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[インタビュー]「佐渡金山の登録推進は『植民地主義克服の努力』に逆行するもの」

登録:2022-02-15 02:44 修正:2022-02-15 10:22
日本政府が世界遺産登録を推進する佐渡金山は、朝鮮人1500人余りが強制労働に動員された「負の歴史」の現場だ。写真は佐渡金山の選鉱場跡=佐渡島の金山ホームページより//ハンギョレ新聞社

 「日本政府が強制動員の歴史を否定したまま登録を推進するならば、これまで鉱山の歴史的価値を広めようと登録を推進してきた関係者や強制連行の歴史の事実に向き合って取り組んできた人々と連行被害者の尊厳を踏みにじることにもなります」

 日本政府が「佐渡島の金山(佐渡金山)」のユネスコ世界遺産への登録を進める方針を明らかにしたことを受け、先月25日、日本の市民団体「強制動員真相究明ネットワーク」はこのような声明を発表した。さらに1日、日本政府が実際に世界遺産登録申請を強行すると、強制動員真相究明ネットワークをはじめとする日本国内の志ある市民団体は相次いで批判の声を上げた。日本政府は佐渡金山が江戸時代の伝統手工業で鉱物を採った歴史的空間だと説明しているが、アジア太平洋戦争当時、朝鮮人1500人余りが強制労働に動員された悲劇的な場所でもある。日本政府はこのような歴史を隠したまま、戦国時代から江戸時代までの歴史だけを世界遺産登録の対象にする構えだ。

 これに先立ち、日本政府は2015年、端島(軍艦島)ユネスコ世界遺産登録と全く同じ態度を示した。当時は、一旦端島を世界遺産に登録すると「韓国人などが自分の意思に反して動員され、働かされたことがあり、こうした歴史を共に知らせるためのインフォメーションセンターなどを設置する」と約束しておきながら、これを守らなかった。昨年、約束の履行を求めるユネスコの再要求まで無視した状況で、再び韓国人強制動員の歴史が刻み込まれた佐渡金山の世界遺産登録を進めているのだ。

 これについて、強制動員真相究明ネットワーク事務局長の中田光信さんは本紙のインタビューに対し「佐渡金山が強制労働の現場だったという韓国側の主張は事実」だとし、「日本政府は歴史を否定せず、強制労働事実を認めるべきだ」と指摘した。彼は「ユネスコが関連国である韓日間の合意抜きに佐渡金山の世界遺産登録を承認するようなことになれば、世界文化遺産の存在意義自体が失われる」と警告した。インタビューは10日、電子メールによる質問に書面で答えてもらう形で行われた。

中田光信「強制動員真相究明ネットワーク」事務局長=民族問題研究所提供//ハンギョレ新聞社

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朝鮮人強制労働の歴史、またもや否定

-佐渡金山はどのような場所か。

 「佐渡鉱山は1600年代初めに金脈が発見されて以来、一時日本最大の金鉱山だった。日本政府は江戸時代の伝統手工業で鉱物を採ったなどの理由を挙げて世界遺産としての価値を主張しているが、一方で過酷な労働と労働災害、それに対する労働者の抵抗があった。特に第二次世界大戦当時、総動員体制の下で日本政府が植民地の朝鮮人を強制労働に動員した負の歴史を抱えている場所でもある」

-端島の歴史的真実を知らせるという約束が守られないまま、佐渡金山の世界遺産登録への試みが本格化している。

 「昨年のユネスコ第44回世界遺産委員会は、日本政府の約束不履行について『極めて遺憾』(Strongly regrets)であるとして改めて履行を求める決議をあげた。日本政府は明治産業革命遺産について12月1日までに産業遺産情報センターの展示の『改善』報告をユネスコに提出しなければなならない。日本政府がこれまで誤魔化してきた強制連行の歴史の事実に正面から向きあうのかどうかの今、正念場に来ていると感じる。今回の佐渡鉱山の登録について当時の佐渡鉱山での強制連行を『韓国の独自の主張』という認識を変えない限り、世界遺産登録は絶望的であると言わざるを得ない」

-当初今年の登録推進に否定的だった日本政府が、安倍晋三元首相や高市早苗自民党政務調査会長をはじめとする保守強硬派から「弱腰外交」という批判などを受け、方向転換したことが分かった。

「『植民地支配と侵略によってアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた』ことについて反省とお詫びを述べた1995年のいわゆる村山談話以降、これに反対し日本の侵略戦争を肯定し植民地支配責任を否定し「慰安婦」問題などで歴史修正(改ざん)の先頭に立ってきた政治家が安倍氏や高市氏だ。また、岸田文雄首相は今夏の参院選を目前に控え、『弱腰』ととられるのを懸念して、それまで申請に慎重だった姿勢を翻した」

-強硬派が佐渡金山の登録に執着する理由は何だと思うか。

 「安倍氏らの目的は韓国という敵を作りだしてナショナリズムを高揚させ、隣国に対する敵がい心をあおることによって自らの政治基盤を広げることだ。嫌韓ナショナリズムを煽ることに成功すればそれでいいのだと思う。そして岸田政権が世界遺産の登録に失敗すれば自分たちに次の出番が回ってくると考えているのではないだろうか」

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「歴史否定、政治的悪用はいけない」

-この問題をめぐって日本内部でさえ懸念の声が高まっているのはなぜだろうか。

 「そもそもユネスコ世界文化遺産は何のためにあるのか、その意義をまず確認する必要がある。2度の悲惨な世界大戦を経験した国際社会は、戦争を抑止するために国際連合(UN)を発足させた。そして個人の人権の尊重無くして平和は作れないとして世界人権宣言を発し、教育や文化、科学を通じて人々の『心の中の平和のとりで』を築くためにユネスコを設立した。より幅広い社会的、文化的、歴史的、自然的状況と背景に関連させて、世界文化遺産としての価値を有するかを判定しなければならないという内容の憲章を採択した。このような意味で、世界遺産は人類の平和を促進するための『肥やし』になるものでなければならない。佐渡鉱山でも過酷な労働や労働災害、それらに対する労働者の抵抗、そして戦時中においては総動員体制下での植民地朝鮮からの強制動員など日本の多くの産業遺産と同じ負の歴史を抱えている。このような産業遺産については負の歴史も含めた『歴史全体』を記載し解説しない限り登録は実現しない」

-毎日新聞は最近この問題に関する社説で「近隣国との対決姿勢を演出する思惑で文化を政治利用するような振る舞いは、むしろ国益を損ねるものである」と指摘した。

 「徴用工問題(強制徴用問題)では日本のほとんどのマスコミが政府の主張を垂れ流したが、今回はアジア太平洋戦争時の強制連行は『歴史認識』として否定できないという論調で多くの新聞の社説などで書かれた。しかし、依然として読売新聞や産経新聞、NHKなどは日本政府の登録に向けた動きをそのまま報道した。特にNHKは『歴史戦チーム』というフレーズを使った。歴史を戦争に例えて勝敗を決するものという発想自体がそもそも間違っている。認識が食い違うのであればお互いに「歴史の真実」を追及する議論を深めればよい。対立を煽る行動によって誰が利益を得るのか、見抜かなければならない」

-端島の歴史否定問題が解決されていないため、現実的に(佐渡金山の)追加登録の可能性は低いという見方もある。

 「現在、ユネスコは世界遺産登録の過程で関連国間の対話を行うようにしている。日本と韓国の間でこの問題について『戦争』ではなく『対話』をしなければならない。もしユネスコが今回、日本政府の圧力に屈して関係国である韓国との合意抜きに承認するようなことになれば、今度は世界文化遺産の存在意義自体が失われることになるのではないかと危惧している」

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植民主義克服の「逆行」への懸念高まる

 佐渡金山の世界遺産登録は韓日関係にとってもう一つの悪材料となっている。3日、チョン・ウィヨン外交部長官が日本の林芳正外相と電話で「日本政府が韓国人強制労働の歴史に背を向け、佐渡金山を世界遺産に登録することに決めた。深い失望と抗議の意を表した」と明らかにした。外交部は佐渡金山の世界遺産登録を阻止するためのタスクフォース(TF)も設置した。韓日間でまた別の緊張が高まっているのだ。10日には文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「聯合ニュース」及び世界7大通信社との合同書面インタビューでこの問題を取り上げ、「歴史問題の解決と未来志向的な関係発展を模索しなければならない時期に、懸念すべき出来事」だと述べた。佐渡金山が世界遺産に登録されるかどうかは、来年5月にユネスコ諮問機関である国際記念物遺跡会議(ICOMOS)の勧告を経て、同年夏に決定される。

佐渡金山内部の坑道/聯合ニュース

-歴史問題に対する一方的な態度がまた別の対立を生み出している。

 「2001年、国連は南アフリカ共和国ダーバンで人種差別撤廃会議を開き、『植民主義は非難されなければならず、再発を防止すべき』などの内容を盛り込んだ『ダーバン宣言』を採択した。それ以降、国際社会は植民地主義克服の道を歩み始めている。3年前の元徴用工に対する韓国大法院(最高裁)判決や日本政府の主権免除を排して元『慰安婦』被害者の人権救済を命じた判決もその流れに沿うものだと思う。一方で日本社会は全く逆の道を歩もうとしている」

-今すぐは接点が見えないようだが。

 「日本では、強制連行問題については戦後補償や植民地支配責任の課題としてこれまで数えきれないくらい多くの過去からの研究蓄積がある。しかし、日本社会の最近の右傾化を見てわかるように、それが今の日本の市民社会の普遍的認識になっているとは言い難い状況がある。

 ほとんどの日本のマスコミはこの問題について、佐渡鉱山が世界文化遺産に登録されるにふさわしい価値を有するのかどうかという議論をそっちのけで日韓の政治対立の問題として報道している。一方、韓国でも日本政府が強制連行を認めるか認めないかが唯一の論点であるかのような報道が目立つ。世論を煽るようなマスコミの一方的な報道によって、かえって冷静な議論ができなくなることを恐れる」

ホン・ソクジェ記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1030838.html韓国語原文入力:2022-02-13 15:22
訳H.J

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