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[コラム] 韓国にはなぜNVIDIAやテスラのCEOのような企業家がいないのか

登録:2023-06-03 06:41 修正:2023-06-03 10:18

 米国を代表する企業の最高経営者たちが、ジョー・バイデン大統領の中国封鎖政策に相次いで反旗を翻した。ChatGPTに代表される生成系人工知能(AI)時代の寵児として浮上した半導体企業「NVIDIA」のジェンソン・フアン最高経営者(CEO)は最近、マスコミとのインタビューで、「米政府の対中半導体輸出規制がシリコンバレー企業の両手を後ろで縛った」と政府を厳しく批判した。グローバル電気自動車メーカの最大手「テスラ」のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)も中国を訪問し、「米中『デカップリング(切り離し)』に反対する」と批判に加勢した。

 韓国の企業家たちも、米日に傾倒し中ロを過度に刺激する尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権に対し、少なからぬ不満を抱いているようだ。プライベートな会合では「国家経済と企業経営に全く役に立たない」と口を揃え、ため息を漏らしている。大統領任期が終わるまで何もしないでいてくれた方がいいという率直な気持ちを打ち明けた人もいる。

 しかし、国民の目に映る韓国の企業家たちの姿は全く違う。政府に対する支持と称賛一色であり、プライベートでは不満を漏らしていた人と果たして同一人物なのか疑わしいほどだ。経済6団体は、物議を醸した大統領の訪日および訪米について、「韓日両国の未来に向けた決断を応援します」、「尹大統領の米国国賓訪問の成果を歓迎します」と支持広告を掲載した。中小企業中央会は政権発足1年を迎え、中小企業の85%が大統領の韓日米経済協力強化に向けた取り組みを評価すると答えたという調査結果を発表した。サムスン電子のイ・ジェヨン会長は「日帝強制動員被害者第三者弁済案」を国の未来と国民のための決断と称賛する「尹飛御天歌(朝鮮王朝時代、先代の王たちの治績を称えた歌『龍飛御天歌』に喩えたもの)」まで流した。裏では後ろ指を差しながら、表では拍手を送る姿が「裸の王様」の童話を連想させる。

 韓国の企業家たちはかつて、権力者の機嫌を損ねる発言をして苦境に立たされた苦い歴史を覚えている。また、検察権力が国政全般を牛耳る「検察政権」で、どの企業家も検察の刃から自由ではないという恐怖も抱いている。尹政権に睨まれ、検察から無差別な絨毯爆撃を受けているKTが代表的な事例だ。

 企業家にとっては企業の利益が最も重要だが、国益と衝突する時は国益を優先するのが道理だ。ところが、どのような政策が国益に合致するのか不明であり、政府が判断を誤ったことが明らかであるにもかかわらず、自分の身を案じて沈黙するのは卑怯であり、経営者の責任を投げ出すことだ。

 韓国経済の戦略的利害関係は比較的明確だ。中国は長い間、韓国の最大の輸出市場として輸出のけん引役を果たしてきた。このような中国市場を諦めるのはありえないことだ。中国に大規模な半導体工場を構築したサムスンとSKの中国生産依存度は、品目別に20~40%にも達する。中長期的には中国への依存度を下げなければならないが、経済的衝撃がないよう慎重なアプローチが求められる。欧州が最近、主要7カ国首脳会議(G7サミット)で、中国との完全な分離を意味するデカップリングの代わりに危険を低くする「デリスキング」(脱危険)を掲げ、戦略的柔軟性を示したのは他山の石だ。

 尹政権が米日の対中国強硬路線に積極的に同調するのは、韓国経済に害を及ぼす可能性が高い。米日が韓国の国益を真剣に考え、中国が韓国の立場を理解してくれるはずがない。中国が米メモリー半導体企業である「マイクロン」の製品に対して購買中断措置を下すと、米国は韓国企業がマイクロンの穴を埋めてはならないと圧力をかけている。中国も韓国に対して米国側に立つなと明らかな警告のシグナルを送っている。「第2の高高度防衛ミサイル(THAAD)事態」の影が見え隠れする。日本は米中戦略競争の隙間を狙って過去の半導体大国の栄光の再現を夢見ている。韓国は、米国の対中規制参加への圧力と中国の報復という二つの刃を避け、日本をけん制しながら実利を失わない知恵が切に求められている。

 2024年の韓国での総選挙は結局、経済がカギを握っている。経済成長率見通しの下方修正が続き、輸出の不振が止まらず、貿易収支赤字がますます増えていく。高物価、高金利、雇用難が重なり、低所得層はもちろん中産層まで苦しんでいる。にもかかわらず、尹政権は金持ち減税、弱者福祉の縮小、財政健全性の強化というすでに崩壊した経済政策にこだわり、不平等を深めている。チュ・ギョンホ経済副首相は、韓国経済が下半期には回復すると豪語しているが、経済界ではそれを信じている人は誰もいない。

 さらに、尹政権の危うい外交安保政策は国民と国家の安全に役立つかどうか微妙なところがあるが、韓国経済にとっては泣き面に蜂になる公算が高い。外交安保政策の核心目的の一つは、国家の発展と繁栄に直結する経済的利益を守ることだ。米国の対中封鎖も結局、経済的覇権を守るのが目的だ。

 ここのところ経済界では、厳しい経済状況が続けば総選挙にも悪影響を及ぼすことが目に見えており、尹政権も変化を模索するだろうという期待混じりの見通しも示されている。尹政権が米日への傾倒から抜け出し、しっかりバランスを取るなら幸いだが、「裸の王様」が現実を認めるのはそう簡単ではない。韓国経済にはひたすら待つ時間的余裕がない。企業家たちもこれからは真実を語らなければならない。韓国の企業家たちにNVIDIAやテスラのCEOのような所信を期待するのは無理だろうか。

//ハンギョレ新聞社

クァク・ジョンス|ハンギョレ経済社会研究院先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1094218.html韓国語原文入力:2023-06-01 18:30
訳H.J

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