北韓がチャン・ソンテク前朝鮮労働党行政部長の電撃的な処刑を正当化し、金正恩国防委員会第1委員長の独裁支配体制強化を図る様相を見せている。金正恩はチャン・ソンテクの死刑には別に問題がないという態度だ。
北韓当局が正統性強化のために持ち出す一番の論理は金正恩の血統を強調することだ。労働党の機関紙<労働新聞>は "この天地では首領の血でない別の血を持つ人間には息をする空気もない" として‘首領に対してあえて挑戦するならば、血を分けた血縁でもためらいなく懲罰しなければならない’としている。このような主張は北韓が王朝時代の考え方を乗り越えられない後進的な状態にあることを再確認させるにすぎない。金正恩以外の人はいつでも処刑されうるという‘恐怖政治の修辞’でもある。憲法で独裁を規定した国であっても、暴力を乱発しては正統性を得られない。これがチャン・ソンテク勢力に対する‘血の粛清’を中断しなければならない理由でもある。
金正恩政権は今後経済活性化を通した正統性強化を試みる可能性が大きい。チャン・ソンテクに対する判決文を見れば、彼が色々な経済協力事業に深く関与してきたことがわかる。北韓はこれらの事業をそのまま維持したり、むしろ拡大しようとするだろう。他の改革・開放措置も内閣を前面に出して、さらに積極的に推進する側へ動きやすい。このような試みは金正恩体制に対する国際社会の拒否感を低められない限り、成果をあげるのは難しい。‘チャン・ソンテクの処刑は北韓内部の問題’と公式に一線を引いている中国も、対北韓経済協力を拡大する動機は少ない。恐怖政治の持続とこれによる体制不安は経済改善にも金縛りとして作用せざるを得ない。
今後北韓の対外関係については、少なくとも当分は行き詰ったままという見方が多い。軍部を中心に強硬派の力が強まりそうな状況であることを考えれば、自然な分析だ。北韓が体制安定に失敗した場合、内部結束のために対外挑発を試みるという見方もある。 しかしそのような道は北韓自身のためにも最悪の選択になるだろう。 いま北韓はむしろ以前よりもさらに対外関係改善に気を遣わなければならない時だ。恐怖政治を持続していてはならないもう一つの理由でもある。
金正恩がなぜチャン・ソンテク処刑を敢行したのか、その具体的な契機はまだ明かされていない。もちろんチャン・ソンテクの権力が強まる過程で、金正恩とは別の権力者の不安感が大きくなったことが主要な背景だったのだろう。このような矛盾に恐怖政治で対処するほかないならば、金正恩体制は“地球村”の冷たい視線を避け難い。