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北朝鮮向けビラ→韓国向け汚物→北朝鮮向け拡声器…「高まる軍事衝突の危険性」

登録:2024-06-10 08:02 修正:2024-06-10 08:46
拡声器を約6年ぶりに再開
先週、前線で実施された北朝鮮向け放送の実施に備えた実際の演習で兵士たちが拡声器の装備を点検している=合同参謀本部提供//ハンギョレ新聞社

 9日、韓国軍が代表的な北朝鮮向け心理戦である拡声器放送を再開したのは、これまで民間団体が北朝鮮向けビラを散布していたのに対して、北朝鮮が「汚物風船」などで報復したことから、南北ともに軍事的手段を動員する対決を甘受する方向に転じたことを意味する。この日、午後だけ一時的に拡声器放送を実施したのは、「北朝鮮が挑発するのであれば、いつでも本格的な拡声器放送をしうる」と警告しながらも、当面の衝突は避けようとする措置とみられる。しかし、北朝鮮はこの日深夜に再び韓国向け汚物風船と推定される物体を飛ばしたと合同参謀本部が明らかにした。対話チャンネルが完全に断絶された状況で、南北ともに強硬一辺倒の姿勢であるため、軍事的に衝突する危険性が高まったと指摘される。

 8日夜から9日午前まで、北朝鮮が3回目となる汚物風船を飛ばすと、韓国政府は9日、緊急国家安全保障会議(NSC)常任委員会議を開き、北朝鮮向け拡声器放送の再開を決めた。軍はこの日午後5時頃から2時間ほど、最前線地域で固定式拡声器で放送を実施した。韓国軍が制作する北朝鮮向け心理戦放送である「自由の声」を再送出するかたちで、9・19南北軍合意の全面効力停止▽サムスン電子の携帯電話の輸出実績▽北朝鮮の市場でのインフレの傾向などのニュースを放送した。2018年4月に南北首脳の板門店合意によって拡声器を撤去するまでは、最前線地域の24カ所に固定式拡声器が設置されていて、移動式装備も16台あった。

 拡声器での放送後、合同参謀本部は「放送をさらに実施するかどうかは、全面的に北朝鮮の行動にかかっている」とし、「このような事態のすべての責任は北朝鮮にあることを明確に示し、汚物風船の散布などの卑劣な方式の行為をただちに中断するよう強く求める」と述べた。この日の放送が3回目の汚物風船に対応した措置であることを明確にして、北朝鮮の態度による「条件付きで北朝鮮向け放送を追加で実施する方針」を明らかにしたのだ。北朝鮮が拡声器を狙った射撃などで激しく反発してきた前例を考慮し、軍事的緊張の管理に乗りだしたと分析される。2015年には、DMZ地雷爆発事件後に拡声器放送が再開されると、北朝鮮が照準射撃を行い、全面戦争の危機にまで進んだ事例もある。

 カギは北朝鮮の反応だ。統一研究院のホン・ミン先任研究委員は「北朝鮮も汚物風船を送りつつ韓国の拡声器放送再開を予想たであろうし、準備した切り札があると思われる」としたうえで、「北朝鮮が過去のように拡声器を狙って小銃や曲射砲を撃つ可能性もあるが、すでに『戦術核保有』を誇示して南北関係を『敵対的な二つの国家』と規定した状況では、もっと危険な行動に出る可能性もある」と懸念を示した。

 政府が4日に9・19軍事合意の効力を停止した後、「強対強」にまで対応水準を高めているという点も、朝鮮半島の緊張を強める大きな問題だ。韓国政府は北朝鮮の軍事偵察衛星の発射と汚物風船の大量散布、北西島しょに対するGPSかく乱攻撃、短距離弾道ミサイルの大量発射などに対抗して対応を強めた。韓国軍は、白ニョン島(ペンニョンド)や延坪島(ヨンピョンド)などの北西島しょに配備された海兵隊のK9自走砲の海上射撃と、軍事境界線から5キロメートル以内にある射撃場における陸軍砲兵射撃訓練もただちに開始すると予想される。シン・ウォンシク国防部長官は9日に全軍主要指揮官会議を開催し、「北朝鮮が直接的に挑発してきた際には『即強終(即時に、強力に、最後まで)の原則』に従い、断固として懲らしめる」と強調した。

 南北間の水面下でのチャンネルまで断絶した状態で、双方ともに相手のせいにして「対抗」ばかりを叫んでいることも、懸念される状況だ。慶南大学軍事学科のチョ・ソンニョル招聘教授(前大阪総領事)は「尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は支持率の危機に直面しており、特に海兵隊員C上等兵殉職事件で海兵隊をはじめとする保守層まで背を向けている状況で、政治的危機を覆い隠すために南北対決に問題を転換している側面がある」としたうえで、「政府が緊張を管理するブレーキもなしに、危険な対立を長期化させる状況を作っている」と述べた。ホン・ミン先任研究委員は「政府は局面を落ち着かせて切り替えるために、北朝鮮向けビラ散布を積極的に自制させ、軍事会談の提案などで南北関係における名分を確保しなければならない」と述べた。

パク・ミンヒ先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1144098.html韓国語原文入力:2024-06-09 22:09
訳M.S

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