20日、LG電子のモバイル事業担当部署であるMC事業本部で働く3700人あまりの役員と社員の全員に、電子メールが一斉に送られた。クォン・ボンソク代表取締役社長が送った短いメッセージだった。そこには「MC事業本部の事業運営の方向性がどのように決まっても、原則的に構成員の雇用は維持されるので、不安に思う必要はない」という文言が含まれていた。事実上モバイル事業から撤退する可能性もあるという意味と解釈される。直後に同社は「すべての可能性を念頭に置いて、モバイル事業運営の方向性を綿密に検討している」との報道資料を配布した。LG電子の株価はこのニュースが伝わった直後から急騰し、前日より12.84%高の16万7000ウォン(約1万5700円)で取引を終えた。
同社は、まだ「すべてが開かれている」として、中途半端な判断には一線を引いた。LG電子関係者は「モバイル事業の方向性をめぐり、最近うわさが増幅して役員が動揺、混乱しているため、クォン社長が雇用維持の立場をこの日明確にした」とし「事業運用の方向性について様々な方法を検討しているが、まだ決定された事項はない」と述べた。しかし、この10年間「汚辱と屈従の事業」という不名誉が付いて回ってきたスマートフォン事業をめぐり、同社が「すべての可能性を残す冷静な判断」「最善の選択をすべき時」といった語彙を使用し、モバイル事業の運命を外部に公表したのは今回が初だ。
LG電子のMC事業本部は、2015年の第2四半期以降、昨年第4四半期まで、23期連続の営業赤字を記録している。昨年末までの累積営業赤字は5兆ウォン(約4710億円)にのぼる。累積赤字が膨らんだため、LG電子は2019年にスマートフォンの国内生産を中止し、ベトナムに工場を移転した。また、相手先ブランドによる設計製造(ODM)の比率を上げ続けるとともに、事業本部の人材をほかの事業部へと転換配置し、規模も縮小してきた。このため、赤字は2019年の1兆ウォン(約942億円)から昨年は8000億ウォン(約753億円)台にまで減ったものの、スマートフォンの販売量は毎年減少していることから、売却の可能性まで検討するようになったと見られる。
最近のMC事業本部の総売上高(カッコ内はLG電子の総売上高に占める割合)を見ると、2015年が14兆34億ウォン(約1兆3200億円、24.8%)→2016年が11兆7097億ウォン(約1兆1000億円、21.1%)→2017年が11兆1583億ウォン(約1兆500億円、18.2%)→2018年が7兆9800億ウォン(約7510億円、13.0%)→2019年が5兆9667億ウォン(約5620億円、9.6%)で、急激な落ち込みがはっきりと見て取れる。売り上げが縮小したことで、事業本部の職員数も2016年の6761人から昨年9月現在は3719人へと大幅に減少している。
関心は市場に及ぼす影響だ。LG電子のグローバルスマートフォン市場でのシェアは1~2%で、10位圏内。プレミアムフォン市場ではアップルとサムスン電子に押されて存在感が示せず、中低価格フォン市場では華為(HUAWEI)、小米(Xiaomi)、欧珀(OPPO)などの中国企業の物量攻勢により、市場での足場が狭まっていた。
スマートフォンより前の時期には華やかな過去を誇った。世界市場でモトローラを抜き、一時はノキアとサムスン電子に続く3位に上ったこともある。2006年の「チョコレートフォン」が大ヒット(年間650万台販売)したのに続き、シャイン、ビューティー、プラダフォンなどヒット作を連発し、携帯電話年産1億台を超えた戦歴もある。しかし、10数年前に襲ってきたiPhone(アイフォン)発のスマートフォン革命の流れを過小評価し、きちんと対処できなかったため、今はグローバル市場シェアの集計資料においてすら目立たないブランドへと転落した。ここ最近の「失われた10年」で再起を模索してきたものの、その都度失敗し、23期連続の赤字に見舞われた。市場はこの日、「23期連続のモバイル赤字」に苦しんできたLG電子株の急騰で応えた。事業運用決定の内容如何によっては、11日に国際家電展示会「CES2021」で予告した、画面を丸めたり折りたたんだりでき、再び大きく広げたりもできる野心作「ローラブルフォン」の発売計画にも支障が生じるものとみられる。