南北が今月15日、2時間ほどの間隔をあけて弾道ミサイルと潜水艦発射弾道ミサイル(SLMB)を発射したことで、時ならぬ軍拡競争が始まるのではないかとの懸念が高まっている。過去4年にわたり「朝鮮半島平和プロセス」を情熱的に推進してきた文在寅(ムン・ジェイン)政権が「自主国防」を推進する過程で、逆に南北関係を危うくするという「ジレンマ」が生じるかたちとなっている。
文在寅大統領は15日、国防科学研究所で潜水艦発射弾道ミサイル発射実験などを参観した後、「我々は常に北朝鮮の挑発に対応できる十分な抑止力を備えているということを示した。今後もミサイル戦力を増強し続けていくなど、強力な防衛力を備えるよう最善を尽くしてほしい」と述べた。文大統領の発言通り、政府はこの日、弾頭重量を画期的に増大した「玄武4」と呼ばれる高威力弾道ミサイルの開発と、次世代戦闘機KF-21に搭載される長距離空対地ミサイルの航空機分離試験が成功裏に終わったことを公開した。
それだけではない。国防部が2日に公開した2022~2026年の国防中期計画には、ステルス戦闘機(F35)導入の完了▽6000トン級の次期駆逐艦(KDDX)開発の継続▽3000トン級中型潜水艦を継続して確保▽破壊力を増強した地対地・艦対地ミサイルの戦力化▽3万トン級軽空母の確保など、一つ一つ中身を見れば目を見張るほどの途方もない軍備増強計画が含まれている。この計画がそのまま実施されれば、韓国の国防費は2024年には60兆ウォン(約5兆6000億円)台、その2年後の2026年には70兆ウォン(約6兆5400円)台に達する。前例を見ても、南北対話を強調する進歩政権の国防費増加率は保守政権を圧倒している(グラフィック参照)。
こうした逆説が発生する重要な原因は、自主国防を強調する進歩政権が宿願と考える「戦時作戦統制権(戦作権)の転換」だ。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は、2012年4月までに戦作権を転換することで米国と合意し、独自の対北朝鮮抑止力を確保するために大規模な軍備増強を図った。その後の李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)両政権は「天安(チョナン)艦事故」などによる安保不安を理由として、戦作権転換の日程を2015年12月に一度延期し、さらにその後に「時期」ではなく「条件」にもとづく転換へと後退する。このバトンを受け継いだ文在寅政権は、韓米が合意した「厳しい条件」を満たすために、北朝鮮が極度に警戒する韓米合同軍事演習を繰り返し実施するとともに、大規模な軍備増強に乗り出すことになる。
その結果は南北関係の破綻だった。北朝鮮は2019年2月末の「ハノイ決裂」以降、韓米に対して北朝鮮敵視政策の撤回などの根本的な要求を突きつけはじめた。特に金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は同年7月26日に公開した「勧言」で、韓国側に「昨年4月(板門店会談)、9月(平壌会談)のような正しい姿勢を取り戻してほしい」と要求した。これに対する文在寅政権の反応は、8月の合同軍事演習の強行と「2020年以降の5年間で300兆ウォン(約28兆円)を国防費に投入する」という大規模な軍備増強計画だった。すると北朝鮮は、今年1月初めに開かれた朝鮮労働党第8回党大会で超大型核弾頭、戦術核、SLMBなどの開発方針を明らかにし、韓国を強く牽制した。