激しく広がるオミクロン株は、最初はヒトではなくネズミで生じたと主張する研究結果が出てきた。この主張が事実であれば、ヒトから新型コロナウイルスに感染した他の動物が再びヒトに突然変異ウイルスを感染させる「2次スピルオーバー」の事例であるため、注目が集まっている。
中国科学院の銭文峰教授らによる中国の研究チームが「ジャーナル・オブ・ジェネティクス・アンド・ジェノミクス」の最新号に掲載した論文で、「オミクロン株がネズミから始まったという証拠を見つけた」と明らかにした。研究者らはオミクロン株の45の突然変異に関する分子スペクトルを分析し、このような結論を下したと明らかにした。
11月24日、南アフリカ共和国で報告されたオミクロン株は、強い感染力により世界保健機関(WHO)がわずか2日で「懸念される変異株(VOC)」に指定した。それ以降、米国や欧州などで優勢種となり、コロナ禍を主導している。
オミクロン株は、新型コロナウイルスのこれまでの変異株とは様々な点で違う。何より突然変異の数が多く、既存のワクチンの効果を弱める。感染力は強いが深刻な肺への損傷を起こさず、重症化する割合が低い点も特徴だ。
遺伝子(ゲノム)を調べてみると、オミクロン株はアルファ株やデルタ株など他の懸念される変異株から出てきたものではなく、初めから別の分岐点から進化したかのように異なっている。オミクロン株がどこから来たのかについて、これまで3つの仮説が出てきた。
一つ目は、新型コロナウイルスの検査と分析がほとんど行われない人口集団で変異ウイルスが進化した可能性だ。しかし、集団感染が始まってから1年が経過しても他の所に広がらないというのは、現実性がないという指摘を受けた。
そこから出てきた二つ目の仮説が、免疫が弱くなった人間が長期間新型コロナウイルスに感染し、体内でウイルスが変異を起こした可能性だ。この仮説は、南アフリカ共和国の研究チームが、治療剤を服用せず健康に生活するヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染者の体内で、新型コロナウイルスが数カ月間増殖した事例を確認し、現在まで有力な説明として受けいれられてきた。
三つ目の仮説は、新型コロナがヒトではなく動物に入り進化した後、ヒトに流れ広がったというものであり、今回の研究がその可能性を具体的に提起した。オミクロン株がネズミの体内で突然変異した後、再びヒトに感染する「宿主の乗りかえ(スピルオーバー)」が起きたという主張だ。
研究者らは、オミクロン株のスパイクタンパク質の塩基配列を分析した結果、「ヒトの体内で進化した他の変異ウイルスからはまったく報告されていない、強力な選択圧力を受けた事実を発見した」とし、ヒトではない新たな宿主動物に入り適応するためにウイルスが突然変異を起こした可能性を提起した。
研究者らはまた、オミクロン株の突然変異の分子スペクトルは、人間の患者の中で進化したというよりは、ネズミの体内で進化したウイルスと似ているという事実を明らかにした。研究者らは、「オミクロン株は、スパイクタンパク質がネズミの細胞の受容体とうまく結合するように適応したことを確認した」と明らかにした。
そのような分析結果をもとに、研究者らは、「オミクロン株の先祖がヒトからネズミにうつり、そこで急速に突然変異を蓄積した後でヒトに感染した種間の進化の軌跡を示した」と論文で明らかにした。
オミクロン株の先祖がヒトからネズミに感染した時期を、研究者らは2020年中頃とみて、そこで1年ほど突然変異を経た後、2020年末に再びヒトに感染したと推定した。しかし研究者らは、新型コロナの宿主になったネズミが、実験用マウスなのか、イエネズミまたは野生のネズミなのかは明らかにしなかった。
新型コロナウイルスがヒト以外の動物に流れ広がった後、突然変異を経たウイルスが再びヒトに感染する事例は、デンマークとオランダのミンク農場で発生し、ミンクを大量に殺処分することにつながった。また、2020年11月から2021年1月の間、米国アイオワ州では、野生のオジロジカの80%以上が新型コロナウイルスに感染したことが明らかになり、野生動物が「ウイルスの貯水池」の役目を果たす懸念が生じた。
研究者らは、「ヒトは新型コロナウイルスの最大の保有者でありながら、家畜や伴侶動物、野生動物と様々な機会に接触する」とし、「ヒトのウイルスが動物にうつり、新たな変異を生みださないよう、動物のウイルスに対する監視を怠ってはならない」と論文に書いた。
引用論文: Journal of Genetics and Genomics、DOI: 10.1016/j.jgg.2021.12.003