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[寄稿]揺らぐ米国のリーダーシップ、不安定な世界秩序

登録:2022-05-30 03:45 修正:2022-05-30 08:12
バイデン政権は、規範と規則に基づく国際秩序の回復と、同盟および多国間協力の強化を提唱した。米国の国力の限界を認知し、同盟国と友好国との緊密な協力により、新たな地政学・地経学的挑戦に対抗するということだ。米国の国力が以前より制限された状況のもと、国際社会の主要課題を同盟国と友好国に分担させる一種の「外注覇権国」(outsourcing hegemon)という印象をぬぐい切れない。 
 
ムン・ジョンイン| 世宗研究所理事長
韓日歴訪を終え帰国した直後に国内外の不幸に接することになった米国のジョー・バイデン大統領が24日(現地時間)夕方、ホワイトハウスで演説を行い、沈鬱な表情をみせている。米国ではこの日、テキサス州ユヴァルディの小学校で発生した銃乱射事件で21人が亡くなり、北朝鮮は25日朝、東海に向け大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含む3発の弾道ミサイルを発射し、挑発を続けた。中国とロシアも前日、東海側の韓国の防空識別圏(KADIZ)に戦略爆撃機を飛ばし、米国に挑戦する姿を示した=ワシントン/AP・聯合ニュース

 覇権とは、国際政治において一つの国家に力が集中する現象を意味する。覇権国が力を通じて世界を支配する時、帝国が誕生する。反対に、その地位を利用して新たな国際秩序を作り、国際社会の平和と共同繁栄を用意する時、覇権的リーダーシップ国家に位置づけられる。第2次大戦以降、ひとえに米国だけがそのような役割を果たしてきた。安全保障と自由貿易という公共財を提供する米国という巨人がいたからこそ、世界秩序の構造的安定が可能だった。

 冷戦が終わり、米国に対する期待はさらに高まった。それに対する回答は、1991年9月23日のジョージ・ブッシュ(父)大統領の国連総会演説によく表れている。「米国はこれ以上、パックス・アメリカーナ(Pax Americana)を追求する意図はないということを、はっきり明らかにします。… 互いに共有された責任と願いに基づくパックス・ユニベルサリス(Pax Universalis)を追求するでしょう」。米国だけの覇権ではなく、国連とともに世界平和を模索するという意志の表明だった。米国が唯一の超大国という構図の覇権的な優位を享受しているにもかかわらず、国際社会との協力を通じて世界平和と共同繁栄を作るという「慈悲深い覇権国」のビジョンだった。

 しかし、2001年の9・11事件以降、米国の反応は変わった。米国の心臓部に対するアルカイダのテロ攻撃、罪のない市民の犠牲によって、米国の政府と国民の怒りが噴き上がった。ネオコンの影響を受けたブッシュ(息子)大統領は、米国的な価値を基準に世界を善と悪に分ける道徳的な絶対主義、国連と多国間主義の秩序を否定する覇権的一方主義、テロの兆候が見えるというだけで先制打撃を加えるという攻勢的リアリズムで一貫した。アフガニスタンとイラクへの侵攻は、そのような流れで行われた。慈悲深い覇権国米国が、高圧的で報復的な覇権国に変わったことを意味する。

 2009年1月に発足したオバマ政権は、新しい外交の始まりを表明した。道徳的絶対主義から共感と寛容の外交に、一方主義から多国間主義の協力に、同盟国と友好国との協力を通じて、世界の主要な懸案を解決していくという自由主義の路線への転換を標榜した。しかし、オバマ外交から覇権的リーダーシップの姿を見出すことは難しい。イラクからは撤退したが、アフガニスタンには残留し、就任直後から推進した「核兵器なき世界」と「核の先制不使用(no first use)」というスローガンは、無為に終わってしまった。それどころか、中国の浮上を理由にアジア太平洋リバランス戦略を展開し、冷戦回帰の兆しさえ示した。自由主義を標榜しながらも、同盟管理を通じて米国の優越的な地位を固守しようとする「ヘッジ覇権国」という二重的な姿だった。

 後を継いだトランプ大統領は、最初から覇権的リーダーシップに関心がなかった。「米国第一主義」のもと、多国間主義の協力を拒否し、取引主義の観点から、同盟国をただ乗り国とみなした。米国はもはや世界の警察の役割を果たさないという彼の発言から、それは明らかになった。トランプは「強い米国」を標榜したが、それは、国際社会の平和と安全のためではなく、米国の一方的な国益のためだった。米国は、もはや覇権的な指導国ではなく、自己中心的な超大国に過ぎなかった。米国の歴史上、最も深刻な外交的逸脱だった。

 10日前に訪韓したバイデン大統領はどうだろうか。バイデン政権は、規範と規則に基づく国際秩序の回復と、同盟および多国間協力の強化を提唱した。米国の国力の限界を認知し、同盟国と友好国との緊密な協力により、新たな地政学・地経学的挑戦に対抗するということだ。中国とロシアのような権威主義国家の軸に対抗するため、自由民主主義の連合を稼動する一方、米国の競争力回復と経済安全保障のために、同盟国と友好国の積極的な参加と貢献を勧めている。バイデン政権の包括的戦略同盟の概念が持つ重要性はそこにある。別の視点から言えば、米国の国力が以前より制限された状況のもと、国際社会の主要課題を同盟国と友好国に分担させる一種の「外注覇権国」(outsourcing hegemon)という印象をぬぐい切れない。

 米国の覇権的リーダーシップは、世界の平和と繁栄、そして安定に必要不可欠だ。国内外の変化と挑戦により、そのような指向点が揺らぐこともある。しかし、過去40年間、米国が見せてきたリーダーシップは、ときに変則的であり、中心が揺らぐたびに世界は不安になった。ブッシュ(父)大統領が掲げた「慈悲深い覇権国」の理想は、もはや不可能になったのだろうか。違いに対する排斥と自分たちだけの安全保障ではなく、包容と共感、共同安保と平和を志向する大戦略に対する期待は、消えてしまったのだろうか。今もなお米国に匹敵する国が存在しない現実のもと、協力的秩序と世界の未来を提示する米国の大胆なビジョンが切に求められる。

//ハンギョレ新聞社

ムン・ジョンイン| 世宗研究所理事長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1044812.html韓国語原文入力:2022-05-30 02:07
訳M.S

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