李明博(イ・ミョンバク)元大統領が拘束されたのは、今から4年9カ月前の2018年3月だった。ソウル中央地検特捜2部(ソン・ギョンホ部長)と先端犯罪捜査1部(シン・ボンス部長)が令状を取り、拘束を執行した。
令状に明示された内容は特定犯罪加重処罰などに関する法律の収賄・脱税・国庫損失、特定経済犯罪加重処罰などに関する法律の横領、職権乱用権利行使妨害、大統領記録物管理法違反の6つの罪名、10あまりの容疑だった。
当時、積弊清算捜査を指揮した尹錫悦(ユン・ソクヨル)ソウル中央地検長は、国民の拍手喝采を浴びた。文在寅(ムン・ジェイン)大統領の国政支持率が70%台で高止まりしていた時代だった。
まさにその尹錫悦検事が大統領となり、27日の国務会議の議決を経て、李明博元大統領を特別赦免する。結果的に捕らえた人が釈放する格好だ。ただ「結者解之(結んだ者が解くべきだ)」と表現して良いものか。国の刑罰権を執行する組織の幹部が紆余曲折の末に大統領の座についたことで起こる奇異な現象だ。尹錫悦大統領が何を語るのかがとても気になる。
李明博元大統領は拘束直前、「いつか私の本当の姿を取り戻し、言いたいことが言えると期待している」、「私はそれでも大韓民国のために祈る」と述べた。今もそう思っているだろうか。
思ってはいないだろう。財産をすべて奪われ、監獄に行くという憂き目にあうことを事前に知っていたなら、最初から大統領になるなどとは言わなかっただろう。
韓国の大統領は極限の職業だ。歴代の大統領はみな不幸だった。李承晩(イ・スンマン)、朴正熙(パク・チョンヒ)、全斗煥(チョン・ドゥファン)の各大統領は独裁とクーデターの罪に対する罰を受けたとしよう。
しかし、1987年の改憲後の大統領たちも退任後には監獄に行ったり、在任中に息子が逮捕されたりするという恥をかいた。なぜだろうか。共和国の大統領が帝王の権力を行使したからだ。
歴代のあらゆる大統領は、自分は前任者の轍(てつ)は踏まないと確信していた。しかし、大方が前任者の轍を踏んだ。人間は意外と愚かな動物なのだ。
尹錫悦大統領は違うだろうか。5年後に退任したらどうなるだろうか。今は「私は決して不幸な大統領にはならない」と断言するだろう。果たしてそうだろうか。
早くも悪い兆しが見える。国民の力は国会の議席が115に過ぎない。にもかかわらず、尹錫悦大統領は自分のことを帝王的大統領だと錯覚しているようだ。
労働改革、教育改革、年金改革を行うと明言している。すべきだ。だが、どうするのか方法論が見えない。改革は目標の設定より方法論の方がはるかに難しい。
来年度予算案の国会合意について、大統領室は「雇用をさらに作り出し、経済を活性化させるために財政を投入しようとしたものの、力に押されて民生予算が後退した。このままでは経済危機を突破できるのかが懸念されるが、尹錫悦政権は黙々と最善を尽くす」と述べた。
「俺は正しく、お前は間違っている」という論理だ。相も変わらずしつこく野党のせいにしているのだ。
野党が足を引っ張るから働けないという主張は、2024年4月の総選挙をにらんだものだろう。しかし、与党が総選挙で勝てば、任期後半の尹錫悦政権は政策がすべて推し進められるのだろうか。
不可能だ。2020年の総選挙で圧勝した民主党も、文在寅政権の政策をすべて推し進めることはできなかった。
どうすればよいのだろうか。どうすれば尹錫悦大統領は前任者の轍を踏まずに済むのだろうか。
第1に、協治を行うべきだ。
歴代大統領は概して野党を弾圧した。対話と妥協はあまりなかった。その反作用で、野党は政権勢力を失敗させることに没頭した。
尹錫悦大統領はそうであってはならない。野党を抱擁すべきだ。対話し妥協すべきだ。人間的に嫌いであってもそうすべきだ。これこそまさに尹錫悦大統領自身の生きる道だ。
第2に、政治システムを変えるべきだ。
韓国の現行の大統領制は、設計ミスで事故が頻発する自動車のようだ。いくら有能なドライバーが運転していたとしても事故は避けられない。尹錫悦大統領は任期中に帝王的大統領制という自動車から降りるべきだ。
まず当面は、地方区小選挙区制が中心となっている選挙制度の変更に力を注ぐべきだ。政党支持率と議席数を一致させ、特定政党による特定地域の総なめを防ぐべきだ。多党制へと向かうべきだ。
そうしてはじめて対話と妥協の政治が蘇る。そうしてはじめて、尹錫悦大統領も退任後に生存の空間を確保することができる。
ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )