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[インタビュー] 「聖書の文字の盲信が“新天地”現象をもたらした」

登録:2020-03-17 23:39 修正:2020-03-21 17:04
『本物の宗教は何が違うのか』を著したオ・ガンナム名誉教授(カナダ・レジャイナ大学比較宗教学)=オ・ガンナム教授提供//ハンギョレ新聞社

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)局面で、新天地大邱(テグ)教会がスーパースプレッダーになり、宗教集会の自制を無視した教会のオフライン礼拝強行による集団感染が相次ぎ、宗教界が国民の心配の種になった。どのようなところが本物の宗教で、どのようなところが偽物の宗教なのだろうか。

 カナダのレジャイナ大学のオ・ガンナム比較宗教学名誉教授(78)が、『本物の宗教は何が違うのか』(ヒョナム社刊)を出版した。古今東西の「宗教の深層を探求した人物」57人を記述した本だ。

 この本は伝記の単純な要約ではない。要諦をつかみ、これを別の思想と比較する方式は、東洋と西洋の宗教と哲学思想を熾烈に行き来したオ教授でなければ試みることさえ難しい。プロテスタント信者として成長したオ教授は、ソウル大学宗教学科と大学院を卒業し、カナダのマクマスター大学で仏教を専攻し「華厳の法界縁起思想に関する研究」で博士学位を受けた。彼は本書で、クエーカーの集いにたびたび参加していることを明らかにする。クエーカーは、咸錫憲(ハム・ソクホン、思想家・独立運動家)が属したキリスト教の一分派だ。彼は、北米の多くの大学とソウル大学などで客員教授、北米韓国人宗教学会長、米国宗教学会韓国宗教分科共同議長を務め、2006年に教授を引退した後、北米と韓国を行き来して講座や講演を続けた。彼はすでに『イエスはいない』や『莊子』などのベストセラーと、『世界宗教見て歩き』『仏教、別の宗教で読む』『オ・ガンナムのキリスト教の話』などの著書で広く知られている。昨年秋からカナダのバンクーバーに滞在しているオ教授と電子メールでインタビューをした。

-「新天地」現象をどう見るか。

 「21世紀にこうした宗教でない宗教が、これほど荒れ狂うことは正常ではない。世界的な脱宗教化の大勢に逆行する韓国は、宗教社会学や宗教心理学的に興味深い研究対象だ」

-韓国でとても多くの新興宗教が勃興する理由は。

 「新興宗教はどこにでも多くある。『鄭鑑録』流の秘訣書の影響でもある。現実的には、突然の都市化と産業化による不安心理のためでもある。また、個人主義で所属意識を失った人々が、所属意識と希望を与えてくれる宗教に集まったとも言える」

オ・ガンナム教授が2019年3月、ソウルの長老会神学大学で大学院生に講演している=オ・ガンナム教授提供//ハンギョレ新聞社

-深層的霊性と悟りがあるのに、現実には表層的・起伏的・利己的・攻撃的な宗教が勢力を伸ばしている理由は。

 「宗教心は成長を続ける。初めは自分がうまくいくために宗教を選ぶと見られる。しかし、宗教心が深まれば自己中心性を克服し、共に暮らす世界、愛の共同体を指向するようになる。しかし成長が止まれば、宗教は自然に蓄財や治病のような私益を追求する手段になる。特に、宗教指導者や政治指導者は信徒が成長を続けることを好まない。無条件で盲目的に信じている時、コントロールが一番容易なためだ」

-宗教の深層を見た人は、文字や教理より体験を重視するが、たとえば韓国の宗教でも、聖霊が臨んだとか、生まれ変わりだとか、悟りを開いたという体験が、イエスや仏陀の愛や慈悲のような人生の変化と実践にならないのはなぜなのか。

 「実がなければ正しい聖霊、正しい生まれ変わりとは言えない。まだ利己的な自己から抜け出せていないためだ」

-キリスト教の背景で生まれ育ったが、東洋の宗教をまんべんなく渉猟した理由は。

 「比較宗教学の創始者、マックス・ミュラーは『一つの宗教だけを知る人は、どの宗教も知り得ない』と言った。自分の宗教を一層よく知るためにも、他の宗教についてよく学ばなければならない。各宗教の表層においては違うと言って争うこともあるが、深層では互いに相通じるものを発見する。そうなれば、自分の宗教だけが絶対的に正しい宗教だという独善や排他的態度から解放されうる」

-家庭、教職、社会生活、人間関係などで実際に役に立つ哲学思想は何であり、生涯の師は誰か。

 「『本物の宗教は何が違うか』に登場する人物皆が師匠だ。具体的に言えば、イエスと仏陀。さらに具体的にと言われれば、おそらく東洋側では老子と荘氏、西洋側ではパウル・ティリヒとトマス・マートンだと思う」

-人生の最大の危機はいつで、そこから得た洞察と脈が通じた哲学は。

 「精神的に言えば、属していたキリスト教教派から自主的に脱退した時だ。キリスト教から学んだことに対して疑問を抱き始めたのは中学生からだったが、正式に脱退したのは、宗教学で博士学位を受け大学で教え始めたが所属する教派の教えをそのまま教えることはできなかったためだ。その時、宗教の核心が教理を追求することではなく、禅仏教のように意識の変化が重要だということ、老荘哲学のように余裕があり笑って生きることこそが自由だということを痛感した」

北米と韓国を行き来し宗教の深層について講演するオ・ガンナム教授=オ・ガンナム教授提供//ハンギョレ新聞社

-韓国のプロテスタントの問題をどう見るか。

 「文字主義だ。聖書に書いてある文字をその通りに信じなければならないという、時代錯誤的な主張が新天地のような現象を招いた。新天地は、ヨハネ黙示録に出てくる14万4000という数字をその通りに信じて教え、また自分たちの主張を強化するために聖書のあちこちの一節を恣意的に抜き取って引用した。文字主義がまさに原理主義だ。世界のキリスト教界ではなくなりつつある文字主義・原理主義が、韓国で蔓延しているということが最大の問題だ」

-宗教人口が減り、修道者・出家者が急減している。人工知能をはじめとする先端科学文明の時代で、宗教無用論が出てくる時代に、宗教とは何で、宗教が果たして必要なのか。

 「旧時代の世界観とパラダイムにしがみついている宗教は、歴史の裏側に退かざるをえない。西欧で最も急速に増えている宗教現象は無神論だ。カトリック神学者のカール・ラーナーは、21世紀にキリスト教が深層的でなければ、価値がないと述べた。今、世界的に台頭している瞑想ブームも、これと関係がなくはない。また、米国の宗教社会学者のフィル・ズッカーマンは、宇宙のあらゆる神秘に驚嘆し畏敬心を持って人生を喜ぶ宗教のない人生、すなわち“畏敬主義”(aweism)が伝統宗教に代わるだろうと言った」

「新天地」の行事の様子//ハンギョレ新聞社

-新型コロナの拡散時局に、オフライン礼拝を強行する教会をどのように見るか。

 「万が一、彼らが信じる神がおられるならば、民衆がこうした非常事態にもかかわらず一堂に集まり礼拝を上げることを喜ばれようか。自分だけでなく社会全体に危険を与えるこうした礼拝を喜ぶ神がおられるならば、そのような神は退位させなければならないのではないか。実際、神の問題ではなく、こうした形で神を信じる盲目的信仰が問題だ」

チョ・ヒョン宗教専門記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/religious/933005.html韓国語原文入力:2020-03-17 20:09
訳J.S

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