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韓国で初のジェンダー・性犯罪専門最高裁判事の誕生が目前

登録:2021-08-17 03:56 修正:2021-08-17 08:16
資料写真//ハンギョレ新聞社

 2019年12月、ソウル西部地裁。裁判所ジェンダー法研究会に所属する20人あまりの判事が、性犯罪被害者の支援を行っている活動家の「魔女」(活動名)と会った。魔女は性暴力の被害当事者であり、他の性犯罪事件の裁判傍聴などを通じて被害者と連帯する活動家だ。魔女は、裁判の過程で2次被害を受けたり疎外されたりした性犯罪被害者64人にアンケート調査を行った結果をジェンダー法研究会に伝えた。

 この日の会合をまとめた資料は、「法廷の外で性暴力の被害生存者と判事が出会った最初の記録」と題して裁判所内部の通信網に掲載された。裁判所の内外で少なからぬ波紋を呼んだ。今月11日、最高裁判事候補への任命を推薦された光州(クァンジュ)高等裁判所・全州(チョンジュ)支部のオ・ギョンミ判事(52、司法研修院25期)は、魔女と会った20人あまりの裁判官のうちの一人だ。

 オ候補が国会人事聴聞会を経て最高裁判事に任命されれば、13人の最高裁判事のうち、女性はパク・チョンファ、ミン・ユスク、ノ・ジョンヒの各判事と合わせて4人になる。法曹界と女性界では、単に女性の最高裁判事が1人増えること以上の意味があると評価している。ジェンダー問題に深い関心を示してきたオ候補の履歴に照らしてみると、「ジェンダー・センシティビティ(性認知感受性)」を受け入れた判決を相次いで出している司法府の変化の方向性をいっそう明確にし、その幅をいっそう広げるとの期待からだ。

過去の性犯罪裁判を批判的に再検討

 オ候補は、裁判所ジェンダー法研究会の小会合である「インタビュー団」、「裁判再検討チーム」で活動してきた。再検討チームは、2019年にレギンス姿の女性を違法撮影した事件の法廷が、判決文に被害者の写真を載せたことが本紙で報道されたのをきっかけに作られた小会合だ。それぞれ20人あまりの判事が参加しているインタビュー団と再検討チームは、この2年の間に性犯罪の被害者とデジタル性犯罪被害者を支援する活動家に直にインタビューするなど、性犯罪の裁判手続きの改善に向けた研究を進めてきた。判事たちが過去に裁判を経験した当事者に直に会って意見を聞き、審理過程を批判的に振り返るという点で、かなり異例だった。オ候補は、このような活動のほとんどに参加したベテラン判事の一人だった。

 特に昨年9月に開かれた「性犯罪裁判、ともに振り返る」と題するフォーラムは、再検討チームの活動の分岐点となった。再検討チームの主催で開かれたこのフォーラムには、第一線の判事や検事、市民団体の活動家など370人あまりがオンラインまたはオフラインで集った。再検討チームに所属する裁判官たちが性犯罪被害者や活動家などと広く会って練り上げてきた問題意識を総合する場だった。オ候補は「保護法益の観点から見た性犯罪裁判」をテーマとするフォーラムの司会を務めた。裁判の過程で「被害者らしさ」を疑い、強要することにつながる危険性などが議論されたという。

 このフォーラムは今年5月の「現代社会と性犯罪研究会」の結成へとつながった。ジェンダー法研究会の小会合だけでは、デジタル性搾取などの進化する性犯罪に対する深みのある研究を行うには限界があると判断した判事たちが、新たな研究会を立ち上げたのだ。オ候補は同研究会の初代会長に就任した。再検討チームに所属するある判事は「オ候補ほどのベテラン判事がこうした集まりに積極的に参加するのは珍しい。前面に出るというより、研究会に休むことなく参加して各種報告書を監修するなど、後輩判事を支援する方に回った」と述べた。

最高裁の「ジェンダー・センシティビティ判例」を広げるか

 最高裁は2018年4月、学生に対する強制わいせつを理由として解任された教授が解任処分を不服として起こした行政訴訟(2017ドゥ74702)で、初めて「ジェンダー・センシティビティ」に言及している。この事件で最高裁は「裁判所がセクハラ関連訴訟を審理する際には、その事件が発生した脈絡で性差別問題を理解するとともに、性平等を実現できるよう、ジェンダー・センシティビティを失ってはならない」と強調し、被害者が陳述に消極的だとの理由から教授の勝訴とした原審の判決は誤りと判断した。被害者が2次被害を懸念し消極的な態度を示したからといって、被害者の供述の証明力を排除してはならないということだ。

 その後、ジェンダー・センシティビティは性暴力事件の裁判における重要な判断基準の一つとなった。最高裁は同じ年の10月、被害者の行動は強姦された直後のものと見ることはできないという「被害者らしさ」を判断基準とした原審の判決を覆す判断を再び下している。最高裁は「性的暴行の被害者の対処のあり様は、被害者の性情や加害者との関係、そして具体的な状況によって異なる」と指摘した。このような最高裁の変化の流れは、2019年9月のアン・ヒジョン前忠清南道知事による性暴力事件の有罪判断の土台となった。

 オ候補の推薦は、バックラッシュ(性平等に反発する攻撃)が起こるなど、ジェンダー問題が韓国社会で最も熱い懸案となっている中で「エリート男性偏向的」との批判を受けてきた最高裁が変化を模索しつつ出したそれなりの応答といえる。主に性犯罪被害者の代理人を務めてきたある弁護士は、「MeToo運動とデジタル性犯罪に対する社会的な怒りが激しかったこの3年間の、裁判所の最も直接的な変化は、裁判官たちがジェンダー・センシティビティについて考え、判決でそれに言及しはじめたことだ。この変化の始まりが2018年4月の最高裁判決だという点で、依然として裁判所の理解が足りないと考えられるデジタル性犯罪やジェンダー問題に詳しい最高裁判事が新たに任命されれば、それ自体が少なからぬ変化をもたらしうる」と述べた。

イム・ジェウ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1007858.html韓国語原文入力:2021-08-16 16:24
訳D.K

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