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高齢運転者、免許自主返納?説得だけでは解決しません

登録:2019-07-29 06:22 修正:2019-07-29 06:57
チョ・ギウォンの人生100年時代の日本 
(8)高齢運転者問題 
 
88歳の高齢運転者の運転操作ミス 
30代の母親と3歳の娘が死亡 
免許自主返納運動が高まる 
 
運転能力点検サービスが人気 
超小型車レンタル、買い物バスなど 
多様な移動手段の提供も摸索
4月19日、東京の池袋で88歳男性が運転する乗用車が、信号を無視して疾走し横断歩道を渡っていた31歳の女性とその3歳の娘が亡くなり、10人余りが負傷する事故が起きた=東京/EPA・聯合ニュース

 先月7日、背広姿の老紳士が、東京、品川区の鮫洲運転免許試験場にこつこつと歩いて入ってきた。男性が自身の運転免許証を職員に渡すと、カメラのフラッシュがいっせいに光った。この男性は俳優の杉良太郎で今年74歳だ。彼はもう運転はしないと決心して、この日運転免許証を返納した。彼は、大挙集まった取材陣の前で「私の運転免許返納が高齢者の運転免許返納を考える契機になればうれしい」と話した。彼は「70歳で免許証を更新する時、本当に大変だった。運転には問題なかったが反応が遅かった。次ぎの更新では返納しなければならないと思った」と話した。彼は更新タイミングが今年の8月に迫り、時期を操り上げて免許証を返納した。

死亡事故に占める高齢運転者の比率が高い

 彼の運転免許返納に取材陣が集まった直接的契機は、今年池袋で起きた悲劇的な事件のためだ。4月19日、88歳の男性が運転する乗用車が信号を無視し疾走して、自転車に乗って横断歩道を渡っていた31歳の女性とその3歳の娘が亡くなる事故が発生した。「池袋暴走事件」と呼ばれたこの事件は、日本の社会全体に大きな衝撃を与えた。杉氏も、この事故が自身が運転免許の返納を決心した契機の一つだったと話した。池袋暴走事故で亡くなった女性の夫は記者会見で「運転が不安な方がいれば(運転を止めることを)家族が一緒になって考えて欲しい」と泣きながら話した。被害者の夫は今月18日、東京の霞ヶ関で加害者に対して厳罰を求める記者会見を再び開いた。昨年6月の“父の日”に娘が自身の描いた絵を渡して「ありがとう、お父さん」と話す場面を撮影した動画を取材陣に見せた。「今後、二人のような被害者(妻と娘)も、私のような遺族も生じないよう、できるだけ重い罪で起訴して厳罰を下すことを願う」と訴えた。加害者の運転者は、警察の取り調べで「(ブレーキペダルの代わりに)アクセルペダルを誤って踏んだかもしれない」と述べた。日本の警察・検察は、加害者を自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の疑いで在宅起訴する方針であり、有罪が確定すれば加害者は7年以下の懲役刑を受けることになる。

 池袋暴走事件は、平凡な日本の家庭にも波紋を起こした。19日付読売新聞の読者投稿欄には「免許返納家族騒動」という題名の文が載せられた。82歳の夫を持つ女性は「夫には何度も免許証を返納するよう言ったけど、夫には自身が高齢者だという自覚がなかった」と書いた。さらに「ところが池袋暴走事件の後、息子が『亡くなった母親と娘が、自分の妻と娘に重なって見える。お父さんも免許を返納してくれることを願う」と家族チャットに文を載せた。夫は最初は拒否しようとしたが、息子が怒ったので結局は免許を返納した」と伝えた。

 日本全体で見れば、交通事故による人命被害は大幅に減った。交通事故の死亡者数は1970年の1万6785人から昨年は3532人まで減った。人口10万人当たりの交通事故死亡者数は、1989年の9.03人から昨年は2.79人まで減少した。飲酒運転の減少と車両安全装置の発展が交通事故死亡者数の減少原因だ。交通事故の発生件数全体から見れば、高齢運転者が最も多く事故を起こしているわけではない。事故全体を年齢別に分析してみれば、16~19歳、20~29歳、80歳以上の順で事故発生件数が多い。しかし、死亡事故に限定すれば、2017年基準で80歳以上の運転者が起こした事故が、人口10万人当たり14.6人であり、発生比率が最も高い。75歳以上の運転者が起こした死亡事故は、2006年の423件から昨年は460件に増えた。75歳以上の高齢運転者が起こした死亡事故が全体に占める比率は、2006年の7.4%から着実に増加して昨年は13.3%に増えた。

 75歳以上の高齢者が起こした死亡事故が増加した一次的原因は、人口の高齢化で高齢運転者自体が増加したためだ。2017年基準で75歳以上が運転免許証を保有しているケースは539万5312人で、全体8225万5195人の6.6%を占め、2007年(3.5%)より3.1ポイント増加した。高齢運転者が起こした死亡事故原因の1位は、ブレーキの代わりにアクセルペダルを踏むなどの“操作ミス”(29.6%)だった。

工業デザイナーの根津孝太氏が、スポンジと布を骨組みにデザインした車両=根津孝太氏のホームページより//ハンギョレ新聞社

公共交通が不足した地域では

 そのために日本の政府と社会が最近力を傾けている分野は、高齢者の運転免許自主返納キャンペーンだ。だが高齢者の相当数は、自身の運転能力には問題ないと考えているケースが多い。そのため返却を促進するために高齢運転者の実際の運転にどんな問題があるかを具体的に点検するサービスが人気を集めている。自動車保険会社の中には多機能“ドライブレコーダ”をレンタルする会社がある。この機器は、運転者がアクセルペダルとブレーキペダルを踏むタイミング、運転操作などの資料を収集して総合的評価を下す。同じ年齢帯の運転者の平均点数との比較もしてくれる。地方自治体が無料でドライブレコーダを高齢運転者にレンタルしたりもする。神奈川県大和市は、2017年から高齢運転者に無料でドライブレコーダをレンタルし、市の職員が記録内容に基づいて個別相談をするサービスを始めた。問題がある場合には免許証の自主返納を誘導する。

 運転免許の自主返納をしたくても、公共交通が十分でない地域の高齢者は自動車なしでは生活できない場合が多い。車がなければ緊急時にも病院に行けない地域もある。日本の国土交通省は、自動車の前方に人がいればアクセルペダルを踏んでも作動せず、自動的にブレーキがかかるなどの安全装置が追加された自動車の開発を自動車会社に要求している。また長期的には、こうした安全装置を備えた自動車に限定して免許を渡す制度の導入を推進している。

 “免許返納”でも“運転継続”でもない、第3の道も摸索されている。愛知県豊田市の山間地帯では、3年前から地方自治体と大学が共同で、高齢者に最大2人が乗れる超小型車30台をレンタルしている。自動車というよりはバイクに近い形で、免許を自主返納した高齢者にもレンタルしてくれる。ただし、この車は一部の地域に限定して運転でき、他の一般道路を走行することはできない。工業デザイナーの根津孝太氏は、スポンジと布で骨組みにした自動車を試験的にデザインした。人にぶつかっても致命的な人命事故にならない形だ。自動運転車両の普及も長期的代案の一つとして検討されている。

 日本の地方自治体が、直ちに高齢者の運転を減らすための代案として出したのは、不足した公共交通を補完する各種サービスだ。バスやタクシーが不足した三重県菰野町では、昨年2月から非営利法人(NPO)が高齢者からの申請を受け、一定の費用を受け取り目的地まで送迎するサービスをしている。地方自治体では、事業者に支給する補助金として268万円の予算を策定した。神奈川県の逗子市と鎌倉市は、2015年12月から「買い物支援バス」を運営している。特定のショッピングセンターで買い物を終えた高齢者を、近隣の高齢者福祉施設の車両で家に送り届けるサービスだ。

 韓国でも高齢者対象の運転免許自主返納制度が施行されている。高齢者運転問題が増えてきて「高齢運転者条件付き免許」施行など色々な対策も検討されている。「高齢だから免許を返却するのが良い」という単純な説得では問題の解決が難しい。返却の必要性を皮膚で感じられるようにする具体的な説得、そして運転しなくても生活できる色々な移動手段という選択肢が必要だ。

東京/チョ・ギウォン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/903560.html韓国語原文入力:2019-07-27 10:04
訳J.S

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