ドナルド・トランプ米大統領は議会の弾劾調査の対象である。民主党は外交政策の方に弾劾調査の焦点を合わせることにした。トランプはライバルである民主党のジョー・バイデンの腐敗の証拠を探し出すために、ウクライナ政府を懐柔しようとした。これは直接的な選挙資金法違反だ。トランプは自分の行動を否認しなかった。ウクライナ大統領との通話録音記録を公開して、その中に不適切な行動の証拠が十分あるのに、「完璧な通話」だと言った。政権の人々には議会証言や召喚を拒否せよと指示した。明白な司法妨害だ。
弾劾調査が進行しても、トランプの外交政策のアプローチ方法は揺るがない。彼は世界の指導者たちに、高度に個人化されたアプローチをして、米国や同盟ではなく自分の政治経済的立場に役立つ合意を行ってきた。彼は外国との結びつきを、自分の2020年大統領選挙の勝利に役立つ方向に活用することに集中してきた。
最近の事例を見てみよう。トランプはシリア北部から米軍を撤収することに決めて、トルコがシリアのクルド人を攻撃できるように青信号を出した。イスラム国(IS)撃退前に米国の主要な同盟だったクルド人を放り出した決定に、トランプの支持者たちでさえ驚愕した。しかし、トランプがシリア撤退を発表した直後に、サウジアラビアに2千人の兵力の追加配置を承認した点を見なければならない。実はトランプ政権は去年の春から中東に1万4千人の米軍を追加配置した。シリア北部から撤収する千人と比較される。
総合して見ると、トランプの外交政策はイランの影響力弱体化に集中していることが分かる。サウジは同地域においてイランの主敵であり、両国はイエメンで代理戦争を行っている。トランプはスンニ派が支配するトルコを、イランに立ち向かう潜在的同盟と考えている可能性がある。彼の一貫した執着はイラン政権を屈服させることだ。
トランプはイラン問題がどちら側に行っても、弾劾から関心をそらせると考えているはずである。トランプがサウジとイランの間の緊張を解消したら「ピースメーカー」(仲裁者)と誇ることができ、国家の安全保障を理由に前面に出して議会に「魔女狩り(弾劾)」を止めよと主張することができる。平和仲裁の努力が失敗した場合には、トランプはイランと戦争を繰り広げる可能性があり、国際紛争に関心を集中させて国内の対立問題から視線を転じさせるようにする「旗集会」効果により、再選の可能性を高めうる。
しかし、他の国々が協力するかは不確実だ。トランプは中国からの関税引き上げを保留する対価として、中国に米国の農産物を追加購入させるなどの部分合意を成し遂げた。トランプは、株式市場を落ち着かせて米国経済が自分に掛かっていると主張するために、貿易交渉で進展の信号を見せたくてたまらないという事実を、中国はよく知っている。中国はトランプ弾劾と2020年米大統領選挙が、交渉で中国のてこを強くするという事実も知っている。中国は何に対しても合意しないだろう。
北朝鮮も米国の古い取引方式を受け入れようとしない。ストックホルムで北朝鮮代表団は、米国の交渉態度に挫折感を示した。トランプ政権は、北朝鮮が寧辺(ヨンビョン)の核施設を閉鎖して濃縮ウランの生産を中断すれば石炭と繊維の輸出制裁を解除する案を提示したという。これは、米国の「オール・オア・ナッシング」の既存のアプローチから変わったものだが、北朝鮮は制裁体制からのより実質的な変化を願っている。
トランプは、自分が弱気であるという信号を少しでも送るのは、国際社会のサメたちを横行させる「水中の血」を注ぐことと同じであるという事実を知っている。トルコがそうだったように、外国の指導者はその弱気さを利用しようとするはずだ。弾劾調査が力を得るほど、トランプは米軍を派遣し、貿易交渉で強硬路線を取り、同盟に過重な要求をして、自分が弱くないということを誇示しようとするはずである。トランプの衝動的性格は際立っている。弾劾調査の開始前まで予測不可能だった彼は、今ではより気まぐれになった。ガタついている米国外交政策の道路が、より一層デコボコになりつつある。