登録 : 2015.06.22 00:03 修正 : 2015.06.27 18:14

紅い灯が消えた通りは、朝になると白い洗濯物だけが翻っていた

ソウル永登浦の集娼村の塀に風が吹く。前日の痕跡が洗われたタオルが翻っている。朝になればショッピングモール タイムスクエアに人々が集まり、集娼村は一件ずつガラスドアを閉じて赤いカーテンを下ろす。 集娼村の朝は死んだように物寂しい=パク・ユリ記者 //ハンギョレ新聞社

ソウルの影の部分を眺めます。ソウルの顔にはならない裏舞台を辿って行きます。 都市の夜を歩いてみます。 この都市に宿った孤独と夢、懐旧と憂鬱、温もりと悲しみ、愛と孤独を描こうと思います。 見知らぬ人の人生の中に入ってみます。 生きて行くということ、生き延びるということ、生存するということの美しさを描いてみようと思います。 初回に訪ねたソウル永登浦の集娼村で眠り、朝には白いご飯を食べました。 人々はこちらに来たという痕跡を残さずにいなくなります。 痕跡は記録や思い出、傷になりますから。

 夜と朝の間の時間。 夜は遠くに去り、朝にちょっと入り込んだ時間、午前4時40分。 ソウル永登浦「集娼村」のS姉さんの店の空室で眠って起きて、店のガラスドアを開けた。 青黒い大気に紫色のインクが染みて星は姿を消した。 前夜この通りで女たちを盗み見ながら低速走行した車とバイクの轟音、男と女の声が酒に酔ったようにふらふらしながら私が寝ている部屋に押し寄せては抜け出ることを繰り返した。 数時間が過ぎた明け方のこの通りには、お客さんの姿はもういない。 紅い灯の下で夜を明かしたアガシがきつい表情で椅子にもたれて座った。

集娼村の向い側にプラスチックの椅子を出して、座ってタイムスクエアを見上げた。ある種の空間や位置はそちらの情緒や空気をそっくり伝達してくれる=パク・ユリ記者//ハンギョレ新聞社

 集娼村の向かい側に灯の消えたタイムスクエアのガラス窓に、衣料品店のマネキンが立っている。淡い照明を受けたマネキンが新しい服を着て、それぞれ異なる視線で世の中を見つめる。 タイムスクエアはまだ開店していない。 1時間20分後には集娼村がドアを閉めるだろう。 太陽が完全に昇って明るくなった通りに人が込み合う前にカーテンを下ろしてこの都市から隠れるだろう。集娼村通りの終端、“ヨンシルロ24道”の表示板で左に曲がった。夜明けに小売り商人たちが商品を仕入れていく永登浦青果物市場に着いた。 濃いニンニクの香りが漂う市場の片隅で、商人がおかず数品を載せたステンレスの食膳の上に手を伸ばし一匙すくう。ご飯を食べる。集娼村に戻ってきた時間は3日の午前6時。 通りにアガシの姿は見えない。 紅灯が消えた通りに私一人が立っていた。

馴染みの犬が夜道に出て来る

 昼間の集娼村には風が吹き洗濯物が翻る。昨日の痕跡だ。 集娼村とタイムスクエアを画する塀に洗濯紐がかかり、きれいに洗われたタオルやふとんが風にひるがえる。7万ウォンを払ってアガシとの15分を過ごした男たちの痕跡は朝日を浴びて水気を失う。 お客さんの姿が消えてドアが閉められた集娼村、店ごとに赤いカーテンを下ろしても洗濯物は簡単には乾かない。 朝、アガシが長い眠りにつくと、イモ(おばさん)が店のドアを開けてガラスを磨く。 食事と洗濯をする。 アガシが眠りにつく時、私も家へ帰った。 午後5時になれば6628番バスに乗って永登浦に戻った。

 この通りが目覚める午後5時になると、私のように仕事もないのに現れる人がいる。 ジャージ姿にもじゃもじゃ髪の男は、本物か偽物か分からないルイヴィトンの手提げ鞄を持って毎日姿を現す。 5、6年前に女性服を着て初めて現れたという。 おかしくなっていると言った。彼がこの通りになぜ現れたのか、誰もその男の過去を知らない。 誰も尋ねなかった。 その男はその時から毎日集娼村に来るようになった。 1966年からこの通りを見守ってきたヨンミ美容室のレザーソファに座ってお嬢さんの髪を見物していた。 もともとこの通りの人だったかのように、彼も、人々も慣れた。 彼に名前ができた。 チンシル サムチョン。集娼村で事業主や店を管理する男たちは“サムチョン(叔父さん)”、掃除や料理をする女たちは“イモ(叔母さん)”、お客さの相手をする女性は“アガシ(お嬢さん)”と呼ばれる。 チンシル叔父さんは、ホール服(お客さんを受け付ける時に着る服)を着たアガシがタバコや飲み物を買って来てと言えばおつかいをする。アガシが駄賃を与える。 この通りの中央にある京城薬局とヨンダル家のトッポッキ店の前にある小さな階段に座っていれば、行ったり来たりするチンシルおじさんの姿がしばしば見える。 ひけらかすことが多いこの世の中で、訳ありの人々が集まって暮らす所、集娼村。 彼らにとってこの通りは、息をつき生きていける唯一のぬくみを与える場所なのかもしれない。

 消えた紅い灯が点いて、薬局とトッポッキ店が閉まればこの通りの人々が階段で休んで行く。 事業主が出てきて座っていれば、また別の事業主が出てきて二言三言話しかける。 アガシに物を売る商人も階段に座る。 果物売りのリヤカーのおじさん、子犬の服やペットフードを売る商人、ヘアバンドやアクセサリーを売る女、ホール服を売るおばさんも集娼村を巡って商品を薦める。アイスコーヒーを売る70歳のおばあさんもトッポッキ店の前に座って注文を待つ。 おばあさんは2年前まで永登浦集娼村の事業主だった。 不思議とお金に縁がなかったという。 入ってきたお金は風のように簡単に出て行ったという。 取り締まりに引っかかりもしたし、裁判になれば弁護士費用として出て行った。 「ここで20年商売したが、休むとあちこちからだが痛くなって。 それでコーヒー売りを始めた。仕事があるので痛みもあまり感じない。 私もいろんなアガシと知り合ったが、一番記憶に残っているのは嫁に行ったアガシ子供たちだよ。 嫁がせる時に話した。 『ここから出たら後を振り返ってはだめだよ、私にも電話なんかしちゃあ駄目、達者に暮らせ』って」

 夜になればアガシの飼っている犬や猫も道路に出てくる。事業主を手伝って店を管理する未婚の男が、23歳のアガシのプードル“ペペ”を抱いて散歩をしている。 「何を間違って食べたのか、肝数値がものすごく上がって、この子が生死をさまよいました。 アガシが仕事をしているので犬を連れて夜に町内をひと巡りするんです。 アガシは愛情に飢えているんです。それで犬を飼うのです」。昨日、グレーの洋服を着た中年男性の相手をしたアガシ(31)が寝巻姿で閉まっていた店のドアを開ける。このアガシは今日は休みだ。 眼鏡をかけて素顔のアガシが、猫の“ココ”を抱いてコーヒーを売るおばあさんに近付く。「おばさん、ココはみんな分かっているみたい。おじさんには猫アレルギーがあるんだね。 それでここのところ遊んでくれなくて、近づきもしなかったんだよ。この子、便が出ないの。ストレス受けたみたいで。この子、口では言えないだけで、全部感じているから」。コーヒーを売るおばあさんが孫を受け取るようにアガシからココを引き取ってふところに抱いた。

紅灯の下で夜を明かしたアガシが
きつい表情で椅子にもたれた
集娼村近隣の青果物市場で商人が
片隅で明け方のご飯を匙ですくった
アガシも夜明けに白いご飯を食べる
集娼村は朝になるとカーテンを下ろす
前夜の痕跡を消してドアを閉める
塀際にはきれいに洗った洗濯物が
風に翻っている
叙事が省略された通り

 永登浦の事業主代表O氏も薬局前の階段に出てくる。「ウチの店が他の店より大きいでしょう。大きな店にアガシを満たすには職業紹介所にお願いすれば良いんだけど。でも、人が生きる所と考えると、ちょっとね。ただ知り合いの紹介でアガシを入れているんだけど、今はアガシ一人だけだ。 アガシ私も、常に取り締まりの対象になるけど、私は率直に言って世の中が虚飾に満ちていると思う。フィリピン遠征買春に豪華ルームサロン、ミラールームにイメージルームに…どんどん増えて、そこで楽しむ者も多いのに、取り締まるにはここが一番簡単なんだろう。ところで、貴女は結婚してるの?」

 集娼村の路傍に椅子を出して明け方まで座っていれば、見慣れない男が話しかけて来る。「いくら?」ホール服を着たり濃い化粧をしなくても、30代の女が夜に長く座っていれば訊いてくる。黒いスモーク・フィルムを貼った車両の中の男は、窓を開けて顔を半分ほど出した。 人が歩く程度の低速走行をする車の中の男が、静かに近づいてきて、手を伸ばせば届く距離まで近づいた。 目と目が正面からあった。 男が微妙な笑みを浮かべる。 あんたが誰なのかは分からないが、何の仕事をしているのかは分かるという表情だ。 あんたが誰かを知る必要もないけど、7万ウォン出せばすることができるという笑いだ。 男が通り過ぎ、私は椅子に座って過ぎ行く車の後ろ姿を眺めていた。 男と女が近づくまで、世の中のこっちの端とあっちの端に暮らした二人が、相手の息づかいが聞こえる程近くに立つまで、偶然と縁が繰り返されて二人だけの叙事を作り出す。 この通りでは偶然と縁、叙事が省略された。15分の情事が繰り返された。

 子供を産んだアガシも通りに出てくる。N(33)はシングルマザーだ。子供を妊娠しボーイフレンドと別れた。堕ろそうかとか、孤児院に預けようかとも考えたという。 産まれてくるとNによく似た男の子だった。駄目だった。Nはここで稼いだお金で子供の面倒を見てくれる母親に養育費を渡している。 お客さんの相手をする小さな部屋でNと話を交わした。 深い話はできなかった。 「世間の人が私たちを見る視線には2種類あります。軽蔑と同情ですね」。営業する前に化粧しながら何を考えるのかと尋ねた。 「子供にチョコパイでも買って、おもちゃの一つでも買ってあげよう」。淡々とした声に微細な変化を感じた。 私が先に部屋を出て、Nが後から出た。Nはガラスの前の椅子には座らずに、壁についた鏡をぼんやりと見た。目の化粧を直した。Nはお客さんの相手をする内側の部屋に入ってしまった。しばらく出て来なかった。 Nは再びガラスの前に出てきて男たちに「ねえ、ねえ」と呼ぶ。Nが仕事をする店の向い側にいた私は引き返した。ガラスの外からNを眺めることも、質問をしたことも申し訳なく思った。 彼女に対して持った気持ちが同情ではなかったのか、確認できなかった。

カーテンを堕ろしてご飯を食べる

 集娼村では仕事を終えた明け方に夕食を食べる。S姉さん(43)、N(33)と私は午前6時になると店にカーテンを下ろして台所のある部屋に丸く座った。食卓に上がったキュウリの冷製スープと干したイワシ、青唐辛子とちりめんの炒め物、焼き魚は前日おばさんが用意しておいたものだ。マニキュアを塗った長い爪のS姉さんの手が包丁を持ってスイカを切る。

 「包丁が切れすぎるの。なぜかこの包丁が怖くて。N、夜は台所の部屋に鍵掛けて置く方が良くない? 誰だって台所に包丁があることくらい分かるんじゃない? この前の男、覚えてる? ちょっとよそ見をしている間に店の中に入ってきた男。他の店のおじさんが急いで入ってきて送り出したじゃない」

 隣の店の黄色い髪のアガシが台所の中をのぞき込む。「姉さん、パッド」。黄色い髪のアガシはお客さんと関係する時にベッド カバーに敷くパッドを借りて、両手に抱いて戻った。Nとマルチーズの子犬ピンキーが2階の部屋に上がって、S姉さんと私だけが食卓に座ってスイカの種をほじくった。

 「初めて会ったお客さんを覚えている。初めの数カ月は私のからだを耽溺するのが本当に嫌だった。蛇が這うような感じだったから。私が3日目に相手をしたお客さんが今も時々来るの。そのお客さんが、私が10年前にどんなだったかを話して、私を時々からかうの。私がここに来て3日目に、そのお客さんと部屋に入ると、後ろを向いて服を脱いだんだって。お客さんの隣に横になって、しばらく何もしなかったんだって。『サービスしないの?』と言われて、それから起きて、汚いものを見るような表情で顔をそむけて二本の指でつまんだって。

 長く会った男がいた。この仕事をする前から会っていた男だけど、永登浦集娼村に来てからも3年間続いた。 だんだん申し訳なく思えて、目を見れなかったよ。その人は私がここで仕事をしていることを知らなかった。 会って8年目に別れた。 別れる時、理由がなくて他の男ができたと嘘をついた。 その男が言った。『それで君は私と寝るのが嫌なんだな』。ここに来てから、その人と寝ることがとても辛かった。その時に結婚していたら、私の荷物がその人荷物になったはず。別れて良かったんだと思う。

 ここで仕事をしていればば誰でも限界が来るの。 4,5年前、あまりにしんどくて辞めて出て行って旅館の部屋を一つ借りた。4カ月ぐらい暮らしたよ。コンビニでアルバイトをした。 お客さんの相手をしないから本当に全く自由だったよ。自分のことだけ考えようと出て行ったんだろうね。 ところがそれは簡単なことじゃなかった。 両親が頼れるのは自分しかいないのに…。 結局戻ってきた。 この通りの裏の路地に、昔ここで仕事をしていた歳をとった姉さんが暮らしているの。通りがかりに姉さんに会う時があるわ。 私もあのようになるのじゃないだろうか、そんなことを考えて。 初めは計画があったけど、もう10年になったよ。 ここに来てから母親が脳卒中で倒れた。 病院費がかさんで、私も人間だから、お母さんががもう逝ってくれたら…自分がおかしくなった、何を考えているんだ、そうでしょ。心を打ち明けて過ごせる後輩が1人いるの。あっちの他の店にいるんだけど、その子がカカオトーク送って来た。「姉さんは本当に仕事をしたくない時はどうしてるの?」それで私が答を送った。「職場だと腹をくくると。 具合が悪いだの、誕生日だの言って休めるわけ?」今、私にとってお客さんの相手をするのは仕事だ。何の感情もないよね。好きなお客さんなら声も出すけど。

 私だって分からないわけじゃないけど、時々お客さんと話していて嫌になる時がある。 それでも私は仕方ないと思う。 井の中の蛙というか、永登浦を出て暮らしていけるかと思うと。 歳をとってから自分の話はあまりしない。お客さんや妹の話を聞くばかり。でも今日は自分の話をしてしまったね」

 私はスイカを噛んで飲み込んだ。S姉さんとスイカを食べていると朝になった。

 S姉さんのいる店で三晩を過ごし、明け方のご飯を三回食べた。最後の5日の朝には雨がしとしと降っていた。 その日は午前6時から豚の三枚肉を焼いてビールを飲んだ。 その前夜、私は申京淑の小説『母をお願い』をS姉さんに差し出した。S姉さんは最後の日の朝、飾り棚から包装をはがしてもいない新しい香水瓶を取り出した。「私はプレゼントは貰いません、貰えません」。香水を持った彼女の手がしばらくはにかんでいた。「プレゼントではないんだけど? 私の気持ちです」。静寂が流れた。 彼女から香水を受け取った。 家に帰ってベッドのコーナーに香水瓶をのせて寝ついた。 起きると香水が引き出しに入っている。私の母はどんな物でも引き出しやカバンに入れる習慣がある。 香水を取り出して、またベッドのコーナーに上げておいた。 S姉さんが毎晩お客さんの相手をする場所にも小説が一冊あるだろう。

 「あまり外に出ないから映画をダウンロードして観ようと思い、お客さんの相手をする部屋にIPTVを付けた。タイムスクエアの前に住んでいながら、映画館には一年に1、2回しか行かない。 あまり外に行かないのは、体でする仕事なので疲れるからだと思っていたけど、考えてみるとどこかに隠れていたくてそうなのかもしれない」

パク・ユリ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015-06-19 10:12
http://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/696781.html 訳J.S(6691字)

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