「『菜食主義者』は柔らかさと恐怖を兼ね備えた作品です。初めて読んだとき、信じられないほど印象的でした。文章の質とイメージを喚起する能力、口調や雰囲気作りなどが魅力的でした。3本の短編からなる連作という形式は、連作が珍しい英国の読者にとって斬新なものになると思いました。3人の話し手が登場しているにもかかわらず、完璧なバランスを成しており、うまく管理され、コントロールされた文体をいかに伝えるかが、翻訳家として私が集中した部分でした」
韓江(ハンガン)氏の小説『菜食主義者』を英語に翻訳し、韓江氏と共にブッカー賞のインターナショナル部門を受賞したイギリス人翻訳家のデボラ・スミスさんが韓国を訪れた。ソウル国際図書展に出席するため韓国を訪れたスミスさんは、15日昼、図書展が開かれるソウル三成(サムソン)洞COEXイベントホールの国際館で記者会見を開いた。 100人を超える取材陣が集まった会見場に予定時刻よりも少し遅れて登場した彼女は、若い翻訳家らしく、スマートフォンに作成してきた挨拶を読みあげ、記者会見を始めた。
「受賞で自分の翻訳が認められたのは非常に嬉しいことですが、運が良かったと思っています。翻訳は、自分を前面に出すのではなく、控えめな作業という、先輩翻訳家のアン・ソンジェ修士の言葉を心に刻みたいと思います。ブッカー賞のインターナショナル部門の受賞は作家の韓江先生とエージェント、編集者などの共同作業がもたらした成果だと思います。翻訳は、作品を創造的に書き換える作業であるという事実を常識にしてくださった先輩翻訳者にも感謝申し上げます」
スミスさんは、2010年に韓国語を習い始めてからわずか3年で『菜食主義者』の翻訳で受賞の栄誉を手にした。ケンブリッジ大で英文学を専攻した後、大学院で韓国文学を専攻した彼女は、「作家としての物語と人物、背景を作り出せなくてもいいというのが翻訳の魅力」としながら、「作家がしばしば直面する『創作の壁』(writer's block)に苦しまなくてもいう点も翻訳の良さ」と語った。
菜食主義者の他にも、韓江氏の小説『少年が来る』とアン・ドヒョン氏の『鮭』を翻訳出版した彼女は、裵琇亞(ぺスア)氏の小説『エッセイスト机』と『ソウルの低い丘』も翻訳を完了し、今年10月と来年1月にそれぞれ、米国で出版する予定だ。裵琇亞氏の別の小説『フクロウのなし』も2018年初めにも米国での出版を控えており、韓江氏の新作『白い』は、来年イギリスで出版する予定だ。彼女は「アジア文学専門の出版社として直接設立したティルテッド・アクシスが韓国文学翻訳院と業務協約を結び、1年に少なくとも1冊以上の韓国文学作品を翻訳出版することにした」とし「今年10月にファン・ジョンウン氏の小説を出版する予定であり、ファン・ジョンウン氏の他の作品も契約を終え、来年にはハン・ユジュ氏の小説を(翻訳)出版することにした」と明らかにした。
「裵琇亞氏の小説は非常にユニークで個性があふれています。それだけに翻訳するのは簡単ではないですが、私はそのような挑戦を楽しんでいます。私が関心を持つ作品は、文体が興味深いものです。情報を伝えるだけではなく、別の何かを持っている文章が好きです。今回の訪韓期間中に韓国出版社と接触し、他の作家と作品の翻訳出版も協議するつもりです」
スミスさん「韓国文学翻訳院のような機関の積極的な活動が韓国文学の世界化に役立つ」としながらも、「韓国人がノーベル賞にこだわるのには当惑している」と語った。
「賞はそれ以上でも以下でもありません。作家は書いて、読者はその作品を楽しめば、それでいいでしょう。それだけでも私の努力は報われると思います」
韓国語原文入力:2016-06-15 15:54