明らかになったらどうするのか。国家は何が真実で何が嘘なのかをどうやって判断するのか。その判定が特定の政治権力の観点ではないと、どう断言できるのか」(しばらくしてこの寄稿は新聞社のウェブサイトからから消えた)

 数日前、大統領は小商工人、自営業者の苦情を伝えながら、このようにおっしゃったという。「外国人労働者を雇用した飲食店では、果てしなく上がる人件費のせいで自営業者が生死の岐路に立たされていると絶叫し、『外国人労働者の賃金を内国人と同等に支払うべきという国際労働機構(ILO)条項から脱退しなければならないのではないか』と非常対策作りを訴えた」

 実に不思議だ。少なくとも尹錫悦大統領なら、国際条約まで違反して他国民の人権を剥奪しようとする小商工人と自営業者をこのように説得すべきだった。「ある人の自由が蹂躙されたり、自由市民になるために必要な条件を満たさないなら、すべての自由市民は連帯して助けなければなりません。(…)国際的にも飢餓と貧困、公権力と軍事力による不法行為で個人の自由が侵害され、自由市民としての尊厳ある暮らしが維持できないなら、すべての世界市民が自由市民として連帯して助けなければならないのです」(大統領就任の辞)

 大統領は市民の自由を拡大するために自分の自由を制限しなければならない職業だ。野党はもとより、自分に反対する人々まで包容しなければならない。残念なのは、自由な魂の持ち主である尹大統領にとっては、それがあまりにも重荷であるように見えることだ。大統領として一体何をしたいのか、誰も、本人さえも分からないというのが最も深刻な問題だ。すでにレームダックに陥ったと言われるのもそのためだ。しかし、時によっては大統領制を内閣制のように運用することもできるのではないだろうか。そのような発想からすると、大統領にも市民にも皆にとって幸せな選択肢が一つだけある。2017年のろうそくデモで知った事実は、大韓民国のシステムが大統領の国政空白にもびくともせず回り続けるという点だ。市民は準備ができている。

//ハンギョレ新聞社
パク・クォニル|独立研究者、『韓国の能力主義』著者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1114799.html韓国語原文入力:2023-11-03 07:31
訳H.J

関連記事