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[書評]「精神分裂症を患っている危険な日本」

登録:2017-04-14 03:36 修正:2017-04-16 08:38
『怠け者の学者、精神分析を語る』(原書『ものぐさ精神分析』)1・2、岸田秀著、クォン・ジョンエ訳/パールブックス・1万6000ウォン//ハンギョレ新聞社

 1853年、黒船に乗ってやってきた米国のペリー提督による強制開国の衝撃以降、日本は精神分裂を患っており、それは今も続いている。米国・欧州に服従した日本の「外的自己」は「内的自己」の自尊心に突き刺さった棘のようなものだった。日本はその外的自己を隣人の朝鮮に投影した。西欧に屈辱的にやられた自分たちの劣等な自我像を朝鮮人たちに映し出し、軽蔑して差別することで、西欧によって崩れた自己同一性を再構築しようとした。日本の精神分裂症は敗戦後も治らなかった。 今は治療効果が維持されている「寛解期」だが、これから再発する危険が消えたとは言えない。いつでもまた爆発する可能性がある。

 日本の心理学・精神分析学者で、思想家でもある岸田秀氏(84)が1980年代に一世を風靡した自分のベストセラー『ものぐさ精神分析』(初版1977)に書いた内容だ。この本が出版されてから40年が過ぎた今、右翼安倍政権の登場でも見られるように、日本の分裂症状は再び悪化している。

 岸田氏は日本を精神分裂に追い込んだ精神外傷を英国精神科医ロナルド・レイン(R.D. Laing)の「外的自己」と「内的自己」の概念を用いて分析する。西欧の来襲以降、他者との関係または外部世界との適応を任された外的自己(開国論)と内的自己(尊王攘夷論)の分裂と断絶。日本は自己同一性の喪失の危機に陥るほど対立が深まると、恐怖にとらわれ、外的自己を切り離して不安定な内的自己を支える要塞を構築した。それがまさに天皇だった。

 著者は天皇と尊王思想が日本国民に広く浸透した理由が、教育や政治的宣伝のためだけでなく、人格の分裂と自己喪失の危機にとらわれた日本国民が、その恐怖から逃れるために自発的に選択した結果でもあると説明する。被害妄想が深刻化すると、他者に全面服従するか全面攻撃を加える極端な選択に追い込まれる。限界状況で大声を上げ、突発行動に踏み切ることや当事者としては偽りの仮面を脱ぎ捨てて本当に自己に従って生きることを決意する真剣な行為は、周りの人たちにとっては気が狂ったように見えるが、それがまさに「発狂」だ。岸田氏によると、日本軍の真珠湾奇襲は発狂だった。指導部の抱いた妄想を日本国民の大半が支持した。著者は、当時日本国民がよく知らなかったり、騙されたわけではないと見ている。

1941年12月7日、日本軍の真珠湾奇襲により燃えている米軍戦艦ウェストバージニア号/聯合ニュース

 集団心理と個人心理を同じ方法で説明できると考える岸田氏は、明治維新と朝鮮などへのアジア侵略の理論的土台を提供した吉田松陰の心理状態も同様に分析する。

 彼は米国の反復的な対外侵略と軍事的膨張主義も強迫症状として解釈する。米国独立宣言の自由、平等、民主という「共同幻想」もネイティブ・アメリカンを大量虐殺した経験と記憶を踏み潰して構築したものだ。この幻想を維持するためには、すさまじい経験を正当化し、記憶を抑圧しなければならないが、それは至難なことだ。そうして当初の虐殺の経験と類似した経験を強迫的に繰り返しながら、絶えず正当化を試みる。ベトナムをはじめとする世界各地での大量虐殺もその強迫的な繰り返しだった。

 このような慢性的な「他民族に対する脅迫的大量虐殺」が繰り返されるのを防ぐためには、当初の経験、つまりネイティブ・アメリカンの大虐殺に対する正当化をやめなければならないと著者は語る。もちろん、これは日本にもそのまま適用できる。日本が強迫から脱するには、まず朝鮮などアジア侵略の残酷な犯罪行為に対する記憶を抑圧し、正当化することを止めなければならない。

 岸田氏は同書で、歴史と文化、性差別、人間、心理学、自己、感情などに対しても同じ分析の物差しを突きつけているが、これを「すべてが幻想から始まった」いう意味で「唯幻論」と名付けている。「人間だけが歴史を持つようになったのは、人間がその生物学的本能に従うだけでは生きていけないからだ。本能が壊れた人間は現実との密接な接触を失ってしまい、幻想の世界に迷い込むようになって、現実から離れ幻想に生きるようになった。(…)この疑似現実は一般的に文化と呼ばれる。文化は、当初から幻想の産物である」。文化だけでなく、社会、文明、国家、家族と自我まですべて幻想であるわけだ。岸田氏は文明が「伝染性の強い病気」だと説明する。

 ところで、日本の精神分裂症についてあれほど鋭い分析を突きつけた岸田氏が、日本の右翼歴史修正主義者たちの「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)の賛同者だという。奇妙なことだ。彼も日本的「共同幻想」から自由ではないからだろうか。

ハン・スンドン先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/790659.html 韓国語原文入力:2017-04-13 20:18
訳H.J(2184字)

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