韓国統計庁は9月11日、「8月雇用動向」を発表した。雇用率が前年同月対比0.2ポイント上がった69.8%、失業率は0.1ポイント下がった1.9%だという。統計庁の素っ気ない発表にいくつか強調したかったのか、雇用労働部が「参考」資料を出した。
「15歳以上の雇用率(63.2%、+0.1p)・経済活動参加率(64.4%、0.0p)は過去最高、失業率(1.9%、-0.1p)は過去最低を記録した」
1.9%の失業率は「求職期間4週間」を基準に失業者を集計し始めた1999年6月以後の最低値だ。驚くべき数値だ。2011~2023年の韓国の平均失業率は3.47%、最も低かった年でも2.7%(2023年)だった。ところが1.9%とは、これよりさらに低くなることは果たして可能なのかと思うほどだ。
米国では2021年10月のコロナパンデミックの時、相対的に規制を緩めたネブラスカ州の失業率が史上最低の1.9%を記録し話題になった。翌年2月には1.7%まで下がった。しかし、これは特別な時期に州単位で出た記録だ。米国の8月の失業率は4.2%だ。1%台の低い失業率は、タイのように労働人口のうち自営業者の割合が圧倒的に高い国など、いくつかの例外を除いては見当たらない。日本の7月の失業率も2.7%だ。
そうであるなら1.9%の失業率は「太平歌」(テピョンガ、太平を謳歌する歌)を歌っても良いほどではないか。ところが、これに注目して大きく扱ったメディアはなかった。なぜか。数値がそうなだけで、雇用市場の好転はなかなか体感できないためだ。
■安い短期・高齢者雇用だけが増える
雇用率の上昇、失業率の下落は錯視ではない。実際、経済活動人口の増加幅(+11万4千人)より就業者数の増加幅(+12万3千人)の方が大きい。ところが就業増加の相当部分が政府予算を投入して作った「高齢者雇用」によるものだという点で色あせる。8月の統計を見れば、60歳以上の人口は昨年同月に比べて47万人増え、就業者数は23万1千人増えた。政府は今年の高齢者雇用事業の予算分を昨年の88万3千個より14万7千個多い103万個に増やして編成している。
雇用率上昇の細部内訳を見れば、首をかしげるところがある。まず、男性雇用率が71.9%から71.3%へと0.6ポイント下がった。30代男性の雇用率が1.0ポイント下がり、50代も0.4ポイント下がった。60歳未満の男性雇用率は2022年7月が77.74%、2023年8月が77.67%、今年8月が77.64%と停滞状態だ。60歳以上の高齢者就業者の増加は男性が4万1千人、女性が19万1千人だ。
短時間就業者の比重が継続的に大きくなり、週当り平均就業時間は減っている。今年8月には34.1時間で、昨年より1.5時間減った。1~8月の平均でも38.7時間から37.1時間に減少した。短時間働く高齢者の仕事から得られる所得は大きくない。高齢者貧困率が高い状況で、政府が財政を投入して高齢者の雇用を創り出すことは望ましく意味あることだが、それによる雇用率向上に比べて家計所得に及ぼす肯定的影響は制限的だ。
実際、雇用率の数値が示す労働市場の活気に比べて賃金上昇率は高くない。雇用労働部の事業体労働力調査で今年上半期の賃金状況を見ると、勤労者1人当りの月平均賃金総額(403万2千ウォン=約43.6万円)は昨年に比べて2.4%(+9万4千ウォン=約1万円)の増加に止まった。2021年上半期の4.0%、2022年の5.8%に比べて低く、2023年(2.4%)と同水準だ。
雇用好調にともなう家計賃金所得の増加、これに基づく消費の増加で内需が活気を帯びることを期待するが、そのような好循環は現れていない。統計庁が8月30日に発表した7月の産業活動動向を見ると、消費動向を示す小売販売額指数は昨年同月に比べて2.1%減少した。小売販売額指数は、個人と消費用商品を販売する2700社の販売額を調査したものだが、7月の指数は99.6だ。2000年を100とする指数なので、物量基準での小売販売水準が2000年にも及ばないという意味だ。
内需沈滞が長期化しているが、韓国政府は政府財政支出を通じてこれを補完することは何が何でも拒否している。攻撃的減税で税収が貧弱になった状況で、財政支出の増加率を名目経済成長率より低く抑えている。今年の予算案はわずか2.8%増に絞っており、来年度予算案も3.2%増に抑えている。
政府と与党は、市場金利が大きく上がり家計の元利金返済負担が大きくなっているだけに、内需回復に役立つよう韓国銀行が急いで基準金利を下げるよう圧力を加えてきた。国内消費者物価上昇率も8月に2.0%に下がり、米連邦準備制度理事会(FRB)も基準金利を0.5%下げて通貨政策の方向を転換しただけに、韓国銀行が金利を下げる条件はかなり整えられた。しかし、ソウルと首都圏の住宅価格が上昇し、これに便乗するための住宅担保融資が急膨張し、金融不均衡が大きくなっていることがネックだ。住宅価格の上昇は政府の積極的な政策融資が火付け役を果たした。
■信頼していた半導体は株価暴落
政府は世界の半導体の景気回復にともなう輸出増加で景気が本格好転すれば、その効果が経済全般に広がると期待している。実際、半導体の輸出は増加している。4月以降、4カ月連続で50%以上増加し、8月にも38.8%増加した。良くなったが、加速がついてはいない。その中で「半導体冬説」がすでに頭をもたげている。
外国人投資家がサムスン電子とSKハイニックスの株式を投売りし、株価が急落している。米国の投資銀行モルガン・スタンレーは15日、人工知能(AI)による半導体好況は来年には崩れるだろうとし、ハイニックスの目標株価を26万ウォンから12万ウォンに下方修正した。モルガン・スタンレーは2021年8月にも「半導体の冬が来る」という誤った判断を示した報告書を出し、信頼性を疑われてはいるが、半導体景気に対する市場の憂慮が大きくなったことは否定しがたい。韓国の半導体生産額は国内総生産(GDP)の10%に達し、半導体輸出の割合は20%に達する。米商務省のアラン・エステベス産業安保次官は10日、韓国企業が作る高帯域幅メモリー(HBM)の中国に対する輸出統制の可能性に言及した。慎重な外交的対応が必要な部分だ。
こうした中で尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は19日、4日間の日程でチェコを公式訪問した。尹大統領はロイター通信に「韓国水力原子力のチェコ新規原発建設受注が円滑に確定するようにすることが今回のチェコ訪問の目的の一部」とし「この事業の成功が何より重要だ」と明らかにした。経済使節団としてサムスン電子のイ・ジェヨン会長、大韓商工会議所のチェ・テウォン会長(SK会長)、現代自動車のチョン・ウィソン会長、LGのク・グァンモ会長からなる4大グループのトップが同行した。この日、SKハイニックスの株価は6.14%、サムスン電子は2.02%下落した。