検察の人事権を握ったハン・ドンフン法務部長官が、政府の高位職人事の検証を担当する自身直属の大規模組織の新設を予告したことで、「検察キャビネット捜査」を憂慮する声が政界と官庁からあがっている。情報収集と検察の捜査を分ける防火壁そのものがないため、人事の検証過程で収集された広範な個人情報が今後は検察捜査と常につながりうるということだ。法務長官と民情首席を兼ねる「ハン・ドンフン小統領」の登場が現実のものとなりつつある。
■「ハン・ドンフン直属民情首席室」
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は当選後、民情首席室を廃止する代わりに、連邦捜査局(FBI)が人事検証を担う米国のように、法務部と警察に高位公職者の人事の検証を任せると述べた。このような構想は、検事と警正(警察の職階のひとつ)級の警察の中間幹部などからなる「法務部長官直属の人事情報管理団」の新設を法務部が24日に立法予告したことで、青写真が提示された。文在寅(ムン・ジェイン)政権では国家情報院の国内情報収集機能が廃止され、大統領府民情首席室が警察の情報機能を通じて人事検証や世評の収集などを担ってきたが、この組織と業務をハン・ドンフン長官直属の機関へと移すということだ。
法曹界からは、全国の検察庁を指揮する法務部が政治家や公務員の人事検証を名目として「合法的に」情報収集を行うことは、検察権の肥大化や乱用を招く可能性があるとの声があがっている。しかもハン長官は、検察の直接捜査に絶対に必要になるとして、文在寅政権で縮小・廃止された最高検察庁犯罪情報企画官室の復活を予告している。これこそ、法務部と最高検察庁が競うように収集した公職者などの個人情報が、人事検証にとどまらず捜査情報としても利用されうると憂慮されている理由だ。
このような懸念が現実のものとして迫ってくるのは、歴代のどの政権にもなかった「大統領-法務長官-検察指令部」とつながる「尹錫悦の直轄体制」が構築されているからだ。慶煕大学法学専門大学院のチョン・テホ教授は「このかん、検察組織の過度な権力を牽制するために多くの犠牲とコストが払われてきたが、その方向性と相反する現象が起こりつつある。人事検証の過程で収集された情報が自然に検察へと渡り、捜査の基礎資料として利用される可能性は排除できない」と述べた。
■「個人情報収集-犯罪情報-検察捜査」一元化の懸念
法務・検察の情報機能の拡大は、これまで検察・警察の捜査権調整の局面で法務部が掲げてきた論理とも相反する。検察は、強力な情報収集組織を持つ警察が捜査権まで持つことになれば、捜査権の乱用が予想されると主張してきた。ところがハン長官の率いる法務部が「支庁級」規模の常設の人事情報管理団を立ち上げることになったことで、事実上、捜査と情報収拾の機能が一カ所に集まることになった。ある警察の中間幹部は「尹大統領が特別に指示して新設される組織であるだけに、警察の中でも情報パートなどから優秀な人材が人事情報管理団に派遣されるとみられる。こんなことなら、なぜ民情首席室を廃止したのかと疑問が生じるほど、法務部機能が強化されるわけだ」と語った。
民主社会のための弁護士会司法センターのチャン・ユシク所長は「市民社会が情報警察を廃止すべきだと指摘してきたのは、治安情報ではなく人事・政策情報を収集し、権力と癒着することが懸念されるからだ。検察の犯罪情報収集機能を復活させ、法務部へと人事情報収集機能も移転することになれば、民情首席室の弊害と指摘される諸事項が法務部内部でさらに強まって現れる可能性がある」と指摘した。
この過程で、「情報の質」で優位に立つための法務部と警察との競争が起きる可能性もある。警察の関係者は「人事検証のための世評の収集は、当事者の同意を得て、債務関係はもちろん異性関係をも含めた広範な情報を収集する。検察中心の人事検証は、法的な問題点を重点的に問うものとなりうる」と述べた。新設される法務部の組織としては、警察が持っている既存の底引き網式の情報収集機能に追いつくのは難しいということだ。
■「米FBIは司法省の独立機関」
法務部長官直属の人事検証組織は、尹大統領が述べた米国のFBIの人事検証システムとはかけ離れている。建国大学法学専門大学院のハン・サンヒ教授は「FBIが遂行する人事検証は、韓国式の世評照会ではなく、犯罪や不正の検証だ。その上、司法省から独立した機関であるFBIを、政務職の長官が預かる法務部となぜ比較するのか、理解できない」と述べた。
国家公務員法上は、人事検証は人事革新処長の権限だ。人事検証とまったく関係のない業務を担当する法務部が人事検証機能を担うのは、法律が定める権限の制限を迂回するものであり、国会の立法権を侵害すると指摘する声もあがっている。