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[ハンギョレが会った人] 日本で市民運動を繰り広げるイ・ヨンチェ恵泉女学園大学教授

登録:2013-08-12 23:05 修正:2013-08-13 07:11
イ・ヨンチェ日本 恵泉女学園大学教授はインタビューで「李明博大統領の独島(トクト)訪問は日本の保守右翼が国民の不満を韓国に振り向ける口実を提供した」として「日本の市民社会に韓国全体に対する否定的な認識を持たせれば、かえって日本の右傾化を助けることになる」と話した。 東京/チョン・ナムグ特派員

"大学を卒業して1998年に6ヶ月間の予定で日本に来ました。 北海道にある障害者自活治療センターに一ヶ月間のボランティアをしに行ったが、一日は若い日本人夫婦の家を訪問することになりました。 私が韓国人であることを知ると、夫婦がひざまずいて日本政府の代わりに慰安婦動員に関して謝ると頭を下げたのです。"

 当時27才だったイ・ヨンチェ(42)は、その時大きな衝撃を受けた。‘飛行機でわずか2時間の距離にある日本について、これまで何も知らなかったんだな。’ドイツに留学に行く当初計画をやめ、彼は東京に居残った。 日本語を学び東大大学院に研究生として入った後、翌年慶応大大学院に進学して韓国研究で名高い小此木政夫教授の指導を受けて修・博士過程を終えた。 2006年に恵泉女学園大学はB・C級朝鮮人戦犯問題と日本の戦後賠償問題研究に大きな成果を上げた内海愛子教授の後任に志願者70余人の中から35才の若い韓国人イ・ヨンチェを選択した。 今は准教授(副教授)だ。 この頃、韓-日関係と関連した主要な懸案がある度に日本のメディアが常連のように呼ぶこの少壮学者は、自民党政権の復活後の日本の歩みを果たしてどのように見ているかが気になった。 7月30日、東京港区の大阪経済法科大学東京セミナーハウスで彼に会った。

インタビュー/チョン・ナムグ特派員 jeje@hani.co.kr

-恵泉女学園大学は伝統が非常に独特なようだ。

"韓国の聖公会(ソンゴンフェ)大、韓神(ハンシン)大と姉妹提携を結んでいるが、教授陣の80%が非政府機構(NGO)で活動した人々だ。 平和を重視し、学生たちは必ず園芸を学ばなければならない。 学生は誰もが自分の畑を持って年間に15種類以上の野菜を栽培している。"

-この間日本で市民社会運動に多く参加してきたし、韓国・日本の市民社会の掛け橋の役割もたくさんしたと承知している。

"大学院で勉強している間、日本の市民運動の国際部の役割をしている‘アジア太平洋資料センター’(PARC)の事務局の仕事をした。 2006年に‘靖国反対キャンドル行動’が始まった時から参加していて、同じ年に始まった韓国を勉強する人々の勉強会(KAJA, Korea and Japan Alternative learning group)の指導もしている。"

‘KAJA会’会員は現在40人余りだ。 当初、この集いは韓流ドラマと映画などを一緒に観て意見を交わすことから始まった。 次第にドラマや映画の背景になる韓国社会、韓国史に対する勉強へ拡大した。 勉強会は毎月開かれている。 会員たちは毎年一回ずつ韓国を訪問するが、これまでに民主化運動の聖地 光州(クァンジュ)と米軍基地がある平沢(ピョンテク)、東海岸の休戦ラインなどに行ってきた。

-1994年慶煕(キョンヒ)大総学生会長を務めるなど学生運動に参加した。 当時、韓国大学総学生会連合(韓総連)改革会の議長を務めもした。 1998年に日本に来て新しく目覚めたというか、そのような経験があったとすれば何か?

"大学院で勉強を始めた1998年、北韓がテポドンミサイルを撃った。 韓国人は深刻に考えなかったが、日本は大騒ぎだった。 以前は統一は南北の問題であり、私たち民族が共に努力すれば可能だと考えていた。 ところが日本から見ると、分断は国際問題であった。 日本の協力なしには統一が難しいことを悟った。 日本人たちが国家が犯した暴力を自ら顧みて反省する姿を見て、私は運動をすると言いながら国家が民衆に犯した国家暴力に対してあまりに知らずにいたと反省した。 国を離れて、国家が民衆に対して犯す暴力の構造を省察することになった。"

-代表的なものが靖国神社だ。

"国家が戦争を率いて一部の国民に犠牲を強要する構造の象徴物だろう。 国家が死を追悼することは政治的に利用されやすい。 それは日本だけの問題なのだろうか?"

15年前、私の前にひざまずいて
慰安婦について謝った日本人夫婦
政府は過去にそっぽを向いていても
国民はそうでないこともあることを悟った

-ところで日本では政治指導者が再び靖国神社を参拝している。 きちんとした戦後清算を強調してきた人々は度々疎外されていて、保守右翼勢力が力を増している。

"日本には保守源流とともに‘リベラル’に分類される現実主義勢力(穏健保守)が二つの大きな幹を形成し、現代日本を引っ張ってきた。 現実主義者は過去事清算の必要性を認めてきた。 それが東アジアに位置した日本の利益に符合するという考えであった。 今は自民党内で彼らの立場が非常に狭くなり、野党にも現実主義者が少ない。 彼らの実験が失敗したのではないかという考えを持つようになる。"

-なぜそのようになったと見るか?

"敗戦した日本に対する連合国の処理、日本の国際社会復帰、韓-日国交正常化過程など、日本が過去事を整理する3度の機会があった。 しかし、元祖植民主義者である戦勝国の限界、熾烈になった冷戦などの理由で日本の過去清算はうやむやになってしまった。 その結果、日本は侵略戦争と植民支配に対して本当に反省する機会を持つことができなかった。 自民-社会両党体制では、社会党があって保守源流の力があまりあらわれなかったが、保守源流が復帰するのは時間の問題であった。 社会党が弱くなり、リベラル保守が弱くなるや彼らが今前面に躍り出た。"

-リベラル保守、現実主義勢力が退潮した理由は何か?

"冷戦時代に彼らは国家運営において米・日同盟を一軸とし、韓・日協力をもう一つの軸と見た。 日本社会の中で相当な支持を得ることができた。 ところが1990年代初め、冷戦崩壊以後の時代にうまく対処できなかったようだ。 1991年自民党と社民党、新党さきがけが協力して北韓-日本の国交正常化に成功していたとすれば枠組みが変わったかも知れない。 しかしそうはならなかったし、自民党と社会党は共に崩壊の危機に陥った。 大きな変数は北韓の核・ミサイル開発だった。 日本は安保のためには米国だけに依存してはならず、独自の自衛が必要だという認識が強まった。 そうならば平和意識、すなわち自虐的歴史意識を先に打ち破らなければならないと保守派は考える。 保守派がまともに準備されない中で、現実主義勢力が民主党に集結した。 しかし、2009年執権に成功した民主党は、日本が当面する問題に対して無能をさらけ出したという評価を受けた。 3・11大地震に対する粗末な対処、北韓核問題や尖閣諸島を巡る中-日衝突に対する対処などで信頼を失ってしまった。 決定的だったのは消費税率を引き上げてアイデンティティまで崩れてしまった。"

-安倍晋三総理を前面に立てて新しく前面に躍り出た保守源流は日本をどこに引っ張って行こうとしているのか?

"日本国民の間には平和憲法に対する信任が非常に強い。 自衛隊を国防軍と明示して、天皇を国家元首とする憲法改定は容易ではないだろう。 だが、日本が平和国家から抜け出して(軍事力を保有し自衛権を行使できる)‘普通国家’になる道は開かれるだろう。 米国は中国が台頭する東アジアで、日本がそのような道を進むことを支持していると見る。"

-それに対する日本市民社会の認識はどうなのか?

"3・11大地震復旧の時、日本自衛隊の活躍はすごかった。 自衛隊は日本に必ず必要な存在として確実な席を占めた。 自衛隊を国防軍と明示するということを阻止することは容易ではなさそうだ。"

-日本の保守源流が日本を‘普通国家’に転換させるところで果たして止まるかが問題だ。

"普通国家になった後には‘強い国家’に進もうとする可能性がある。 憲法9条を変えようとするだろう。 この憲法条項はこの間、東アジアの軍備競争を防ぐ上で大きな役割を果たしてきた。 その価値を高く評価して、日本社会でもまともに実現されるよう努力しなければならない。 日本の市民社会の中でも安倍自民党が議席を一人占めしたことに対して強い危機意識がある。 7月21日の参議院選挙の翌日<共同通信>が実施した世論調査を見れば、内閣支持率が大幅に下がった。 牽制心理だと見る。"

-昨年8月、李明博大統領の独島(トクト)訪問以後、日本の韓国に対する見解が非常に肌寒くなった。

"日本が今、軍国主義に向かっていると誇大包装するのは良くないと見る。 3・11大地震以後、日本の市民社会の複雑な心も理解する必要がある。 長期不況を体験した日本は、3・11前から中国、韓国の成長に危機意識を感じてきた。 北韓も核開発で威嚇的な存在になっている。 大地震と原発事故で現在3つの県が機能不全状態だ。 内部に積もった怒りがある。 (李明博)大統領の独島訪問は日本の保守右翼が国民の不満を韓国に振り向ける口実を提供した。 東アジアカップ サッカー競技の時、韓国の応援団が横断幕を掲げたことも、あまりに韓国の視角だけから状況を見たようだ。 日本の市民社会に韓国全体に対する否定的認識を持たせれば、かえって日本の右傾化を助けることになる。"

-どこに希望を見出すことができるだろうか?

"私は日本の市民社会を信頼している。 高齢の世代には平和運動の長い歴史があり、3・11以後の脱原発運動に参加する若い世代も多い。 平和運動と脱原発運動が一つになることができれば、新しい道が開かれるだろう。 もちろん政界では野党の再編がなされなければならないが、それには時間がかかるだろう。"

オールド世代は平和運動の追憶
若い世代は脱原発運動
私は‘日本のろうそくのあかり’を信じる
憲法改定も容易なことではない筈だ

-韓国はどのように対処するべきか?

"韓国の市民社会は日本の市民社会に対する信頼を持って、より一層多様な接近を工夫しなければならない。 韓国政府もすべての対話を断ってはならない。 政府と専門家団体、市民社会が様々な方向で日本と交流し牽制をしても、日本の保守源流の暴走を阻めるかは展望がよく見えない状況だ。 対話もせずに暴走を牽制することはできない。 対話まで断つことは傍観するということだ。 韓国があらゆる事を拒否する姿を見せれば、日本の市民社会も良くは見ない。"

-両国言論の最近の報道はどのように評価するか?

"日本の言論も非常に一方的な報道だけをしている。 韓国社会の中の多様な考えが反映されていない。 日本政府・市民社会に韓国の姿を一面化させる危険がある。

 韓国の言論を見ても同じ問題意識を持つ。日本文部省が歴史歪曲教科書を検定通過させるや、その教科書の採択を阻止した市民運動が起き、大きな成功を勝ち得たことがある。 そのように日本にも色々な姿が共存している。 有名なバンドであるサザンオールスターズが最近新曲を出したが、‘近隣諸国の歴史を学ぼう、仲良くしよう’という趣旨の歌詞を含んでいる。 日本の右傾化を警戒し阻止しようとする多様な姿も同時に伝達することが望ましい。"

https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/599268.html 韓国語原文入力:2013/08/12 20:00
訳J.S(4859字)

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