ロシアのウクライナ侵攻が長期化するにつれ、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の人気が上がる一方、強大な影響力を行使していた少数新興財閥(オリガルヒ)は影響力を失っているという分析が出た。
英経済紙「フィナンシャル・タイムズ」は5日(現地時間)、金融・製造業から放送まで所有するウクライナのオリガルヒのヴィクトル・ピンチューク氏の首都キーウ郊外の邸宅が、義勇軍の臨時野戦病院などに使われており、これはオリガルヒの状況が急変したことを象徴していると指摘した。ピンチューク氏は2月末のロシア侵攻後、ウクライナをしばし離れて戻り、義勇軍が自宅を臨時に使用することに同意した。しかし、戦争が長引くにつれ、義勇兵らはこの邸宅を去ろうとしなくなっている。彼らは地元メディアを邸宅に招待し、「我々は勝利をおさめる時まで、ここに留まる」と宣言した。
同紙によると、これは2014年に東部ドンバス地域でロシア系分離主義勢力が内戦を起こした時とは完全に異なる状況を示すものだ。ソ連から独立し、国有財産の民営化などにより巨額の富を得たオリガルヒは、当時は戦争に必要な資金を支援し、地域行政も直接担い、戦争に積極的に介入した。鉄鋼財閥のセルヒ・タルタ氏は、紛争地域のドネツク州知事に任命され、金融・製造業・メディアなどを率いるイーホル・コロモイスキー氏は、ドニプロペトロウシク州知事を引き受けた。行政を担ったオリガルヒは、自分たちが所有するメディアを動員して状況を主導し、一部のオリガルヒは義勇軍に直接資金を支援した。
現在の状況は一変している。ウクライナ軍組織は8年前とは比べ物にならないほど整備され、オリガルヒが介入する余地はまったくなくなった。現在のオリガルヒができることは資金を寄付する程度だと、フィナンシャル・タイムズは報じた。ティモフィー・ミロバノフ元ウクライナ経済相は「彼らは道に迷ったようだ。何をすべきか分かっていない」と評した。
戦争が長引き、オリガルヒが受ける経済的負担も相当なものになる。東南部マリウポルにあるアゾフスタリ製鉄所の所有者であるリナト・アフメトフ氏は、ロシア政府に200億ドル(約2兆6000億円)の被害の補償を要求する訴訟を起こしている。アゾフスタリ製鉄所はウクライナ軍が80日間以上ロシア軍と対立し戦った拠点であり、長期間の戦闘により施設の大部分が破壊された。
これにともない、ウクライナのオリガルヒが政治的な影響力を発揮する余地も減っている。オリガルヒが所有するテレビ放送は、政府の放送指針と検閲のため、現在は政府の公式の論調とは違う声を出すこともできない状況にある。
戦争終結後、ウクライナ政府がオリガルヒ攻撃に本格的に乗りだす可能性も提起されている。ゼレンスキー政権でオリガルヒ規制の先頭に立った人物である国家安全保障国防会議のオレクシー・ダニロウ委員長は、フィナンシャル・タイムズに対し、ロシア侵攻以降オリガルヒが「様々な態度」を示したと述べ、このうちいくつかに対しては終戦後に責任を問うことになるとほのめかした。
同紙は、米国などが戦争後にウクライナの再建事業を支援し続ける場合、腐敗清算を含む改革を要求する可能性が高く、オリガルヒが経済的な利益を得るのは難しいと予想した。英国のシンクタンク「王立国際問題研究所」のオリシア・ルツェビッチ・ウクライナプログラム責任者は、「ウクライナがクリーンにならない限り、回復能力を示すことはできないという認識がある」としたうえで、「オリガルヒは、ウクライナ独立以来享受してきた支援の恩恵などを受け続けることはできないだろう」と指摘した。ロシアのウクライナ侵攻により、オリガルヒ体制の弱体化と西側に対する経済依存度が強まる可能性が高くなったということだ。