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[ルポ]「真っ赤な火がぱっと飛び…あっという間に村が飲み込まれた」

登録:2019-04-06 08:20 修正:2019-04-06 12:35
避難所が煙に襲われ、他の非難所に 
市内ではガスが破裂する轟音 
「あそこがまだ消えていないぞ」「ここもだ」 
企業の職員・住民、慌ただしく鎮火作業 
住民「何もかも焼けてしまい、絶望的」
5日午後、江原道江陵市玉渓面川南里村で夜中に山火事が燃え移り焼けてしまった家屋を、被災者のいとこのハン・スネさん(56)が見ながら涙を流している=江陵/キム・ボンギュ先任記者//ハンギョレ新聞社

 4日夜11時。タクシーに乗って江原道束草市(ソクチョシ)へ向かう道は、戦場へ入るようだった。窓越しに束草の市内がバタバタと燃える音が聞こえてきた。一面が赤く染まっていた。30分後、市内に入ると携帯電話に緊急災難ショートメッセージが届いた。「[束草市役所]中央小学校の避難場所不可、束草医療院一帯の住民たちは束草監理教会、東明洞聖堂に直ちに避難してください」「[束草市役所]4日23時40分、校洞(キョドン)一帯のマンションの都市ガス遮断」。ショートメッセージは緊迫していた。

 午前0時、校洞の現代マンションには山火事がマンション側に迫り、市民たちが着の身着のままで家を飛び出した。煙と焦げたにおいがし、道路は避難する車でいっぱいになった。時おり市内側から大きな爆発音が聞こえてきた。市民は「ガスが破裂する音のようだ」と言った。Lさん(45)は「緊急災難メッセージを見てはっと気がついて、カーテンを開けたら外が赤く染まっていた」と言い、「飼い犬だけ抱えて飛び出した」と話した。

 避難所は800メートルほど離れた校洞小学校に設置された。600人余りの住民がここに避難した。永朗小学校と中央小学校など他の非難所に行ったがそこも煙で覆われており、再び避難してきた住民たちもいた。Pさん(27・束草市章沙洞)は「永郎小学校に行ったがそこも煙が立ち込めていたためここに来た」と話した。

 午前2時を過ぎても市内の炎は鎮まらなかった。校洞のKT子会社である(株)ファソンの事務所の前では、社員10人余りがあわただしく山に水をかけた。ある職員は携帯電話を手にし、「早く来い!ネットワークケーブルみんな燃えてしまう!」と叫んだ。弥矢嶺路(ミシリョンロ)にある嶺東ガス充填所の近くにも火が燃え移った。充填所の職員らは「あそこにも火が付いた!」「あそこはまだ消えていない!」と叫びながら走り回っていた。束草は一晩中火のかたまりの中でうめき声をあげ続けた。

 夜が明け、市内側の火の手がようやくおさまった。山火事に襲われた場所には灰の山だけが残った。5日午前9時、高城郡土城面(トソンミョン)元岩里(ウォンアムリ)の村会館には、住民20人余りが集まって救援物資を配っていた。高城と束草側の火は、ここ元岩里のある電信柱から始まった。120世帯が住んでいるこの村では50~70世帯が焼失した。灰の中を顔のすすけた犬がうろついていた。甕はすべて熱で割れ、農業機械も細い骨組みだけが残った。婦女会長のハン・スンヒさん(59)は「家の裏の空から火種が飛んできてぽとんと落ちると、家に火がぱっと広がった。家がなくなった、全部」と話した。イ・サンジュンさん(65)は、火事で建坪168平方メートルの家が全焼した。イさんは「火の手が回るのを見て、靴下ひとつ持ち出すこともできずに脱出した。火花が強風に乗って雪のように広がったと思ったら、車にも雪のように落ちてきた」と言い、「こんなになってしまってどう生きたらいいのか。すぐに行けるところもない」と話した。

5日午後、江原道江陵市玉渓面川南里村で夜中に山火事が燃え移り焼けてしまった家屋を被災者の親戚たちが見て悲しみに沈んでいる=江陵/キム・ボンギュ先任記者//ハンギョレ新聞社

 高城郡と束草市周辺の住宅125戸程が焼失した中、束草市長泉(チャンチョン)村40世帯余りのうち半分が灰になった。村で会ったキム・ジョンスンさん(74)は50年以上暮らした家と穀物を保存していたコンテナが全部消えてしまったと話した。「あの家で息子の勉強も教え、子どもが結婚し、コンテナには農作物を入れておいたのに、全部燃えてしまった。コメも何もかも全部入れておいたのに、飢え死にしてしまう。コメがないんです。コメが全部燃えてしまいました」。村会館の敬老堂で会ったKさん(72)は「燃えなかった家も煤の匂いがひどくて入ることができず、敬老堂に集まって一緒にご飯を食べている」と話した。

 束草市の東北川にある永朗湖リゾート近くのペンションも被害が大きかった。桜が咲く季節が最盛期を迎えた新世界永朗湖リゾートは、鉄製の倉庫2棟が全焼して崩れた。午後1時に訪れたリゾートのフロントには、予約キャンセルの問い合わせ電話が殺到していた。リゾートの関係者は「4日夜、客室50室ほどのお客さまが避難し、4日の利用者たちから払い戻しをしている」と話した。

 住民たちが自らホースを持って火を消したりもした。永郎湖の近くのポラムアパートに住んでいるというKさん(52)は「夫と息子がホースを持って出て、マンション近くの野山の火を消して早朝3時に帰ってきた」と話した。

 江陵地域最初の発火地点である玉渓面南陽里(ナムヤンリ)では110世帯のうち25世帯が消失した。焼けた家が廃家のように見えた。この村で被災した人は100人余りだ。ユン・ウソンさん(68)は「年老いてから稼いだお金を全部家に投資したのに、これからどうしたらいいのか」と涙声で話した。

 「真っ赤な火のかたまりがぱっと飛び、あっという間に村を飲み込んだ。生きる術がなく、絶望的だ」。高城郡土城面龍村(ヨンチョン)1里で会ったラ・ガプスンさん(70)が言った。こうして江原道の春は真っ黒な灰になった。

束草/イ・ジュビン、オ・ヨンソ、江陵/イ・ジョンギュ、高城/パク・スヒョク記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/888960.html韓国語原文入力:2019-04-06 00:06
訳M.C

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