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[朴露子ハンギョレブログより] 私たちに言論の自由があるんだと?

登録:2013-02-07 15:52 修正:2013-02-07 22:30
朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov) ノルウェー、オスロ国立大教授

 私たちの頭に刷り込まれてしまった等式が一つあります。「悪しき全体主義」政権下では言論は宣伝扇動の手段にすぎないが、「善き民主主義」(と資本主義)は言論の自由を保障し「国民の知る権利」を守ってくれるという等式です。大多数が ―言論をあまり信頼していないにもかかわらず― そう信じているようですが、このような無邪気な信頼を多くが抱いているという点こそ言論が作り出したイメージであり、私たちの視野がいかに狭いかをよく物語っているようです。私たちは、たとえば自分たちが北朝鮮の住民に比べて外部の世界に対して遥かに客観的な認識を持てていると自慢しているものの、実は言論が作り出した見えない「檻」に入れられているという点においては、大きく見て両者にはほとんど差がありません。

 実例を一つ挙げましょうか。約1年前、電車を作る現代ロテムと現代商事におめでたいことが起こりました。UEFA欧州選手権の開催を控えて鉄道を現代化しようとするウクライナに約150両の車両を売り付けるなど、高額の供給契約を締結できたのです。企業の慶事は企業国家大韓民国のすべての構成員たちの慶事なので、「契約を勝ち取った」という朗報はあちこちに載せられました(http://news.mk.co.kr/v3/view.php? sc=30000001&cm=%C7%EC%B5%E5%B6%F3%C0%CE&year=2011&no=822569&relatedcode=&sID=501)。そこまではよかったのですが、その後、問題が発生しました。 現代ロテムの供給した車両はウクライナで「国民的な災い」になってしまいました。韓国の天候に合わせて製造された車両は氷点下40度まで下がる大陸性気候に当然ながら耐えられず、次々と故障しました。去年12月6日~20日までの15日間だけでも現代の車両は20回も故障するなど、ウクライナ鉄道の乗客たちを苦しめました。「誤った購買」に対する国民の不満が増幅し政府に対する批判が殺到しており(http://www.kyivpost.com/content/ukraine/pricey-trains-break-down-cant-operate-in-cold-weather-318008.html)、「ヒュンダイ」(ウクライナ語式の『現代(Hyundai)』の発音)は住民の間では最悪の悪口になってしまいました。車両の故障によって何日も暖房の入らない電車に閉じこめられ、様々な病気に苛まれなければならなかった人々の心情は当然理解されるべきでしょう。このことがウクライナの最悪の政治的スキャンダルに発展すると、とうとう大統領が現代ロテムの車両を買ったことは「誤りだった」と自己批判しました(http://www.kyivpost.com/content/business/yanukovych-labels-hyundai-trains-purchase-as-serious-mistake-318423.html )。ウクライナの英字新聞に目を通すだけでも簡単に分かることであり、ロシアのメディアでもずっと報道されていました。

 それでは, このことに関して韓国のメディアにのみ接する人々は果して知りえるでしょうか?そうですね。私は一生懸命検索してみたのですが、少なくとも主要なメディアにはいかなる記事もないようです。報道指針がなくなって既に25年以上も経っているにもかかわらず、現代ロテムと現代商事に不利な記事が出ない理由は?とても簡単なことです。『ハンギョレ』や『京郷新聞』のような左派自由主義的なメディアでさえほとんどを企業の広告に頼っているし、その企業の中で現代ロテムなどといった現代系列の企業は相当な比重を占めています。ということで、ウクライナの住民たちが「ヒュンダイ」につくづく嫌気が差しても、大韓民国の人々にはそんなことを知る権利などありはしません。企業の評判に問題が起これば、株価に繋がるため、メディアの自由とは、まさにここまでです。資本主義世界のいかなる「言論の自由」も株式保有者たちの「お金」には勝手に手を触れることはできないのです。

 私のことをどうか誤解しないでください。私はここで必ずしも現代ロテムを「誹謗」しようとしているわけではありません。問題があるとすれば、ウクライナの気候に合いもしない車両を無理やり購入した、実力と専門性に欠けたウクライナ政府にあるでしょう。少なくともソ連時代は鉄道の車両を100%国産で賄っていましたが、ソ連崩壊後の脱産業化の悲惨な結果と言うほかありません。そして今日のウクライナ(と大韓民国)の一部の「慣行」から推測すれば、それほどの規模の取引なら、おそらくその裏にはまた何らかの「別の取引」もあったと充分に思われますが、旧ソ連の領土で再び革命が起これば、このことも含めて「泥棒政権」(cleptocracy)の官僚たちのあらゆる不正腐敗や不当な行為などはすべて民衆の峻厳なる裁判を受けることになるでしょう。問題は、結局専門性などまったくない「泥棒官僚」たちをまともに牽制できないウクライナの民衆の今日の無能ですが、このことに関する報道が韓国のメディアでまったく取り上げられていないのは、私たちの「言論の自由」の真の水準をかなり正確に示しています。

 韓国のメディアたちは(いつでも入れ替え可能な、資本の手先である)高級官僚たちの子弟の兵役をめぐる不正には触れてもいいし、芸能人たちの私生活を好き勝手に掘り起こし「多数」の病的なのぞき見症を満足させつつ拡大再生産しても何の問題もありませんが、資本に本当に不利な話は絶対に載せられません。今は皆が忘れていますが、5年前2008年に大宇ロジスティックスという韓国の財閥がマダガスカルで130万ヘクタールの農地を賃貸してもらう契約を締結したと発表したことがありました。130万ヘクタールといえば、マダガスカルの全農地の約半分に及んでいるにもかかわらず、大宇はこれを借りると言っておきながら、前払い金さえも払わなかったし、貸り賃を出すつもりもまったくありませんでした。借りる目的は「我が国の食糧安保」と言いふらしながらです。もちろん、大宇にこのような前代未聞の特恵を(おそらく「ただ」ではないやり方で?)与えたマダガスカル政権は直ちに民衆の流血蜂起により退陣しなければならなかったにもかかわらず、マダガスカルで「大宇事態」が起った頃、韓国のメディアは果して何らかの報道を出したでしょうか?経済誌と主要日刊紙の経済面では大宇の「成功」を知らせたのみで、(一部の外国メディアとは違って)批判などはまったくしませんでした(http://mlbpark.donga.com/mbs/articleV.php? mbsC=bullpen&mbsIdx=461967&cpage=1&mbsW=&select=&opt=&keyword)。その後、マダガスカルで民衆反乱が起き、契約の履行は当然ながらうまくいかず、この事態そのものが忘れ去られてしまいました。「国益」、すなわち財閥たちの不当な金儲けを国是とし唯一思想と思っている大韓民国のメディアたちの「自由」の水準は、これだけでも見え透いていませんか。

 私たちには言論の自由という原則はあっても、その具体的な実践は資本主義的な秩序のもとでは事実上ほぼ不可能です。一面において、韓国メディアの不自由は私たちの心理的な安定に寄与しているともいえます。韓国の資本たちが外で何をしているのか、そして外で彼らに搾取され、毎日のように暴力や暴言にさらされている人々が財閥国家大韓民国をどう認識しているか、私たち韓国の大衆が知っていたら当然安らかに寝られない人々が増えるのではないでしょうか。もちろん、あるいはそうでないかもしれませんが。高空で徐々に体が蝕まれていく現代車の非正規労働者たちの絶望的な叫びに、多くの韓国人が耳を塞いで聞こうとしないのを見れば、保守化している社会で、連帯意識は次第に枯れているわけです。韓国の労働者たちに対する苛酷行為に憤りを感じない人々が、果して海外の労働者たちの問題に怒るわけがあるでしょうか。みなさん、大韓民国はこのまま行けば、本当に恐ろしい社会になってしまいます。連帯感、他者を「自己」の延長のように感じる意識のない人生は、いくら恵まれていようとも果して幸せになれるとお考えでしょうか。

http://blog.hani.co.kr/gategateparagate/55541 韓国語原文入力:2013/01/31 21:50
訳J.S(3593字)

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