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[寄稿]FIFAカタールワールドカップ:サッカー、政治、そして資本主義

登録:2022-11-28 02:32 修正:2022-11-28 08:11
ドイツ代表チームの選手たちが昨年3月25日、サッカーのワールドカップ欧州予選のアイスランド戦の前に人権メッセージを伝えている=デュースブルク/ロイター・聯合ニュース

 自分にとって最初のワールドカップ(W杯)となった1986年を、私ははっきりと覚えている。幼い頃の驚くべき経験だからだ。まだ幼かった私は朝早く登校しなければならなかったので、1試合を全部見ることはできなかった。ドイツ人は子どもたちの就寝時間に比較的厳しいのだ。

 しかし父は私を地元の酒場に連れて行き、初戦の前半戦を見せてくれた。中年のサッカーファンたちは私にとてもやさしかった。炭酸飲料とポテトチップスを添えたカレーソーセージ、アイスクリーム。そして当時、ドイツチームは本当に強かった。もちろん優勝するほどではなかった。アルゼンチンの背の低いミッドフィルダー、ディエゴ・マラドーナはどのチームにとっても手ごわい相手だった(ドイツは同大会で準優勝している―訳者)。しかし今もとても良い思い出だ。率直に言って、私はサッカーといえば頭に血がのぼる国で育った。FIFAワールドカップは4年に1度めぐってくる、議論の余地なく最も興味深い瞬間だった。サッカーに関心のない人たちも試合には夢中になった。

 時間を現在に戻そう。今は2022年で、カタールW杯が始まっている。しかし、サッカーに対するドイツの熱気はやや冷めたように思える。私の子ども時代のようには夢中になっていないのは確かだ。2006年ドイツW杯、2014年ブラジルW杯もずいぶん昔のように感じられる。ある世論調査によると、ドイツ人の10人に7人はW杯の試合を見るつもりはなく、77%が2018年ロシア大会以降はW杯に対する興味が低下したと答えた。うち51%はもともとサッカーに関心がないと答えた。ありうることだ。

 W杯を忌避する最大の理由として、回答者の57%はカタールの人権状況に言及した。特に移住労働者に対する処遇を大きく批判している。移住労働者たちはカタールの非常に残酷な環境で競技のインフラを建設した一方で、彼らの健康と生活はほとんど考慮されなかった。また、カタールというこの小さな湾岸国家には性的マイノリティ(LGBT)問題がある。回答者の52%は、これまで以上に拡大したスポーツの商業化を批判している。ドイツ代表チームに対してほとんど、または全く関心のない人(回答者の78%)のうち、72%が代表チームの商品化をその理由にあげた。

 もちろんプリンがうまいかまずいかは食べてみないと分からない。ドイツチームが善戦すれば、W杯に対する関心は高まるかもしれない。だとしても、ドイツで最も人気のあるスポーツがこのようにそっぽを向かれているという事実は衝撃的だ。あるスポーツチームを応援するということは、ドイツだけでなくどこであろうと非常に感情的な問題だ。カタールW杯をめぐる批判や過度な商業化は、スポーツと大衆の感情的なつながりがどのように断絶しうるかをよく示している。より一般的に言えば、これはドイツだけでなく世界的に、人権や私たちの生活のあらゆる面で金がより深く浸透しているというような倫理的問題に対して、大衆の懸念が高まっていることを示している。大衆はソーシャルメディアを通じて、あるいはテレビをつけないというやり方で、不満と拒否反応を表現する。

 このような現象は国際サッカー連盟(FIFA)、各国のサッカー連盟、W杯のスポンサー企業など、サッカーに関与しているあらゆる人にとって大きな課題だ。彼らがスポーツにアプローチするやり方については、根本的な再考が必要だ。さらに(五輪などの)その他の巨大スポーツイベントもこのような課題に直面するかもしれない。とりわけ、大きな大会の誘致は肯定的な社会的変化の契機になるというスポーツ業界関係者の一般的な主張に、大衆が同意するかは疑問だ。このような問いを強いるのはカタールだけではない。例えば2018年のロシアW杯や2008年の北京夏季五輪も同じだった。大衆はむしろ(このような国は)スポーツを通じてイメージを洗浄すると考え、スポーツ界の関係者がこのような機会を与えたことに不満を感じている。究極的にスポーツ産業の消費者であるファンは、より批判的で実に冷笑的になった。そうだ。ファンの態度は常に一貫性がないかも知れないが、彼らの倫理的憂慮は変化の動力となるかも知れないのだ。

//ハンギョレ新聞社

ティモ・フレッケンシュタイン|ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス社会政策学科准教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1069105.html韓国語原文入力:2022-11-27 19:07
訳D.K

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