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[梨泰院惨事]「市民より大統領室」に目を向けた警察…惨事はその時から始まった

登録:2022-11-08 05:15 修正:2022-11-08 08:13
尹錫悦大統領が7日午前、龍山大統領室庁舎で国家安全システム点検会議を開いている=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 先月29日午後8時32分、ソウル地方警察庁のキム・グァンホ庁長の退勤前の最後の無線は「集会関連への激励」だった。イ・イムジェ前龍山(ヨンサン)警察署長は午後9時24分、「集会管理」後にソルロンタン(牛骨スープ)屋で食事をした。惨事を予告する「圧死」の危険を知らせる通報が相次ぐ中、警察指揮部の関心は「集会」に集中していたわけだ。

 5日、警察が公開したキム庁長とイ前署長の梨泰院(イテウォン)惨事当日の足取りをみると、キム庁長は同日の集会管理を激励する最後の無線から4分後にソウル庁を出て家に帰った。惨事発生から1時間21分後の11時36分になってようやく自宅で龍山署長の報告を受けて梨泰院の状況を把握し、11時44分から指示を開始した。

 惨事現場近くにいたイ前署長の動きはさらにゆっくりしていた。午後9時24分、集会管理を終えて食事をし、9時47分にそこを出て官用車で梨泰院へ出発した。惨事現場からわずか800メートルほど離れた緑莎坪(ノクサピョン)駅近くから車で進入しようとしたが、10時55分~11時1分になってようやく車から降りた。イ前署長が車内で1時間以上滞在している間に惨事が起きた。(10時15分)現在まで、イ前署長が車内から下した指示や報告は確認されていない。

集会に67個部隊、尹大統領の自宅にも2個機動隊

 キム庁長とイ前署長の動きだけでなく、この日の警察の関心は集会と大統領の警備に集中していたものとみられる。「キム・ゴンヒ(尹大統領の夫人)特検・尹錫悦退陣のための全国集中ろうそく大行進」など、ソウル都心で開かれた集会に67個警察機動部隊が配置された。 尹大統領の自宅がある瑞草(ソチョ)地域の場合、集会申告はなかったが、2個機動隊が交代で勤務に当たっていた。

 一方、市民の保護が絶対的に必要だった梨泰院惨事現場では、混雑の危険を防ぐための警察はほぼ見当たらなかった。午後6時34分から市民が112(警察)に11件の通報をしたが、警察はこのうち4件だけ現場出動した。午後7時34分頃、現場の警察が支援を要請したが、すでに人波を統制するのが難しい状態だった午後9時30分頃、20人の交通機動隊が集会管理を終えて合流しただけだ。

 社会的惨事の専門家は、このような警察指揮部の行動と警察配置でみられる偏向性に注目する。パク・サンウン元4・16セウォル号惨事特別調査委員会(特調委)調査官は「政策のシグナルや政府の基調変化が警察の態度や資源の配分にどのような影響を及ぼし、それが惨事とどのようにつながっているのかを明らかにすることは、司法的処罰とは別に、『何が重要か』という質問を投げかける社会的惨事の調査の重要な部分」だと語った。

集会対応の警察の増加と生活安全警察の減少

 市民の生活の安全と保護よりも集会管理や大統領室のセキュリティに集中する政府と警察の態度は、惨事以前から明らかになっている。特に龍山署は、大統領執務室の龍山移転に伴い、これまで青瓦台や光化門(クァンファムン)広場などでデモが開かれていたため鍾路(チョンノ)警察署が主に担当していた集会・デモの管理のかなりの部分を引き受けることになった。

 このため、大統領室以前の今年2月に比べ、10月の龍山署の警備担当のうち、集会対応担当は8人増えた。大統領の出勤途中の交通統制などを担当する交通安全係が20人増えた。 一方、生活安全と民生業務を主に担当する防犯パトロール隊は9人減った。大統領室のセキュリティと集会統制のために市民の安全に投入される警察を減らしたともみられる内容だ。龍山署のある警察は「(大統領室の移転とともに)業務が過重になったのは事実」だと話した。

尹錫悦大統領が7日午前、龍山大統領室庁舎で国家安全システム点検会議を開いている=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 集会や大統領室と関連した業務が相対的により重要視される警察内部の雰囲気も、このような偏りを後押しした可能性がある。警備業務を主に引き受けたある警察幹部は「教育段階から混雑警備の概念を身につけ実戦訓練を受けるが、実際の業務にあたっていると、人事権者が関心を置く集会の警備や時局の警備に気を使うことになるのが事実」だとし、「大統領室の移転などで関連業務が急増した龍山署で、余力がなかったとみられる」と語った。

 惨事当日に梨泰院に配置された警察も、主に麻薬取締りや過剰露出などの風俗取締りに動員された。警察は惨事当日、当初136人が梨泰院に配置されたと明らかにしたが、共に民主党の梨泰院惨事対策本部が警察庁から受け取った資料によると、麻薬取締りなどのための私服刑事約50人、模擬銃砲や過度露出の取締り担当9人、交通警察26人などが含まれている。彼らを除けば、梨泰院交番の警察32人を含め、50人前後の警察だけが人波による惨事の危険を管理していたわけだ。

 2017~2022年の龍山署のハロウィーン対応報告書によると、2019年までは「人の密集と安全事故」に焦点を合わせていたことに比べ、今年は「不法・無秩序に対する厳正対応」に重きを置いた。これもまた、以前から続いてきた政府の基調と無関係ではない。ユン・ヒグン警察庁長官は8月の就任直後、国民体感戦略課題第1号として「麻薬との戦争」を宣言した。尹錫悦政権は110大国政課題安全課題の冒頭に「犯罪から安全な社会の具現」を盛り込んだ。社会的惨事や大型事故と関連した内容は国政課題に含まれなかった。

パン・ジュノ、オ・ヨンソ記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1066047.html韓国語原文入:2022-11-0718:00
訳H.J

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